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43.本当に欲しいもの

「タッチパネル!タッチパネルゥゥーー!!」


あれ?これ、緩いトリガー?しっかりトリガー?


「出来るわ!出来るっ!タッチパネル式出来るわ!」


「ルーク、タッチパネルってなんだ?」


ううぅっ…今猛烈にウィキ◯ディア先生が欲しい!!

頭を抱えて心で叫ぶ。叫んでも誰も答えてくれないけどっ!


「あぁぁ。えっとぉー?通知盤の上の表示を触っても何も起きないでしょう?横にあるボタン操作はできるけど。その、表示された画面上を直接触って操作できる…みたいなやつ。かな。」


「…それは、なんだ?表示される画面を触って操作?ボタンじゃなくて?」


「う、うん。まぁ、めちゃくちゃ便利。」


イマイチピンと来ていないらしい。俺の説明が下手なばっかりにっ!前世で調べなかったことは出てこない仕様なのかー?


「実際使ってみたらわかると思うわ!

アーサー!後でタッチパネルの情報を共有させてね。そっちである程度仕上げてくれたら、こっちの加工も楽になるしっ!」


「了解!」


モニターラブのアイリスは、ウッキウキだ。

盤については二人にしかわからないことが多いのでお任せするしかない。


「そうか、ならそれはアイリスに任せるとして、みんなは最低限何ができたら良いと思う?」


「まずは通知よね。連絡を取るための手段。」メールだな。


「通知ボールで受ける一日三度の鐘の音もあると便利だな。オンオフ機能付きで。」

これはこの世界の最低限の時計。


「緊急連絡はボタンひとつでできるとか、焦ったり慌てたりすると考えがまとまらないから、定型文をいくつかつくって、選ぶだけとかならいいな。」


緊急連絡!大切だよね。


アイリスでも精霊からの襲撃後、通知盤を思い出すまで時間を要した。落ち着くまで待っていられない場合もあるので、定型文は非常に役に立つだろう。


「ねぇ、宣伝って表示出来たりしないかしら?一日に一度くらい、時間を決めて。みたいな。」


「え?」


みんなでハンナを見る。みんなの視線を独り占めしてしまい、ちょっと恥ずかしそうだ。


「“王都に公園を計画“があったじゃない?それ実現できたなら、今日の屋台の情報とか、ほら、私の作るスイーツの宣伝とか。ね?それをみて、今日行こう!また次にしようとか。出かけるきっかけになるかなって。」


いつもハキハキ物事を話すハンナにしては珍しくモジモジ気味なのは、頑なにスイーツ販売を拒んできたのに、“パティシエール“のトリガーで気持ちが商売人に変わってしまった影響か?意見を真逆に変えた事で恥ずかしいだけかな。


「それも良いな。その宣伝で集客が変わるなら、ビラを配る必要もなくなってゴミも減る。いただく宣伝料とその仕事は、ビラを印刷して配っていた者たちの代替え仕事として提供したら、仕事を失う者もないだろう。」


仕事が無くなっちゃうかもしれない人にはちゃんと説明して、やりたいやりたく無いの選択ができるなら良いのかな。


「じゃあ。それも、その方向で。運用できるようにしておけば良いね。」


「あとは…何だろう?あ、父さん!通知できる範囲ってわかってるの?」


「え?王都からここまでは問題ないけど、他はまだ、検証してないよ。」


王国は国民が少ないとは言え、国土は大きい。

出来れば王国民には普及させたい。

馬車で検証の旅にでるか。楽しそう!


「なら、商人に試してもらうのはどうだい?そろそろ商人が来る時期だろう?」


キースがカレンダーを見ながら言う。

それまでに試作品が出来ていると良いけど。


「そうだ!カレンダー機能も欲しい!カレンダーのない部屋だと、今日何日だったっけ?って思う時があるんだもん。」


本当はカレンダーに予定を入れてそれの通知も欲しいけど、最初から機能を詰め込み過ぎると使いこなせなくて良くない。


みんなでワイワイ楽しんでいると、顎に指を置いて考えていたキースがルークを見て話し出した。


「なぁ、ルーク。ルークはなんでこの星にスマホという機器を作って広めたいと思ったんだ?」


真面目な顔をしたキースに聞かれ、ぐっと息が詰まる。

隣のハリネズミ執事がピクピク動き、上にかけていた魔牛の皮がめくれ、白いお腹が現れた。


「機能を沢山つけるのは良い。でも一番欲しい機能はなんだ?なにがあってそう思ったんだ?本当に欲しい機能はなんだ?」


何があった?何が欲しい?

