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53.安心を作る

「ルークちゃん、どうしたの?大丈夫?」


「うん…。」


ルークはガッカリしていた。


畑で収穫し終え、洗濯物もうまいこと綺麗になり、繊維も傷んでいないことが確認出来たので、二人と干し場でそれらを干してきた。


朝ごはんにジャガイモのニョッキと豆のトマト煮込みがめちゃくちゃ美味しくて感動した。


食後のフルーツはさくらんぼで、佐藤錦を思い起こす美味しさで、その品種が存在することに感謝した。


今日は良い日だ。良い始まりだと、喜んでいたのに、気がついてしまったのだ。ふいに。



うどん(代用品)が食べられない。


片栗粉も作れそう、大豆も塩も存在している。

これならば、うどん(代用品だが)を作って食べられると喜んだ分、落胆が大きかったのだ。


ルークの知っている代用品レシピで使用する材料は

ジャガイモ、片栗粉、塩、豆腐を必要としていた。


豆腐は大豆があるから作れると、安易に喜んでしまったのだ。が。


にがり、存在する?

海、存在してるの?

海があったとして、にがり、手に入る?


にーーがーーりぃぃー!涙


塩が存在するなら海もあるだろう?と思うのは地球の常識で。この世界の塩は岩塩だ。

白い岩塩、ピンクの岩塩。海は遠く遠くにあるが、海水からできた塩は流通していない。

何それ?(デイジーに確認済み)

にがりって何だい?(キースに確認済)


はぁぁぁ。。


にがりの代用品って?あるの?覚えがないっ!

そもそも、にがりはミネラルたっぷりってことしか知らないのだ。


「ルークちゃん?本当に大丈夫?」


「あぁ、うん。大丈夫。多分…。」


やっぱり自分は食い意地が張っているなと再認識。

うどんがなんだ。なんだって言うんだ!!


「うぅぅ。うどん…。」


「うどん?それは何?」


「小麦粉を練って薄くして、細く切って茹でた食べ物。ツルツルしてる。喉越し最高。」


「ツルツル?小麦粉?」


「小麦から作られる粉。」


「小麦?」


「この世界にないの。スイーツ作りに使えて、美味しいの。」


「な、なんですって?」


デイジーとルークが話しているのが、ハンナの耳に届いたらしい。すずいとソファの上を移動してきた。


「小麦粉…なんか思い出せそう。小麦、小麦粉、小麦粉…!!!中力粉!!強力粉もっ!!無いわ!この世界にないわ!!あったら色々作れるのにぃぃ!!小麦パンーー!サバランーー!!」


ですよねぇ。前世パティシエールのハンナばあちゃんが言うのだ。小麦は存在しないのだ。この事実は変えようが無いのだ。うぅぅ。


「代用品としてこの世界にあるのは…米粉、コーンフラワー、片栗粉…。」


ガックリと肩を落とし、リビングのソファの上にうつ伏せに寝転がるルークの横で、粉の種類を呟くハンナに気がつき、食器を洗い終わったキースが近付いてきた。


「何を話してるんだ?食べ物の話?」


「小麦粉の代用品について…ね。」


「無いんだよ。うどんは諦めるよ…。」


「あー、デイジー、最初からお願い出来るかな?」


『料理長』も加わってうどんについて話すが、やはり小麦は存在しないし、にがりがなければ豆腐もないのだ。


結局、商人が来た時に聞いてみようと言うことになった。


希望は持たない方がいい。

うどん一つでこれほどガッカリするとは思ってなかった。涙。



ルークが少し復活した頃、本日の当番の二人が朝の家事が終わったので、みんなでリビングに集合となった。


「さて。ルークに発表があります。」


アイリスがそう言ってソファから立ち上がると、アーサーが扉から模造紙サイズの大きな盤を持って入って来た。

アイリスが地図を見ながら作ったヤツだ。


「これは、“探知盤“と名付けました!」


「おお!普通の名前!」


良かったー!変な名前が付かなくて!


「え?」


「うんうん。わかりやすくていい名前だね!」


「でしょう?」


「「「「?」」」」


みんなの頭の上に?が見える。また説明を端折ったに違いない。探知盤自体が初お目見えなのだろう。

いや、もしかすると話の流れで紹介するのかもしれないので、黙っておこう。


「そして、みんなに説明無しに付けてもらいました!」


「なにを?あ、イヤーカフ?」


みんなを見ると、付けたイヤーカフをそれぞれがルークから見えるように示してくれた。


ってか、やっぱり説明してないのか。みんないつものことなのか、疑問はあれど、説明を待ってくれているのか。大人だなー。ありがたい!


