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殲滅戦 後編

 

 フィレスに力を貸すように頼み込む。正直、このままだと勝てはするが、他の冒険者が八つ裂きにされてしまう。

 そしたら恩を売れなくなくなって困るのだ。さぁ!俺と一緒に一狩り行こうぜ!


「………………」


 しかし、フィレスはまだどうするべきか悩んでいるようで黙り込んでしまう。なんでぇぇ?この状況になって悩むことなんてあるか!?


 俺は二度もお前の命を救ってやった救世主だぞ!その救世主の頼みを聞かないなんてそんなことある?なんのために助けたと思ってんだよ!


 ……はっ!ま、まさか、まだ戦いたくないとか言うつもりか?そう問うとフィレスは図星を突かれたような顔になり、俯いてしまう。

 ……え?マジで?うっそぉん。


 もうお前には逃げるか戦うかの二択しか残されていないんだぞ!なら、お前はどちら選ぶ?!となるべく感情を乗せて伝える。

 するとフィレスは顔を上げ、覚悟を決めたような顔つきで口を開く。


「……わかりました。私の力でよければ、いくらでも使ってください!」


 その言葉を待っていた!!さぁ、竜王攻略と行こう。とりあえず空を飛んで竜王と格闘中のアレン達の元へと向かうとしよう。


 ……俺は戦闘面ではあまり役に立たないので、サポートに徹さないとな。じゃないと俺も活躍しましたよ感が薄くなる!


 そんなこんなで竜王さんと対面したわけですけど、迫力凄いっすね。

 強面のヤクザの何倍も怖いぞ。顔面凶器ってこのことを言うんだろうね。


「……この状況でなおも我に歯向かうとは、何という蛮勇。無様だろうと逃亡すれば命が助かる望みがあったものを」


 おっ?なんかベラベラ話し始めたぞこの空飛ぶトカゲ。その自慢の翼をもいで地に這いつくばらせてやろうか?と挑発すると、ムカついたのか俺を執拗にブレスで攻撃する。


 縦横無尽に空を飛び回って回避する。やはりトカゲ風情、偏差射撃というものを知らないようだな!フハハハハハ!!……それに、俺にばかり気を取られていいのかな?


 俺がヘイトを稼いでるうちにヤツの背後に回り込んだミナとフィレスが短剣と爪で背中を攻撃する。

 打ち合わせしてないのに、意図汲み取ってくれて嬉しいわぁ。


 さぁ、次だ。アレンに左側面から攻撃するようになるべく大声で指示を飛ばす。


「……なるほど。そういうことであるか。【連射雨(ラピッドレイン)】」


 アレンは自身の周辺に無数の水を展開し、銃器のように撃ち込み始める。


「そんな見え透いた攻撃喰らうと思っているのか!」


 竜王は翼を大きく羽撃かせ、自身に向かってくる水の玉を風圧で掻き消す。


 ……かかったな?


 アレンに気を取られているうちにヤツの意識外の右側面からアレン以外の4人で一撃を叩き込む。


 GaaaaaAAAAAAAAAAAAA!!!!???


 ヤツが苦しみの悲鳴をあげる。クックック……人間の言葉が理解できるが故に、左から攻撃が来ると意識してしまったなぁ!マヌケがよォ!


「……我をここまでコケにしたのは貴様らが始めてだ……消し炭にしてやる」


 ヤツが怒気を孕んだ声でそう言い放つと周囲に熱がほとばしる。

 ……おぉ?なんかヤバそうな技を出そうとしてんな。……つまりそんな技を使わなければならないほど焦ってるわけだ。


 急いで散開するように指示を飛ばす。これならヤツも狙いが定めづらいはずだ。全方位範囲攻撃だったらやべぇけど、そこは賭けだな。


「燃え尽きろ……【灼熱地獄(インフェルノ)】!!」


 次の瞬間、ヤツの周囲に炎の球が展開され、そこから極太の炎のビームが四方八方に放たれる。クソっ!無差別攻撃かよっ!?


 全力で逃げ回るが、無数に飛び交うレーザーを上手く避けきれず体を焦がされる。この攻撃がいつ終わんだよ!っ!?アッツッ!!


 そうして俺たちの体がボロボロになる頃、ようやく攻撃が止んだ。……攻撃が止まったとはいえ、俺達も限界近いぞ……って、ん?


 竜王の様子をよく見ると、大技を使ったからか動きに疲れが見え始める。……なぁんだ。そっち限界近いんじゃぁん?


