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57.コンプレックスジャーニー

「随分とシンプルなイヤーカフだねぇ?それじゃあ売れないよ。」

「…。」


クオンさんが無言だ。空気を読んでくれたのかな?大人の対応ありがとう!


「試作品だからね。あえてシンプルにして、他と差別化してあるのよ。」


「ん?どう言うことだい?」


アイリスが説明をする。言葉でどんなに伝えても、実際に見なきゃ理解は出来ないだろう。

今まで誰も成し得なかった物なのだ。


朝食後に使ったばかりで、リビングの端っこに立てかけてあった探知盤をリビングテーブルに再び置く。

置きっぱなしの商会との契約書類は端に寄せた。


「で?これがその探知盤?ってやつかい?」

「随分と大きいですね。(ボソリ)」


商人二人を前に、アイリスは起動させて、午前中と同じ説明をしていく。


ほほう。とクオンさんの頭の上で、余裕顔を見せていた白キツネさんは、アイリスの説明が終わる頃になると、尻尾をピンと高く上げふるふると震えていた。


「ちょちょちょーい!ちょいちょいちょい!!ルークさん!なんですか?これはっ!なんと言う物を作り出したんですかっ!」


その言い方可愛いな。

「ダメだった?」


「ダメも何もっ!これは早急にお知らせしなければならない事態ですよっ!」


「ええとー?お知らせ?」


シュバっとやはり風のように消える白キツネさん。動くたびに白キツネさんの周囲に風が流れるのを感じる。


これはやっぱり風属性なのかな?

そうなんだろうなぁ。


俺の友達に動くたびに周囲の軽いものを動かしちゃう子はいないから、俺に風の属性はないってことなのかも。


にしても、この探知盤とイヤーカフ、安心君、ダメだったの?

どこが?どの辺が?


まぁ、どこかにシュバっといなくなっちゃったし、中止しろとも言われなかったので、あちらにはあちらの事情があるのかもしれないな。


「ルークちゃん、大丈夫?何かダメだって?」


隣に立っていたデイジーが心配そうに顔を覗き込むので、大丈夫だと思う。と告げた。


商人二人は驚きで声が出ずに固まっている。


「二人とも戻ってきて!それでね?このイヤーカフの魔石がどれくらいの期間持つかと、探知の距離が地図上でどこまで表示されるのか。なんかをね、検証したいと思っているのだけど…。」

「モニターなら喜んでやらせてもらうよ!」

「あ、うん。ありがとう。」


両手をリビングテーブルに叩きつけ、被せて発言するサーシャ。


こんなの、面白すぎるじゃない!誰より先にモニターできるなんてっ!!寝ずに急いで来て大正解だったわ!クオン様々ね!

とでも思っていそうな顔をしている。


真顔のクオンも楽しそうに、見え…る。


「ただね?渡せる安心君なんだけど、音声通知が無いものしか渡せないの。」


「そうなのかい?別にそれでも問題無いけど。加工で出来ないってこと?」


「私の属性では魔力が足りなくなって、倒れかけちゃって。使用禁止になったの。」


ちらりとルークを見る。


「当然です!その加工、今後永久に禁止!」


「え!?アイリスの魔力量はAだろう?魔力操作だってAだったじゃないか!それで足りなくなるって…あぁ、あの属性とかってやつか。」


苦虫を潰したような嫌な顔で低い声を出し始めるサーシャ。


「えぇ。私は水属性らしくて。」


「そうかい。…音は何属性になるのかねぇ。他に誰か試したやつはいないのかい?」


大分嫌そうなサーシャにハンナが口を挟む。


「ルークが言うには、風の属性ではないかと。知られていないから、加工スキルで苦労している人たちに試してもらおうって、さっき話していたのよ。」


「かぜー!?風って、風かい?そんなのがあるのかねぇ。」


「サーシャの加工スキル使ってみたら?(ボソリ)」


「クオン…あんた、何を言い出したんだ…。」


めっちゃ険悪になった?どうしたの!?