「そして、みんな、見てくれる?」


探知盤の横にあるスイッチを押すと、ブォンと音が鳴り、表面に王国地図が映し出された。


「「「「「おおお!」」」」」


「アーサーにはもう見せたでしょう?」


呆れ声のアイリスに


「いや、改めて見ても凄いと思って。」


「「「すごい。」」」


「これはこの国の地図だろう?最新版かい?」


キースに声をかけられアイリスは答える。


「作った時点での最新版です。更新についても考えています。御者協会との話し合いでどうにかなると思います。」


「それは凄いな。」


「地図の赤いばつ印もこの探知盤に反映されてるわ。で、操作なんだけど、ルークお願い出来る?」


「はーい。これ、話したタッチパネルになってるんだ。」


ルークは王国全域が表示されている地図上の、今いるこの場所あたりを親指と人差し指を使ってその距離を広げ、ググッと地図が大きく表示される様をみんなに見せた。


「これが、ピンチアウトという操作。アップに詳細に見たい時ね。」


次にニ本の指で同時に画面を触れてその距離を縮めてピンチインさせ、地図表示が小さくなる様子を見せる。


「これが、ピンチイン。表示を小さくさせる時にするよ。」


そしてダブルタップすると元の地図に戻るところまで見せた。

再度ピンチアウトさせてから、指でスワイプし動かした分だけ地図が移動するやり方も教えた。


「「「「なにこれ!すごい!!」」」」


タッチパネルすごい!これがタッチパネルか!

と、大反響だ。


みんな操作ができるように、それぞれ順番に触って覚えてもらう。


「わかりやすい。ピンチアウトとピンチインとか、操作名は覚えられなそうだけどな。」


ジェイクが笑いながら言う。

一通り操作して、これなら覚えられそうだ。となったところで、次の説明に移る。


「で、これを作ったのは、これをするためなの。」


先程起動したボタンをもう一度押すと、一箇所に紫色に光る点が重なって表示された。


「この光る点は?」


質問してくれたハンナに


「そこ、ピンチアウトして地図表示を大きくしてみてくれますか?」


ハンナは覚えたばかりの操作をゆっくりしていく。繰り返しピンチアウトしていくハンナは


「えぇ!嘘でしょ?ここなの?」


「そうなの。光る点は見てわかるように七点。ここにいるみんなの場所を表示しているの。」


「「「「!!!」」」」


「イヤーカフか。」


キースは表示を見ながらリビングテーブルを一周する。すると移動と共に探知盤の紫の光も一周した。


「これはすごいな。」


「すごいのはこれからなの。」


アイリスはアーサーに指示を出す。

一つ頷くと、イヤーカフを外したアーサーは、ポケットに手を入れてパカパカをだし起動した。


「あ、光が増えたわ!」


デイジーが声を上げる。探知盤の紫の光が八個になったのだ。

みんなで確認したのを確認したアーサーは、そのままリビングを出ていく。


「パカパカにもイヤーカフに使ったのと同じ加工をした魔宝石を使ってるの。」


探知盤の光はどんどん離れていって、画面の端まで行って消えた。


ルークは少しピンチインしながらスワイプをして今消えた光とリビングにいるみんなの光が表示されるように操作を繰り返す。

アーサーの場所を示す紫の光は、ある程度離れた場所で止まり、その色を赤に変え点滅を始め、ピーピーと音が鳴り出した。


「成功したようね。」


うまくいくか心配で緊張し、息を詰めていたアイリスは安心したように息を吐いた。


「表示が変わった訳は?」


ハンナに聞かれ、アイリスは答える。


「救難信号なの。」


「音が鳴るのは表示が変わっていることに気がつくためね?」


「そう。」


アイリスはもう一つのパカパカを取り出し、みんなに見える場所に置き起動させると、探知盤の光がさらにもう一つ増える。


閉じた状態のパカパカの表面をみんなに見せながら、ダブルタップするとその表示を変え、“SOS“と“キャンセル“の文字が現れた。


「ルークSOSをタップしてみて?」


言われたようにタップすると、探知盤の光が赤く変わり点滅を始め、追加でピーピーと音が鳴る。


「どう思う?ルーク。」


「母さん…これ。」


キャンセルを押すと、パカパカの表示は元に戻り、探知盤の表示も紫色に戻り、音も一つ消えた。

アイリスはパカパカを持ち上げて開き、一つ操作をすると、探知盤からの音は完全に消え、赤い点滅が紫色に変化した。

アーサーに連絡して、あちらのパカパカの表示をキャンセルしてもらったようだ。


持っていたパカパカをリビングテーブルに置いて、


「でね?ルーク、見ててくれる?」


アイリスは自分のイヤーカフに触れて「助けて!」と大きめの言葉を発した。


すると探知盤の表示の一つが紫から赤の表示に変わったのだ。こちらは点滅していない。音は先程と同じくピーピーと鳴りはじめる。


点滅するのはパカパカ、しないのがイヤーカフ。


さらにアイリスはイヤーカフに触れたまま「キャンセル」と言葉にすると光は紫色に戻り音も消えた。


「母さん。これ、これって。」


感動して、言葉が出てこない。

すごい!すごいよ!

小さな子でも、イヤーカフに触れて助けてと叫ぶことはできる。地図はまだ荒いので、もう少し詳細な地図になればもっといいと思うけれど、実用に足るギリギリの精度だと思う。

これなら、大人も子供も少しは安心できると思う。行方不明者も助けることが出来るようになるかもしれない。

母さんすごいよ!母さんありがとう!


感動しているルークにアイリスは一つ頷いて


「パカパカの商品名は“安心君“にしようと思います!」


と発表した。

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