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79.布特化

「あれ?タマちゃんお帰りの時間?」


タマちゃんはボビーの深層心理に刻まれたトラウマに気がついていた。

だから部屋にボビーが入ってきたときに、薄く光ってしまう姿を見せないように隠れ、今も“刺激“をしてはいけないからと姿を消した。


しかし、ルークは他の精霊と同じようにタマちゃんも帰ったと思っていた。


「これでどうかしら?」


キースのデザインしたレース編み部分は面積を広げつつその繊細さを残し、材料を変えることで、その風合いやデザインまで大きく異なってみえた。男性用も同じレース編みを太ももの左右につけることでお揃い感をだしおしゃれな仕様になっている。


「デザインしてるときも作ってる時も、仕上がったものを着てもらう時も全部好きだわ!」


バーネットにとっても会心のデザインのようだ。


「材料が主に綿なら濡れて透けることもあるから、前面は二重張りにして、色も濃い色がいいと思う。薄いとこれも透けるのよ。オレンジ色とかエンジ色、ネイビーも良いわね。どの色にする?」


施設内で浮かないような色がいいと思ってきた家族だが、今言われた三色はどれも合うように思えて一つに絞れない。


「エンジとネイビーがいいかな。誰でも着れる色だよ。オレンジもいいけど、あそこのしっとり感というかゆったりが薄まるかなって。」


「確かにそうかもな。俺はルークの意見に賛成だ。」

「私もいいと思うわ。」

「私も。」

「それと、施設内で着用出来るこう言う服もあったらどうだろうか?色は同じで二種類。」


キースは作務衣に似た服をノートにさらりと描く。


「「「おお。いいねぇ。」」」


「サイズはどうする?今いるメンバーがそれぞれ着られるように男性は大と中と子供用。女性は中と小でいいか。身長が高いと同じものは裾が足りなくなるからな。」


キースの言葉にバーネットは


「そこは任せて!専門家よ?」


「これでは綿花が足りないでしょう?馬車の綿花を全て持ってきましょう。」


ブライアンはボビーを引き連れて馬車に戻ると言うので、ジェイクとキースも手伝うために部屋を出た。


時間経過とともに初めてのスキル使用を魔石なしで使わねばならなくなっていると感じたバーネットは、不安そうだ。


「あの。魔石を持ってスキルの使用をしたことはありますか?」


キースはバーネットに尋ねてみる。


「あるにはあるわ。どうしてもその日に縫製のスキルを使わなくちゃいけないのに、魔力の残りに不安を感じた時とかにね?」


「魔力量はC、魔力操作はBって標準より上ですよね?」


「そうなんだけどね。魔力量がCだと、凝ったデザインの縫製では、一日に何枚も作れないのよ。」


そりゃそうだ。手縫いの針子だったらデザインによるが、数人がかりで数ヶ月はかかるだろう。それを一日に数枚作れるだけで規格外ではないか。

スキルのある世界だからか、バグってるなぁ。


扉が開いて男性たちが綿花を抱えて入ってきた。

リビングテーブルの上が山のような綿花で覆われた。綿は嵩張るからね。


「では、バーネットさん。俺の魔力を使ってスキルを使ってみてください。」


「「「はぁ?!」」」


ジェイクは商人三人の表情を見てまた笑う。

何度もやると、人が悪いだけになっちゃうよ?


「ルークは魔力タンクなんだ。人に繋げられて魔石の代わりになる。しかも、魔石よりもその魔力量は桁違い。今のところ問題は起きていないので、やってみろ、バーネット。」


「やってみろって!ジェイクじいちゃん、説明足りたのかなぁ?」


「大丈夫よ、バーネット。うちの家族は全員体験済みの、体の調子まで良くなるおまけ付き。損はないから信じてやってみてよ。」


ハンナは元気に笑う。

家族同士でこんな顔や口調はそれほど見ない。ハンナとバーネットは友達のようなものなんだなぁ。

年齢的に、王宮やら宮廷やらで関わった事があるのかもしれない。


「わ、わかったわ。やるわ!やってみるわ!ルークさん、お願いできますか?」


「はい!」


ルークは返事をしながらバーネットの背中に右手を置き、こちらの準備は良いと伝えた。


あとはバーネット次第だ。

ルークは自分の腕につけている安心君を見ようと目をやると、


ない。着けてない!

そういえば、朝の緊急通知で慌てておきたまま。イヤーカフもつけてなかった!


「『衣類作成!』」


バーネットがスキルを使ったので、慌てて気持ちを切り替える。


みんなの納得できるものが仕上がりますように!