帰りの馬車の予約や約束の変更の連絡が出来たら便利

遠くの人と気軽にやり取りできるメールがあれば、欲しい情報が素早く手に入る。

精霊の襲撃でSOSの発信。なければ馬は死んでいた。

あとは…。

あぁ、そうだ。そうだった。


「地図とスマホの位置情報の連動は必ずして欲しい。」


「「「「「地図と位置情報?」」」」」


「例えば、俺が持っているスマホに個体番号をつけておいて、地図上でその番号のスマホがどこにあるのかがわかる。索敵鑑定?に近い感じの。」


「索敵鑑定なんて、よく知ってるな。もう使える者は王宮にはいないだろう?」


ジェイクは驚いて声を出す。

あるだろうと思っていただけだ。わかりやすい言葉で言っただけ。鑑定もあるのだから、あるだろうと。


「この世界ってさ、行方不明者、多いよね。」


大人たちはルークの言葉に耳を傾ける。ノートにまとめていたデイジーも、お茶の準備をしようと立ち上がっていたハンナも、みんな自分の行動を止めて、ルークの言葉に耳を傾ける。


この星の行方不明者問題は解決出来ていない。だからこそ、みんなでみんなの行動を確認しあって生きているし、外出も最低限。王都内であっても地理的な問題で危険が伴うことがある。

子供に自由はほぼない。学校に行く年齢になっても危険だからと大人の送り迎えがつくほどだ。


ハリネズミ執事が寝返りを打ち、腹這いの姿勢となった。


「自然は沢山あって豊かで、動物とも共存出来てるのに、時々現れる地理的な問題で、危ないからって大人も子供も一人で外出することはできない。特に子供は家から出られない。」


この国だけじゃない。この星ではそれが常識なのだ。


「行方不明になった人を探し出す事もできない。死んだことも確かめられない。一人そこで死んでいく人も諦めるしかない。それって残された人はどう思うの?助けて欲しいって思いながら死んでいくのって、どんな気持ち?一人で出歩いた結果かもしれないし、そう聞いていたとしても、まさか自分がって、まさか家族がって。」


どれだけ無念なんだろう。


「スマホの位置情報があって、SOSの連絡の手段があったらどう?助けることが出来ないかな?」


ルークは続ける。


「王都に公園や商業施設を作ったとして、そこがクリアにならなきゃ、誰も来たくても来られない。だから先に普及させたい。みんなが危険から身を守れるものならスマホじゃなくたって良いんだ。」


ハリネズミ執事がひとつ伸びをした。


「危険なことが起きた場合、そんなの起きないのが一番だけど、もし起きてしまったとしても、それを誰かに知らせることができたら?知らせられないくらい小さな子でもボタンを押すことくらいはできる。そのボタンを押したら親のスマホと王宮の係の人に連絡が行くようになっていたら?助けられるんじゃないかなって。そうなれば、外で沢山遊べるし、大人だって安心できるでしょ?」


ハリネズミ執事は二本足で立ち上がり、リビングの玄関に近い扉に向けて首を垂れる。

ルークたちは話をしていて気が付かない。


少しで良い。家族以外と接することができる時間や場所、友達関係を作っていければ。

心が豊かになっていくんじゃないだろうか。


「その上で、安心を少しでも増やした状態で、外に遊びに連れ出してあげられる場所があったら、みんなもっと幸せなんじゃないかなって。」


「ルーク、良くわかった。良くわかったよ。」


「実現するためにいっちょやってやろうじゃないか!簡単じゃないだろうけどな。」


ジェイクはルークの肩に手を乗せて、先ほどの表情からにこやかに笑った。


「そうね。まずはみんなの命を守るためのスマホを普及させて、足湯付きの公園を作って、温かいお風呂の普及。やりたいことが沢山ね!ルークちゃん!」


デイジーの言葉にキースが追加する。


「王宮との連携が必要だな。公共事業としてもらえたら、話は早い。まずは連絡を入れよう。デイジー、通知を入れるための書類を作ろうか。」


ガチャリ。

ハリネズミ執事が首を垂れた扉が開かれた。


「来ちゃった。」


そこにはルークの見たことのない男性が立っていた。


「来ちゃった」って?

誰この人。謎。


ルークは見知らぬ男性を観察する。

質素だが仕立ての良さそうな服を着た若い男性だ。ニコニコとして、キュッと口角が上がっている。めちゃくちゃ人の良さそうな人だと思った。


ルークにとって知らない人でも、祖父母にとっては知り合いだろう。


さっき、そろそろ商人がくると言っていたっけ。なら、ちょっと早めに到着した、帰還者の商人の一人かもしれない。


でも、商人ぽくない?

この世界で商人を見たことがないけれど。


スマホの試作はまだまだ出来そうにないので、何日か泊まっていってくれないだろうか。


視線を下ろすと、ハリネズミ執事が扉に向かって首を垂れているのが目に入った。大きな体に小さな足で器用に立っている。可愛い。

この感じなら後で久々に顔が見られるかもしれないし、会話もできるかも!いつもは寝てばかりなのでとても嬉しい。


しかし、何故このタイミングで起きたのだろう。

しかも、首を下げているこの姿勢に見覚えがある。気がする。

あ!雪豹さんだ!

ルークが気がついたところで、


「来ちゃったって…」


ジェイクはため息混じりだ。

みんなの様子を伺うと、ジェイクとキースは呆れ顔。ハンナとデイジーは真顔。アーサーとアイリスに至っては、


ちょっと!何で嫌そうな顔しちゃってるの!

お客様?に対して失礼でしょ!

ん?でもそれだけ親しい人ってこと?


「何で来たんです?」


「だって、アーサーが温泉最高って。ほら行こう!みんなで行こう!」


「「「「「「「ええぇー!」」」」」」」


無茶振りー!

んで、この人だれー??

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