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56.ミキシングシェイク

両手をあげて喜ぶルークの後ろから、アーサーがやってくる。


「これ、渡しておく。これがあれば二人で仕上げられるでしょう?」


リビングテーブルからダイニングテーブルまでの短い間を歩きながらスキルを使って作った、円形の盤と刃が潰れている四つの羽根。


「あ、ミキサーの羽根!父さんありがとう!!」


「「ミキサー?」(ボソリ)」

リビングで耳をそばだてる商人たち。


「あぁ、じゃあ俺は仕事しちゃうから。あとはよろしく。」


リビングに戻るアーサーをみんなで見送って、渡されたミキサーの羽根を眺める。円形の盤は基盤だろう。


「刃は潰れてるのね。これで大丈夫なのかしら。洗う時危険はないけど。」


ハンナは刃が潰れていることが不思議に思うようだが、大丈夫なはずだ。

ジェイクとキースはアーサーの作った物をじっくり触って眺めて確認をする。

二人で顔を見合わせて


「「じゃあ仕上げてみるか」」


何ができあがるか知らないアイリスとデイジーはワクワク顔で見ている。

知っているハンナとルークもドキドキだ。


「「せーの」」

「『外装生成』」「『加工・生成補助』」


「「何そのスキル!」」


ハンナとアイリスは聞いたことのないスキルに驚いているようだが、デイジーとルークは今朝既に見ているので驚きはない。


二人は淡く輝き、置いた円形の盤と羽根は浮き上がり光に包まれ、それはやがて姿を現した。


つるりとした円柱のガラスの容器にゴムの蓋、円形の基板を包むくり抜かれた木材にガラスコーティングされた本体とボタン。

それは完全にオシャレなミキサーの姿をしていた。


「「「「「おお!」」」」」


「なにそれ!」「なんですかそれはっ(ボソリ)」


流石の商人、何が作られるのか気になって、契約の話もそこそこに、ズズイと近寄って来ていた。

白キツネさんはクオンの頭の上に乗り、やはり興味津々でこちらを見ている。可愛い。

クオンさんの頭頂の毛がふわふわと揺れている。


いや、二人は契約の話をしてよ。

でもこれも仕事につながる…のかな?商人だし。


「いや、まだ試作第一号だし、な?」


ジェイクは勘弁してくれと少し慌てるが、商人二人は出来上がったばかりのミキサーに興味津々だ。


「とりあえず、試してみようか。ハンナが使ってみるかい?」


「え?良いの?なら作ってみたいものがあるの。」


キースにモニターの立場を譲られ、ハンナは冷蔵庫へ。冷蔵庫から必要な食材をトレーに移して持ってきた。


「ルークが、ミキサーは“液体と一緒に入れた固体を潰してジュースが出来る“って言ってたから、まずはジュースを作りたいなって。」


ルークは、ガラスのまな板で桃を切り分けていくハンナとテーブルの上のミルクを見る。


桃にミルク…

ここで取れた桃はジューシーで甘い。

ここのミルクは濃厚で甘い。

うん。あれだな。


「ハンナばあちゃん。ピーチシェイクにしようよ!」


「シェイク?シェイク…知ってる気がする…」


緩いトリガーに、左手を額に当てて記憶を探るハンナをよそに、急いで急冷盤を取りに行く。

持ってきた急冷盤をテーブルに乗せ、ルーク専用の踏み台を移動させ上る。


急冷盤の上にハンナが切り分けた桃を乗せ、起動させる。完全に凍らせるわけじゃないから短時間で良いだろう。


その間に、ゴムの蓋を開け、羽根が取り付けられたガラス容器を水で濡らして下準備をする。


「あ、母さん、魔力電池持ってきてくれる?」


「あ、はい。何個あれば良い?」


基盤の入っている本体の裏を確認して二つお願いする。


「ルーク、出来そうだわ。」


復活したハンナは急冷盤の上の桃を確認し、レモンを取りにいってくれているようだ。有り難い。


魔力電池が来るまで、コップの準備をしようかな。と思ったタイミングで、キースがテーブルにコップを置いてくれた。

お客様を入れて九人分なので小さめのコップを準備してくれている。


お味見程度で十分だからね。

さすがじいちゃん!でも


「もう一つ追加してもらっても良い?」


「精霊が来てるのか?」


「精霊?そういえばルークって。」

「ルーク君は見えると王宮内では有名ですよね。(ボソリ)」

「あの子がそのルーク本人ってことかい!?」

「そうでしょうね。(ボソリ)」

「市井では知られてないね?」

「騒いでいるのは主にトーマス殿ですからね。(ボソリ)」

「帰還者の中での話にしないと、刺激されちまう人が出てきそうだ。」


商人二人は何やらやり取りをしているが、小声なのでみんな気がついていない。


「はい。ルーク。魔力電池よ。」


「母さんありがとう!」


魔力電池を本体に接続して蓋を閉め、その上にガラス容器を置いて準備をする。

あとは簡単だけど、ハンナばあちゃんにミキサーの初使用をお願いしよう。


「ハンナばあちゃん、そろそろ桃の準備は良いと思うから、入れちゃってくれる?レモンはぎゅっと絞って。ジュース作る感じでお願いします!」


「ええ。ありがとう。任せて!」


