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21.スキルを生かすスキル

俺は今、広いキッチンでおやつ作りを手伝う準備をしている。

ハンナばあちゃんに腰に巻くタイプのエプロンを巻いて貰った。みんなお揃いの深緑色だ。格好良い!


まだ背の低いルークのために専用の踏み台も準備してもらった。

これでお手伝いも楽にできる!

はずだ!


ルークとハンナは焼き菓子作り。

ジェイクとアーサーは冷たいスイーツを作ることになった。

時間のかかる冷却はどうするのかと思ったら


「じゃじゃーん!急冷盤!」


とアーサーが通知盤と同じ、菓子箱サイズの板を突き出した。サイズだけではない。パッと見、見た目もほぼ変わらない。


「…何それ。また初見だけど。」


また『盤』か。好きだな『盤』

この『盤』シリーズ、謎の鉄って感じで、ものすごく無骨なのだ。キッチンに置いてウキウキできないくらいの。

もっとおしゃれに出来なかったのか。

アーサーでは無理だけど、アイリスなら出来たんじゃない?

スパコンらしきものも『盤』を重ねたみたいな姿だったし、モニターらしきものも見た目は『盤』だったを思い出す。

無理かも。これが精一杯なのかもしれない。


ハンナに渡されたガラス製のボールに卵を1つ割り入れる。うん。上手にできそうだ。


そんなルークに顔を寄せ嬉々として急冷盤の説明をしようとするアーサーに、


「それは名前で大体わかるから!一気に冷やすんでしょ?それよりいつそれを作って準備していたのかって事だよ。冷たいスイーツを作るって今決めたばかりなんだもん。準備が良すぎない?」


「え?今だけど?」


「は??」


「ルーク?アーサーのスキルなら朝飯前だろう?」


出した鍋にミルクとゼライスのような固める何かを入れて温め始めたジェイクに呆れたように言われる。

ハンナに至っては気にも留めていないようだ。次の卵が渡された。


「父さんのスキル、『研究者』じゃないの?」


なに?話してないの?と、卵を割り入れるハンナも呆れ顔だ。


「ふっふっふ。俺の二つ目のスキルは『盤生成』だ!」


「盤って?盤?それ?」


「そうこれだ!」


いつのまにか持っていた二つ目のスキル『盤生成』。十年以上ずっと意味がわからなかったらしい。

それがニ年前、三歳になったルークから発せられた“電気””電池”がトリガーとなり、前世の記憶が流れてきて、「スパコンが欲しい!」となり、「盤で作れるんじゃなーい?」と天啓を受けたと感じたそうだ。


もしかして、その天啓、精霊じゃない?


スキルは持っていたけど使い方が分からなかった?

なら鑑定表示は違ったのかな?

他のと同じ表示だったんだろうか。


ハンナが計量したハチミツを卵の入ったボールに入れ終わり、準備された最後の卵を割り入れたところで、泡立て器を渡される。

卵を全部すりつぶしてハチミツと混ぜ合わせるのだ。


カシャカシャと泡立て器で混ぜながら、急冷盤の様子を確認するアーサーの肩をちらりと見る。


サッカーボール大の巻貝のような精霊が見える。


確か、スケーリーフットだったか、ウロコフネタマガイだったか、うろ覚えだが、体が金属で出来てるとか、だった気がする。この世界でも同じなのかな?しかし、大きすぎる気がする…。


ただの巻貝ではないことから察するに、父さんの属性は金なのだろう。『盤』も謎の金属で出来ている。

でも巻貝だし、海にいたはずなので、そうしたら水属性?二つ持ってるってこともあるかも。いや、この世界の巻貝は森で生活しているという可能性も?