いつものように魔力が少しだけルークから抜けたと思ったら、ルークから魔力の光が溢れ出し、右手を通じてバーネット全体を包み込む。


「「「「「「ええっ!」」」」」」


えっとー。これもタマちゃん効果?いつも見えてるのよりも光が強い気がしまーす。

そして、これもしっかり皆さんに見えているようです。うわーん!


バーネットの右手から魔力が流れリビングテーブルごと強い光が包み込んでしまう。


みんなに見えてるってことはさ、タマちゃん帰ったんじゃなくて、隠れてただけなのねぇ〜。


「そうでーす。これでも全部じゃないでーす。ルークの力は解放されてませーん。溢れてる分だけでーす。」


後ろの首あたりで声が聞こえる。


「はぁ?じゃあこの光は俺の魔力の余剰分で、いつもは見えてないだけってこと?」


「ルークの操作はGなのでーす!でーす!」


ここにきてGが関係するのかー!!

って、こんなに大量ならGとか関係なくない?

いや、操作がGなのだ。詰まっててこれだけ出てG!


タマちゃんと会話している最中も、光が収まらず、数分してやっと収まり、リビングテーブルの上には全員分の湯浴み着と作務衣、使われなかった綿花が広がっていた。


「「「「「「「…。」」」」」」」


光が収まった頃には全員放心状態。

そうですよね?俺もびっくりしてるとこです。


タマちゃんの力、すごいね?


「ルークもなーのでーす。」


みんなの視線が刺さる。

でも俺のせいじゃないよ?誰のせいでもないよ?たまたま今回がこんな感じになっちゃっただけだよ?


「ルークちゃん。この強い光を出して、あなたは大丈夫なの?」


デイジーはルークの両手首を両手で握って聞いてくる。

あぁ、心配されてしまっている。

ついでに、なんで安心君を付けていないのか目が尋ねてくる。

目の奥が暗い気がします。

ごめんなさい。


「あー、えっと、ちょっと部屋に忘れものを取りに行ってくるので、鑑定をしておいてくださいっ!」


そう告げて廊下に出た。


ごめんなさーい!こんなことになるって知っててもやっただろうけど!

今回は俺が言い出したわけじゃないけどっ!


部屋に入ってベッドのヘッドボードに置いてある安心君を取り上げて腕に巻く。


安心君からは安定の青色が光っている。


ですよねー。知ってました。いえ、知らされてます。タマちゃんから。

魔力はいつもと同じくらいしか抜けた感じがしなかったしね。つまり魔力消費はいつも通りってこと。


トボトボとリビングに戻るため廊下に出たが、足が止まってしまう。


あの結果を出してしまった俺はなんとなく居た堪れない気持ちになっていた。


なんとなく中庭に出てウッドデッキに座る。

ハリネズミはデイジーばあちゃんが世話をしているらしい。ハリネズミ執事用のグローブが返ってきていない。


「はぁ。俺は一体なんなんだろうなぁ。」


みんなの鑑定をするたびに思うのは、自分で自分を鑑定してしまったあのステータスについてだ。


神力も精霊力も言葉だけをなぞれば、“神様の力“であり“精霊の力“だ。それだと魔力は“魔の力“になってしまうので違うのかもしれない。


なら、人間が使える力を魔力と定義したら、精霊が使える力は精霊力になるし、神様が使える力は神力になるのだろうか。


人間が使える力を人間力って名前にはできないもんな。別の意味になるからね。


みんなにもあるのだろうか。誰も知らずにきた神力と精霊力を持っているのだろうか。

それならまだマシだ。量はどれも無限大だったから、そこはもう諦めるとして。


仮に人間の中で自分しか持たない力だとしたら?俺って人間じゃないのかもしれない。

なんて考えてしまう。


人外?

規格外とは言われるけれど。人外は嫌だな。

嫌なのかな?人外であっても俺は俺だし、家族は見限ることはしない気がする。

なら問題はない?


考えても仕方がないことを考えてしまうと、少し落ち込む。明るく元気でいたいのに。


「あーぁ。楽しいのに、少し憂鬱。不思議な感じ。」


真上から西に傾いた太陽がジリジリと肌を焦がすのを感じて廊下に戻る。ガラス窓に手をついてため息をこぼした後、ガラスに手垢をつけてしまったことに気がついて慌てて服で擦る。


よし!悩んでたって何も変わらない。

戻るとするか!


リビングに向かって歩くと、曲がれば玄関ポーチの角に、白くてまるッとしたお尻が引っ込んだように見えた。


「んん?」


白いから精霊だろう。ルークの友達精霊の中にはいないサイズである。

お尻の消えた場所をじっと見つめながら、キッチンの扉、リビングの扉をすぎて角までやってきたが再度出てくることはなかった。


見間違えかな?