ハンナは急冷盤から桃を持ち上げガラス容器に入れていく。


カラン、カランと音が鳴る。


「「桃が、固まったのか?」(ボソリ)」


商人二人は急冷盤を知らない。凍ったフルーツも知らないのだ。この星で見るのは貴重な氷くらいである。


「「え?どういうこと?」(ボソリ)」

「硬い桃でもあんな音はしないよね?」

「はい。見たことも聞いたこともないです。(ボソリ)」


と二人でざわざわしているが、クオンの声はやはり小さい。驚いても小さいのか。


とぷとぷとミルクを入れて蓋をする。

説明せずとも蓋をしっかり押さえているのは、前世の記憶からの行動か。


「では起動するわね。」


ミキサーの仕様は、商人が来るまでわちゃわちゃしていた時にハンナも居たので知っている。

長押ししている間だけ、ガラス容器の下の羽根が回って具材を粉砕するのだ。


ポチっと指で押すと、

ウィィィーン、ガガガッ

と羽根が回り始めて桃の薄い桃色とミルクの白さが中身が混ざりあっていく。


中を横から覗くと、ちゃんとモッタリしているように見える。

ヨシヨシ。うまく行きそうだ。


中身の色が一色になった瞬間、ハンナは指を離してミキサーの動きを止めた。

うんうん。良いタイミングだ。さすがばあちゃん!


ゴムの蓋を開け、出来上がったシェイクを少しだけコップに注いでもらって味見をする。

シェイクを知っているのはルークだけだからだ。


そっとコップを傾けると、ドロリとした液体になっているので、口に入るまで時間がかかった。

その時間もワクワクしてしまう。

やっと口に入り、その冷たさ、甘さ、食感をしっかり味わい、コクリと嚥下した。


「ハンナばあちゃん。めっちゃ最高!」


仕上がりを気にしていたハンナは喜んで、みんなに行き渡るようにカップに分け入れ、その一つをルークに渡す。精霊さん用だ。

受け取ったシェイクを手に、商人さんの後ろに回ると、白キツネさんはシュルッと降りてきてくれた。


どうぞ。お味見してください。


「どうもありがとう。いただきますね。」


もうダイニングテーブルにはみんなが集まっていたので、ハンナは「どうぞ」とテーブルの真ん中にシェイクの入ったコップを移動させる。


みんな素早くコップを受け取ると家族みんなは


「「「「「「いただきます!」」」」」」


と、コップに口をつける。

そんな聞いたことのない言葉よりも、コップの中が気になる商人はコップを奪うようにして取り、さっさと口にしていた。


緊張とか訝しがるとかないのか。

見知らぬものを口にする時はもう少し慎重になった方が良くない?


「!」「うまっ!」「これは、美味しいですね。食感も良い。(ボソリ)」


「「「「「「美味しい!!」」」」」」


精霊さんにも商人にも、家族にも大変好評のようだ。

急冷盤のおかげで、あらかじめフルーツを凍らせておく必要もないし、ミキサーが出来たので、あっという間に出来上がる。

材料も一つ一つの鮮度と品質が良いので、三つだけで済む。


料理長キースとパティシエールハンナは


「「これは使える(わ)っ!」」


と、大喜びしていた時、物理的に頭が光っていたのが気になる。

ルークにしか見えていないが。


商人二人はミキサーを絶対に市井に届けたいっ!と更に意欲的だ。


白キツネさんは、ピーチシェイクを飲み終えたコップを両手両足で持って、腹を上に寝転がりながら、鼻先を突っ込んで、ペロペロと内側を舐めている。

解る!

やりたいよね。それくらい美味しいよね。


コップが宙に浮いているのを、不思議そうな顔をしてアーサーが見ている。

この可愛らしい仕草と姿を見せてあげたい!


「店を出せば良いじゃない!王都や街で絶対に人気になるよー!フルーツ別で違う味もできるでしょー?目の前で作ってもらうのもパフォーマンスとして楽しめるし!」


「これは絶対に売れます。それらの魔道具も売れます。レシピと一緒に三点セットで売り出しましょう!(ボソリ)」


その言葉に家族みんなで顔を合わせる。

そりゃぁ、喜ばれるだろう。

飲んだことのない食感だし、めっちゃ美味しいし。

王都に公園を計画の出店で販売したら。

でも…。


「そこで街の安全性を担保したいと思っててな。」


ジェイクがルークの肩に手を置いて話し出す。

この星の状況では、気軽には出かけられないだろ?と。


白キツネさんはコップをテーブルの上に置き、一つ頭を下げてから、二人の元へ戻った。

やっぱりクオンさんの頭の上だ。


「確かに。そこを気にして外出しない人がほとんどだよなぁ。」


「店に来る人たちも最低限の用事を済ませて帰って行きますしね。(ボソリ)」


「でも、この星に住んでいる限り、どうにもならないもんなー。」


商人二人の会話に、ジェイクはニヤリと口の片方を持ち上げた。


こ、これは、アイリスに注意された悪い顔だ…。


「そこで。だ。」


ジェイクはルークの肩から手を離し、ジリジリと商人二人に近づいていく。


「俺たちはこんなものを付けている。」


ジャーン!


みんなで自分のイヤーカフを見せびらかした。

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