 ……強力な一撃を与えれば、アイツを地に叩き落とせるはず。……なら、これしかねぇ。


◆◇◆◇◆◇


 ヒビキさんに力を貸せと言われ、私は戸惑ってしまう。こんな状況になってなお、私は戦わないで済む道を模索してしまう。


「……もしかしてまだ、戦いたくないと思っているのか?」


 図星を突かれて、思わず体がビクつく。だが、ヒビキさんは続けて言葉を紡ぐ。


「お前には2つの選択肢がある。逃げるか戦うかだ。……逃げてもいい、ただ一つだけ言っておく。必ずお前の信念に従って選べ」


 その言葉に私は心を動かされる。……私の信念。……今逃げたらきっと私は自分のことが許せなくなるだろう。

 恩人を見捨て、1人でのうのうと逃げ延びるなんてそんなことはしたくないっ!私は自分の信念に従う!


「……わかりました。私の力でよければ、いくらでも使ってください!」


「よし来たっ!じゃあ行くぞ!」


「はいっ!」


 翼を広げ、天高く舞い上がり、父の元まで急行する。既にヒビキさんの仲間が戦闘を開始しており、苦戦しているのが見て取れる。


 急いで加勢しようと思ったが、私を静止し、ヒビキさんが父の目の前に向かう。


「……この状況でなおも我に歯向かうとは、何という蛮勇。無様だろうと逃亡すれば命が助かる望みがあったものを」


「あん?空飛ぶトカゲの分際で生態系の上位気取ってんじゃねぇぞ。地面に這いつくばらせてやるから楽しみにしてろよ(笑)」


 その言葉に父は怒りを顕にし、ヒビキさんに向かって自慢の炎による攻撃を繰り出す。だが、縦横無尽に逃げ回るヒビキさんには攻撃がかすりもしなかった。


 ……って傍観してる場合じゃない!この隙を突いて、攻撃しなければ。そう思い、父の背後に回ると私より先に短剣を持った女の子がいた。


「……手伝って」


「は、はい!」


 彼女と一緒に背後から攻撃を仕掛ける。鱗が硬いから、なるべく隙間を狙い、肉を削る。


 そして私たちの存在に気づいた父は、尻尾を振って私たちを跳ね除ける。……距離を離されたが、かなりダメージを与えたはずだ。


「アレン!左側面から叩け!!」


 ヒビキさんが仲間に指示を飛ばす。……声に出したら、父にバレるのではないかと思ったが、少し考えるとその指示を出した意図に気づいた。


 アレンと呼ばれた男が父に対して、魔法を放つ。それにより、父の意識から私たちが除外される。

 父は翼を羽撃かせることにより、魔法を掻き消すが、すぐ側まで近寄っている私たちの存在を感知できていない。


 その隙を突いて、父の体に全力の一撃を叩き込むと、父は悲鳴をあげながら身体をグラつかせる。


 あともう少しで倒せるかもしれないと思ったその時。


「……我をここまでコケにしたのは貴様らが始めてだ……消し炭にしてやる」


 辺りの気温が上昇する。……この状況を打開するほどの何かが来ると直感する。


「お前ら!バラバラに散れ!」


 私と同じように危険を感じ取ったヒビキさんが散開するように指示を出す。急いで距離を取り、いつでも動けるように構える。


「燃え尽きろ……【灼熱地獄(インフェルノ)】!!」


 父が繰り出したのは炎による全方位への無差別攻撃。炎の隙間を掻い潜りながら避けるが、避けきれず被弾してしまう。


 そして攻撃が止んだ頃には、私を含めた全員の体がボロボロになっていた。

 疲弊しているのも相まって体を動かすのでさえ、苦痛を伴う。


 ……ただ、ボロボロなのは父も同じことだ。あと一撃でも加えられれば。致命傷になるはず。


 どうすれば倒すことが出来るのかを思案していると、服も肌も焼け爛れているのにも関わらず、希望に満ちた顔をしたヒビキさんが私の元へと近づいてくる。


「フィレス……あとはお前に全てを託したいんだが、いいか?」


「……えっ?」


 ヒビキさんの言葉に私は驚愕する。そして更にヒビキさんは言葉を続ける。


「ヤツの元に絶対たどり着かせる。……だから、お前がヤツにトドメを刺すんだ。出来るか?」


 その問いに私は即答する。


「はい!」


「……よし、なら行ってこい!」


 ヒビキさんに背中を押され、父の元へと向かう。体が悲鳴を上げるが、構わず進み続ける。


「【付与・強化&敏捷《二倍(トゥワイス)》】!」


 その声と共に体が一気に加速する。力が湧き上がるのを感じる。加速した勢いのまま、距離を一気に縮め、父の目の前までたどり着く。


「……フィレスっ!!」


 父は驚嘆の声を上げ、私を睨みつける。……父にもやむにやまれぬ事情はあった。

 父の気持ちは分からない訳ではない。だからといって見逃すわけにはいかない。私は私の信念に従う。


 拳を固く握り締める。今までの思いを全て拳に乗せて、決別の一撃を叩き込む。


「……さよなら父上」


 その一撃により、空を支配する龍の王は地に墜ちた。


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