19.相思相愛な湖
「「「こんにちは、ルーク!」」」
沢山の声が聞こえる。薄目を開けると、窓からの光と影が確認できない。昨夜は到着遅くまで起きていたので、かなり寝坊をしてしまったらしい。
伸びをしてゆっくり起き上がり、声のする方へ目を向けると、沢山の精霊獣たちがいた。
「こんにちは、みんな。初めましての子も多いのかな?元気かい?」
うさぎ型、リス型、キツネ型、ヤギ、フェレットのような子もいるし、バンビのような子、カピバラのような子もいるようだ。沢山いて確認出来ない子もいそうだ。
やはりどの子も一様に白い。そしてふわふわで可愛い!!
ルークの声に喜んだリスちゃんたちがその胸に飛び込んだ。
「わーい!久しぶり!やっときてくれたぁ!」
一人か二人なら受け止められるが十人くらいが一斉にくると流石に受け止めきれず、ベッドに、逆戻り。
会いたかったよ。元気にしてた?どう過ごしてた?美味しいものを発見できた?どんぐり食べられるようになった?
とみんなが口々に言うので、全てに返事ができない。
自分を見て欲しいとみんなで顔を覗き込むので、髭が顔に触れてくすぐったくて笑ってしまった。
「あはは!くすぐったい!苦しいよ!あははは」
部屋にある窓からは、光も影も確認できない。お昼は過ぎているようだ。
ルークの笑い声が扉の外に聞こえたのか、ノックをしてすぐに扉が開く。
母方の祖母デイジーが顔を見せる。
「起きたかしら?ルークちゃん。そろそろお昼に誘おうと思ってきたんだけど、お友達がいっぱい来ているの?」
スタスタと窓まで歩いていき、全て開いて網戸にする。
デイジーの声でリスたち精霊はルークの顔から退く。リスたちがいなくなった事で、再度上半身を起こしたルークは
「デイジーばあちゃん、久しぶり!あはは!良いお昼だね!精霊さんたちは沢山いるんだ!数えきれないよ!」
「あらあら、そんなに沢山?それならおやつの時間に沢山クッキーを焼かなくちゃね。」
窓を開け終え、洗面台に向かうと付近を水に浸して絞り、笑いながらそれを渡してくれる。
そういえば。と、デイジーの頭をチラリと見る。
今日はいないのか。
いつもいるわけじゃないもんな。
顔を隅々まで(目の周りとか口の周りとか)拭き回して、使い終わった布巾を返す。
「デイジーばあちゃんのクッキーサクサクで大好き!みんなも喜ぶよ」
ルークはベットから飛び降り、デイジーの手を繋いで扉を開けて部屋を出る。
デイジーは扉が閉まらないようにストッパーを隙間に差し込み、一緒にリビングに向かった。
昨夜は馬車で到着して、父方の祖父ジェイクに抱かれてベッドに運ばれたらしい。よく覚えてないけど、リビングで会ったらお礼を伝えなくちゃ。
リビングの扉付近で鼻の頭に冷たい衝撃を感じた。
両目で自分の鼻先を見ると、白カエルちゃんと思しき小さな白い塊が確認できた。
「白カエルちゃんかな?こんにちは。」
「白カエルちゃん!?」
横でデイジーがめちゃくちゃ喜んでいるので、鼻先にいるのと伝えると、ルークの鼻先に穴が開くのではないかと言うくらい凝視してくる。
「大変だったんですって?なかなか来ないから待ちくたびれてきちゃったわ!」
白カエルちゃんは笑いながらチラリとデイジーを見ている様だ。鼻先にピントが合わず、しっかりとは見えない。白カエルちゃんの大きな黒目が一つしか見えなくなったので、多分デイジーを見ていると判断した。
待っててもらえて光栄だなぁ。もしかして襲撃事件はみんな知ってるのかな?
