31. 菓子製造技能士
「ささ!思い切ってやっちゃって!」
とハンナが左手を出してくれたので、手のひら同士を合わせるように手を繋ごうとして、ルークは手を引っ込めた。
温泉に向かう時、同じようにルークの右手でハンナの左手を繋いで歩いたのを思い出したからだ。もしかしてすでにその時…
「キースじいちゃん!先にハンナばあちゃんの鑑定して!」
「前もって鑑定しておくのか?」
「ううん。さっき手を繋いじゃったから。もしかしてと思って。」
そう言うことならと、鑑定盤をハンナに向けて起動した。
すぐさま結果が表示される。
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ハンナ・フェニックス 50歳 特別宮廷研究員
スキル:知りたがり
魔力量B
魔法操作E
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「変わってないわね。」
ハンナの顔がちょっと残念そうにみえたけど、これでルークの右手とただ繋がっただけでは、何も起きない。と言うことが解ったのだ。それをみんなに共有する。
「それなら俺も鑑定しておいた方が良いかもしれんな。ガゼボからの帰り、ルークの右手を繋いだから。」
確かに繋いだ。以前の鑑定結果はみんなそれぞれ覚えているようだ。
キースがジェイクの鑑定を行う。
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ジェイク・フェニックス 53歳 特別宮廷研究員
スキル:知りたがり
成長
建築士
魔力量A
魔法操作A
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じいちゃん、建築士のスキル持ってる!さすが前世大工さん!?あれ?と思いつつ喜んでいたら、ジェイクが
「…加工が消えてる。建築士生えてる。」
と呟いた。みんなも結果を覗き込む。
「「「「本当だ。」」」」
「ジェイクじいちゃんの属性は草?なんじゃない?中庭のウッドデッキもじいちゃんが作ったでしょ?木の加工スキルだったなら、加工は統合されて建築士に進化されたんじゃない?」
「「「「「「統合?進化?」」」」」」
うん。アップグレードね。
下位のスキルが合わさって上のスキルに変化するやつ。
はてなを浮かべている大人たちに統合進化の説明する。
大人たちがノートに走り書きをしている間、ルークは自分の右手のひらを見つめた。
手を繋いだだけでもステータスが変わることがある?
「ジェイクじいちゃん、今日何か大きく変わったことあった?」
「今日?なら前世の孫がルークだって解ったことが一番の衝撃だったぞ。」
思い出したのかニヤリと笑う。その顔が前世のじいちゃんと重なった。嬉しいと言う気持ちが湧き上がる。
そりゃそれが一番か。俺も衝撃だったもんな。
あの時、じいちゃんと繋いでいたのは左手だった。俺は左手のひらも見つめる。
俺の手に何か問題が?
でもあの大量の配線の束に繋がれた結果が、右手から出て左から入る。だったのが確認されたのだ。
なら、左手でじいちゃんの何かを吸ってしまったとか?
そんなことしちゃうの?俺の左手!!
何それ怖い!!
左手を背中に回してしまう。誰にも向けないようにするためだ。そうしたところで何が変わるかは解らないけど。。
これだと、原因がルークの右手かどうかがはっきりしない。同じようにみんな思ったのだろう。
夕食前に鑑定していたアイリスはルークの右手を取り手のひらを合わせて目を合わせてきた。少しして手を離してから、
「よし、父さん、鑑定してみて。」
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アイリス・フェニックス 26歳 特別宮廷研究員
スキル:研究者
盤加工・付与
鑑定
魔力量A
魔法操作A
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「変化はないわね。」
「じゃあ俺の今の鑑定もお願いします。」
アーサーが同じように手を繋ぐ前と後の鑑定をする。みんなで結果を覗き込む。
「「「「「「変化なし」」」」」」
「両親だからってことはないわよね?」
「それを言ったらここにいるみんなはルークの親戚だ。親戚だからで片付けられちゃうだろ。」
「そうね。その条件は他の人で確認するしかないか。」
現状、手を繋いだだけでは変化は見られない。と、書きを終えたハンナが、次は自分の番だとばかりに俺の右手に手を繋いだ。
キースは鑑定盤をハンナに向けた。
手を繋いたタイミングで、ちょっとゲップが出てしまった。いつもよりも沢山料理を食べてしまったのだ。生理現象だ。許してください。
それに、ハンナの作ったおやつも全部美味しかったなぁ。と思い出す。一緒におやつを作っていた時にも思ったが、
「ハンナばあちゃんはさ、パティシエールみたいだよね。」
「パティシ…エール?…!!!パティシエール!!」
微かに俺の右手にあった何かがハンナと繋がれた左手に流れたような気がしたとき、ハンナが薄く光った。室内だったため、その光は周囲にいた家族にも簡単に確認することができた。
「「「「光ってる…」」」」」
え?なんで光ったの??