サーシャは腹の底から野太い声を出して、クオンを威嚇するように睨み付けている。

何かの痛みに耐えるような、辛そうな表情に見えた。

この星に生まれて、怒る人を初めて見た。


「だっ!…子供の頃どんな加工も時間がかかり、それから無理して使って死にかけたり。(ボソリ)」


「そうだよ!ほとんど何も出来ないんだよ私は!」


コンプレックスになっちゃったんだなぁ。

それでこんなに怒っているのか。

ん?あれ?


「ガラスの加工もダメ、レンガの加工もダメ、竹の加工すらできず、デイジーたちの公共事業でも役立たず!それがアタシだよ!」


「だからこそです。これを試してみても良いでしょう?チャンスなのでは?(ボソリ)」


んんんー?

商人さん、夫婦で何やら話してますけど、あれあれ?なんか見落としてない?俺…。


ガラスは土属性だろう。レンガも土属性。竹は草属性でしょ。ばあちゃんたちの公共事業ってことは、土属性と水属性だろう。

他に何属性があったっけ?

後は…火と、風?


小声でアイリスに尋ねる。

「ねぇ、母さん。」

「どうしたの?」

「火って誰でも一度は試してみるもの?」

「室内灯が普及するまでは、使える人を見つけるのが急務だったから、誰でも一度は事業支援で使ってるはずよ。」

「そっか。うん。それなら…。」


夫婦喧嘩をしている二人にちょっと大きな声でルークは伝える。


「サーシャさんとクオンさんの属性は風だと思います!」


「「は?」」


「「「「「「え?」」」」」」


「ルークちゃん、さっきの精霊さんと関係があるのね?」


デイジーは見当がついたらしい。


「うん。二人の友達精霊さんは、風属性だと思う。」


「「はぁぁ???」」


あ、色々言っちゃダメだったやつ?

ジェイクを見ると


「まぁ、今はまだ調査中なんだが、俺たちには見えないけれど、ちゃんと友達精霊が着いててくれるらしいぞ?」


「その精霊の属性と友達の人間の属性は一致しているというのが、ルークの見解だ。」


ジェイクとキースがそう言うと、サーシャは「はぁ?精霊?友達ぃ?何言ってんだい。」と呆れている。


そうか、普通はこう言う反応になるのか。

勉強になるな。


キースは鑑定盤を持ってきて、サーシャに向け頭を傾ける。

使って良いかを尋ねているようだ。


「ま、何のためかしらないけど、良いお取引をお願い出来るなら、しても良いよ。どうせ碌な鑑定結果は得られないだろうけどね。」


「母さん、朝作った音無しの安心君と魔石持ってきて。」


「ごめんなさい。この家にある魔石は私が全部使っちゃってもうないの。っていうか、安心君、作ったの話したっけ?」


「許可出したしね。母さんたちなら作るでしょ。魔石はないなら良いよ。安心君だけで良いからお願い出来る?」


「了解。持ってくるわ。」


魔石がないなら、鑑定結果次第で魔力接続しちゃえば良いよねー。

今のところ、良くない副作用的なの誰にも現れてないしー。


キースがサーシャとクオンの鑑定をした結果を見せてもらう。


---

サーシャ・エアール 48歳 王宮御用達商人

スキル:加工

魔力量 D

魔力操作E

---

---

クオン・エアール 50歳 王宮御用達商人

スキル:風向

魔力量C

魔力操作C

---


あはは!これ絶対風属性だよ。

苗字エアール。エアールって!!

エアー、空気じゃん!

え?違うって?いや、絶対そうでしょ!!