とは思いつつ、そんな見間違えをした事がないので、一応角を曲がって確認してみることにした。


ヒョイと角から顔を出すと、玄関から一番近い扉の前をゆっくり奥に進んでいる精霊の後ろ姿が見えた。おそらく扉の前を行ったり来たりしていたのだろう。


「こんにちは。誰のお友達かな?」


と、声を掛けてみると、ビクッと動きを止めて恐る恐るこちらに顔だけ振り向いた。


丸々として、耳は小さくて尾は房状。齧歯類っぽいネズミみたいなリスみたいな。体長は五十センチくらいだろうか。

見たことがあるような気がする。どこかで見た。

このもっちりした体に警戒心が強そうに見えつつ、温厚そうな肉体。


「あ。マーモットだ!マーモットの精霊さんですよね?」


うんうんと、頷いてくれる。

無口なタイプかもしれない。

友達精霊は一人とは限らないので、部屋の中にいるどの人の友達であってもなんらおかしくない。なんなら自分の友達かもしれない。


目の前のマーモット精霊さんは顔を激しく横に振る。


ですよねー。


ルークの友達になる子たちは、体当たりしてきてくれるような子が多い。こんなに心配そうな顔でうろうろ廊下を歩くタイプはルークの友達にはならないだろう。タイプが違うのだ。


「扉開けたら一人で入れますか?」


マーモット精霊は少し考えてからゆっくり横に顔を振った。

緊張しいなのか?俺以外は誰もみる事ができないと思うけど。


「じゃあ、抱っこさせてもらっても?中に入りたいんだよね?」


マーモットはタプタプの二の腕を左右に広げた。抱っこしてもいいよ。と言ってる気がした。


「では失礼しまーす。」


マーモット精霊さんの二の腕の下に手を差し入れると、その手を顔全体を動かしてみてくるではないか!可愛いぞ。


そのまま上に持ち上げようとするけれど、ちょっと重くて持ち上げられない。腕の力では無理そうだ。

マーモット精霊さんの目の前にしゃがみ込み、両手で脇の下を支え、膝の力で立ち上がると、抱き上げる事が出来た。

そのまま両腕の中に移動させて右腕でお尻を支えて左腕で抱き締めさせてもらった。


うん。

ドアノブは回せそうにない。

誰かに開けてもらうしかない。


左のゲンコツを扉に寄せてノックをしてしばらくすると、扉が開いてジェイクが顔を覗かせる。


「なんだルークか。こっちの扉?ノックまでして、ん?精霊か?」


両腕で何かを抱いている風なルークを見てジェイクは精霊と推察する。

というか、それしかない。

こんな時にジェスチャーゲームはしないものだ。


マーモットの精霊さんを抱いて中に入ると扉を閉めてくれた。


「うん。初めましての子なんだけど、絶対に俺の友達じゃないって言ってて面白かったよ。中に入りたいみたいだけど、一人じゃ入れないっていうから抱っこして入ることにしたんだ。」


「そうか。恥ずかしがり屋なのか、勇気が出ないのか。緊張しいなのか。どんな動物型だ?なんか大きそうだな。」


ソファに座りながら膝に降ろすが、顔をルークのお腹に擦り付けているので、精霊は周囲の人を見ていない。

みんなはすでに落ち着いており、ソファに座って新しいお茶を頂いていた。


「マーモットだよ。」


「え!マーモットですか!?」


ボビーがまさかの大きめの反応を示した。

ブライアンもバーネットも少し反応があった。


ボビーの声にマーモットの精霊さんも反応を示した。


ルークに抱きついたまま、顔をボビーの方へ向けてボビーを確認すると、ぱぁぁ!と表情が喜びに変化して両手をボビーの方へ伸ばし始めたのだ。


「おお。ボビーさんの友達精霊さんなんですね。ボビーさん、ちょっと膝を失礼しても?」


「え?はい?」


戸惑うボビーさんに、もう一度マーモットを抱き上げて引き渡す。


もちろんボビーさんは何も感じないはずだ。


「ええと、本当にここにマーモットの精霊が?私の友達精霊?」


誰もがそう思うだろうが、ルークの目には、大喜びでボビーさんを抱き締め、顔を頬をお腹に擦り付けているマーモットが見えている。めちゃ可愛いのだ。


「はい。喜んで抱き締めてますよ。」


せっかくソファから立ち上がったので、鑑定盤を取りに行き、ボビーさんに向けて


「良いですか?」


鑑定しても良いですか?と暗に尋ねる。

微妙な表情を一瞬したが、小さく頷いた。


じゃあ、やりますか!ポチッとな。


---

ボビー 45歳 元ガラス工房職人

スキル:ライト

    加工

魔力量B

魔力操作B

---


「うわっ!ライトで苦労した方でしたか!」

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