「とりあえず、鑑定してみようか?」
キースはハンナに向けて鑑定盤をむける。
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ハンナ・フェニックス 50歳 特別宮廷研究員
スキル:知りたがり
菓子製造技能士
魔力量B
魔法操作E→B
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結果は変わっていた。
みんなが鑑定盤を覗き込んで驚いている中、結果を少しも見ることなく、ハンナが非常に残念そうな顔で叫ぶ。
「パティシエール!私の夢!三号店の話も出ていたのにっ!」
前世の話だろう。パティシエールとして成功し、三号店を出しませんかと話しがあったのだろうか、それが頓挫したか、自分に不幸が起きたのか。。
そうだとすると、思い出せて良かったのか。また疑問に思う。悲しさとか虚しさとか悔しさとか、それを伴うなら思い出せない方がいいのではなかろうか。
「でも、嬉しい!これでもっと美味しいスイーツつくれそう!私にも結果を見せて!きゃー!うそぉ!菓子製造技能士のスキルなのー!!」
と、跳ねて喜んだ。
この世界で誰も知らない言葉だ。何となくはわかるけど、前世から引っ張り出してもよく解らない。
「それはどういうものなの?」
「スイーツを作る技術や知識がありますよっていう国家資格の一つだったはず。パティシエやパティシエールはみんなは、持ってなかった気がする。合格して嬉しかったのは思い出せるわぁ!まあ、どっちにしてもこの国には必要ないけどね。」
「え。それってめちゃめちゃ頑張って取得したものでしょ?その知識が全部そのスキルに詰め込まれてるなら知識を無駄にしないで、販売も視野に入れたら良いのに。」
じいちゃんたちは、周りの人の刺激にならないよう“隠居“したのだから、商人さん経由の出所不明の商品としても良いし、宮廷には帰還者も多そうだし、宮廷御用達とか、宮廷名物として宮廷経由で王都にお店を出しても良さそうな気がする。
「で、これは結局どう結論つける?」
「ハンナちゃん光ってたわ。」
「え?私光ってた?」
「光ってた。薄くだけど。昼間なら気が付かない程度ね。木陰でならわかるかしら。」
「変化のあったところは二箇所。スキルが増えていた事と魔法操作が上がっていた事だ。」
「菓子製造技能士という、前世の国家資格?がここでどう使えるか、魔力はどう使われるのかだな。魔力操作が上がってるなら、そのスキルは魔力を使うと考えるべきか。」
「「「「「「謎だ」」」」」」
謎が増えた…?
研究だな。これは。どこかのタイミングで使ってみるしかない。
「このスキルはどう使うのかしら?早く使ってみたいわぁ。ワクワクしちゃう!」
「いろいろ解らないことがあるが、解ったことだけまとめ直して、王様に極秘として送っておこう。判断は王様に任せよう。」
皆がキースの意見に同意したので、王様への通知はキースに任せることにした。
申し訳ないけれどあとはみんなに任せ、ルークは先に寝させて貰うことにした。
瞼が下がってきたのだ。
明日も楽しむぞー。むにゃむにゃ…