それに、


「クオンさんのスキル、風向き?ふうこう?風向きを読むのか。あぁ、商人さんに生えてるってことは、商品の売り時とか買い時を読むためのものか。面白いな。」


「「……。」」


「こりゃ、二人とも風属性決定じゃん!」


「それ本当?」「本当なのですか?(ボソリ)」


「あれれ?また声に?」


「「「「出てた」」」」


「ルークちゃん、気をつける気ないでしょう?」


デイジーだけが笑っている。みんなの目は呆れを表しているようだ。

ごめんなさい。


ジェイクとキースは呆れながらもルークの後ろに立ち、肩に手を乗せた。

ドンマイって感じ?ありがとうじいちゃんたち。


「あー。解った解った!トーマスがなんであんなに騒ぎまくってたのか、その一端を見たよ。」

「これは想像していませんでした。(ボソリ)」


「「規格外すぎる」(ボソリ)」


え?すぎる?やりすぎっこと?


リビングの扉からアイリスが入ってきて安心君を差し出す。


「持ってきたわ。」


ルークはアイリスから一つ受け取ってサーシャに向き合い、その腕を取る。

サーシャは不思議そうな顔をしているが、説明なしで安心君を手首に押し付ける。

問題ない。青い光だ。


安心君を離してサーシャに告げる。


「えっと、確か新しいスキルを試す時は魔石を使うようになったんですよね?ここには回復系のスキルが使える人は居ませんし。」


「あ、あぁ。最近はそうだね。でも魔石はないんだろう?」


「そんなわけなので、魔石の代わりに、トーマスさんと同じく、俺と魔力接続してみませんか?」


「はぁぁぁ??」


家族のみんなは笑っている。クオンは何故か少し不穏な空気を出している(ルークがサーシャに触れたからです。)が拒否の色を出していない。なら、サーシャの気持ち一つ。


みんなでサーシャの答えをじっと待つ。

じぃぃっと見つめられて、耐えられなくなったのか、


「はぁ。解った、解ったよ。でも副作用はないんだろうね?」


両手を顔の横に上げて顔を降り、ルークの後ろに控えていたジェイクとキースを見る。


「俺たちもやったが、体調が良くなったくらいだよ。」

「私もね!」


「え?アイリスまで?それは良い副作用じゃないか!」


ちょっとやる気が出たらしい。

見た目は二十代中身はアラフィフ。

何か不調があるのかもしれない。


「あーもー!!勿体ぶってても仕方ない!やってやるよ!」


そう言うサーシャの右手に安心君を持たせて、左手にルークの右手を繋ぐ。


サーシャは何故か出来る気がしてきた。

こんな気持ちになったのは初めてで心が躍る。


「あ、探知盤とこっちの安心君とそれが繋がるイメージでね!これが一号、こっちが二号、それが三号で、私が持ってるのか四号よ。」


「あー!アイリス!ならその四号も貸しな!二ついっぺんにやってやるよ。」


「え?」


「なんか、出来るっぽい。」


そう言うとアイリスから四号を奪い、三号と重ねて持って深呼吸をした。


「『加工』」


サーシャの背中が少し光って服が揺れた。

ルークは揺れたことで光っている事に気がついた。

あれ?白キツネさんいないのに、光の中に白キツネさんの気配を感じる。


ルークの右手から少しだけ魔力がサーシャに移動し、サーシャの胸に集まり、右手に流れるのを感じる。サーシャも感じているのだろうか。


右手に持つ安心君三号と四号が光り、そして収束した。


サーシャは「確認して。」と安心君三号四号をアイリスに渡す。アイリスは受け取った安心君を一つアーサーに渡して、音声通知の確認をする。


テーブルに置いてある一号を持ってサーシャの手首に付ける。緑色の光を放つのを確認した。


魔力残量は申し分ない。属性は風に決まりだ。


ジェイクとキースもそれを確認し、キースは再度サーシャに向けて鑑定盤を起動した。


---

サーシャ・エアール 48歳 王宮御用達商人

スキル:加工

    音声付与

魔力量 D

魔力操作E→C

---


「う、うそ、だろ?」


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