昨日のあの馬車の内装をあれほど楽しめたのは、心が少年だからだけでなく、この国ではあまり見かけない謎の金属性のパイプとか安全バーとか、車体下にあるはずの装置とかに惹かれたのかもしれない。


体は大人、心は子供。その名もアーサー。


うん。前世に引っ張られすぎだな俺は。


巻貝の前世の名前は長すぎて言いにくいので、巻貝精霊としよう。大体、こっちの世界での名前と同じとも限らないしね。


それにしても『盤生成』とはピンポイントな。


祖父たちが言うには、前世と繋がりのあるスキルが生えたりもらえたりするって話だったから、アーサーの前世は研究者で、きっとスパコンを作っていた人か、それを使って何かをしていた人だったんだろう。

まぁ、おおよそ想像通り。

まだ想像の域を出ないけど。


盤生成では温める盤とか冷やす盤、魔力を通す盤などイメージすればざっくりしたものなら作り出せるらしい。魔力は沢山使うそうだ。


その盤を使って、母親のスキル『盤加工・付与』で色々な加工をしたり、付与で調整したりして製品化しているらしい。


なにその母さんの一点集中スキル。。

便利そうだけど、『盤』がなきゃ死にスキルじゃないか。


アイリスの『盤加工・付与』は“電気””電池”のトリガーの後、与えられていたらしい。

鑑定はマメにするものではないのか、“いつの間にやら“って感じ。

鑑定するのは高いお金がかかったりするんだろうか。気軽にできないのか?


しっかし、二つ目以降のスキルってこんなに独特な感じなの?


誰かのスキルが最大限に生きるスキル。でも大元が無ければ死にスキル。


アイリスに質疑応答した時のことを思い出す。

ゴミスキルだと言われていたから王家に申請する気になれず、結局“精霊の鍛錬所送り“になったってやつだ。


そのスキルが、誰かのスキルを生かすスキルだとしたら…

これは王家がスキルの申請を大切にしているのが理解できた気がする。


この星を幸せに発展させるかも知れないスキルを、個人の一時的な感情で握りつぶしたことになるのだから。

でもなぁ。

悲しい気持ちや辛い気持ちは誰にでも起きる。なら、寄り添ってやれば良いじゃない?鍛錬所に行った事がないからどういう場所かわからないけどさ。


計量した米粉のようなさらりとした粉とハーブを混ぜ合わせたものをボールに入れたハンナは、今度は木べらを渡してきた。


「ざっくり混ぜ合わせるのよ?」


「うん!任せてよ。」


混ぜるがうまくいかない。量が多すぎるのだ。

ルークの力ではザクザクと木べらをボールに突き刺すしかできない。

笑っているハンナに木べらを渡して交代を促す。


自分の感情という小さなところだけに目を向けるんじゃなく、そんな自分を俯瞰で見つめて周囲もちゃんと見ないといけないってことだな。


誰かが言っていた。感情に走ると物事を見誤って大きな後悔に繋がると。誰だったかな。


ルークは、ハンナが大量の生地を器用に混ぜ合わせているボールから目を外し、部屋を見渡す。


ジェイクが鍋を急冷盤に置いて、どれくらいで室温くらいになるかとアーサーに聞いていた。


「うーん。多分二、三分かな?混ぜながらじゃないと鍋底だけ冷えちゃうと思う。室温くらいになったら小分けするんだろ?俺やっておくから親父は次をどうぞ。」


アイリスに調整を頼むための予備調査だろう。

しかし、グツグツ煮えていたものが二、三分で室温になるのか、なかなか優秀な盤だ。


これも製品化する予定か?

有ったら便利だし売れるだろう。

両親が優秀すぎやしないか?これが前世の記憶持ちってとこか。

こりゃ、まるでチートだな。


なるくなったらこの果汁を入れて更に混ぜるように伝えるジェイクを、了解したから次の作業へと促すアーサーは、今日はやけに肩が凝るなぁ。と両腕を回す。


そんなアーサーの肩には、落ちないように必死にしがみついている巻貝精霊が見えた。


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― 新着の感想 ―
ルーク。父さんに教えてあげて? 肩はあまり回さないでねって。
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