「知ってるわよ。筒抜けよ。ルークの言葉を借りるなら、ダダ漏れ、サトラレ。よ。」
本当にダダ漏れ、サトラレだね。
独り言を言うルークを優しげな目で見守り、ゆっくりリビングへの扉を開けるデイジー。
「さあ、家族みんな集まったわ。お昼ご飯にしましょう!」
「「「「こんにちは、ルーク」」」」
「みんなお久しぶりです!寝坊してごめんなさい。」
挨拶をしながら部屋に入り、昼食用の取り皿を選んでいる父方の祖母ハンナに向かって
「ハンナばあちゃん、小さな平皿を一枚もらえる?」
「豆皿でいいかしら?どちらが良い?」
と、右手に花が咲いたような型の豆皿、左手に無地の真四角の豆皿を持ち、提案される。どちらもガラス製だ。
「うーん。白カエルちゃん、どっちが良い?」
と聞くと、花が咲いたような形の皿に飛び乗った。こっちってことだな。
「ハンナばあちゃん、お花型のお皿、ゆっくり渡してくれる?そっちに白カエルちゃんが乗ったから。」
「まぁまぁまぁ!そうなの?衝撃は全く感じなかったわ。それだけ小さいのね。」
と感動しながらゆっくり豆皿を渡してくれた。
あとはお水があればと、キッチンの水場に向かおうとすると、小さなコップに少しだけ水を入れたものを、ジェイクが渡してくれる。
「わぁ!ありがとう、ジェイクじいちゃん、気が利くね!」
というと、祖父母たちが皆笑う。
五歳の子供の生意気な言葉も、大人から見たら可愛いものだ。精神年齢は前世に引っ張られ、おじさんが紛れ込んでいるが。
白カエルちゃんの乗った花型豆皿と渡されたコップを持ち、高さ調整のためのクッションの置かれた椅子のある場所に移動する。
ダイニングテーブルに豆皿をそっと置くと、デイジーが真横に来て豆皿を覗いた。
慎重にコップから水を垂らす。
白カエルちゃんからストップがかかったところで入れるのをやめた。
今日はちょっと多めだ。
「大丈夫そう?」
「ええ、十分。いつもありがとう!ジェイクとハンナにもお礼を伝えておいてもらえる?」
「ジェイクじいちゃん!ハンナばあちゃん!白カエルちゃんがありがとうだって!」
「「こちらこそ!」」
「カエルちゃんにお礼を言われるなんて、羨ましいわぁ!」
この二人も声が揃うんだな。やっぱり仲良しだ。
デイジーはなんだかとっても嬉しそうだ。
「あ、ジェイクじいちゃん!昨夜は運んでくれてありがとう。重かったでしょう?後で腰を揉んであげるよ!」
と伝えると
「なんだ?じじい扱いか?この中では一番歳上だが、まだまだ若いぞ。腰はもっとヨボヨボになってから頼むよ。その時間があるなら、新しいガゼボでおやつタイムにしよう!」
と言って笑いながら、ハンナと二人で昼食の配膳を終わらせる。今日の当番は父方の二人らしい。
祖父母たちが仲良く暮らすためのルールの一つに、夫婦単位で交互に家事を行う。と言うものがあるそうだ。
なので、今日は母方の二人は休憩日となる。
「え?新しいガゼボがあるの??」
「おう!このヨボヨボのじじいが作ったんだよ。インスピレーションで作ったから、作ってる最中は、みんな不思議そうな顔をしたんだけどな。」
「どこがヨボヨボ!?ガゼボ楽しみ!」
この星には地球と違って男女の差はほとんどない。
大昔のこの星では、男性同士、女性同士で暮らし、子供がほしくなったら同性でもペアを組んで子供をつくるのが一般的だったそうだ。
今もその方法で子作りするペアもいるそうだが、体つきで出来る事出来ない事があるとわかってからは、異性ペアが増えていったのだそうだ。
それでも、どっちでも良いじゃない。二人が幸せならそれで問題なし!という民族性だ。
肉体の見かけは違うけれど、内部は同じ。
いわゆる性器は下腹部にはないのだ。
子供を腹に宿すことはないと言う事だ。
子作りに快楽は伴わないので、性犯罪自体がありえない。何それ?と言う感じだ。
おトイレに行った時、びっくりしたのを覚えている。あると思ったものがなかったのだ。生まれてからずっとそうだったはずなのにね。今思うと少し恥ずかしい。
椅子に座ってクッションの位置を調整する。
豆皿をじっと見ていたデイジーはルークの隣に着席した。
豆皿に目を移すと、白カエルちゃんが手足を伸ばしてプカリと浮いている。
なんでも今日のストレッチ前の脱力タイムなんだそうだ。
ストレッチ、毎日してるんだ。
えらいね、白カエルちゃん!
俺もやった方が良いかな。暇な時間はたっぷりあるから、日々のルーティンにしたら良いかも。
テーブルについたみんなの顔を見回して気がついた。
「あれ?母さんは(乗り物の)二日酔い?」
「面目ない!」
気まずそうな顔をして、大きな体を縮めるアーサーが答えた。昨日のあの乗り物酔いっぷりだもんな。もしかしたら明日もダメかも?
「ちゃんと謝った?」
「えっと…」
うーん。
許してもらえなかったのか、怖くて謝れなかったのか、具合を見て言い出せずにそっとしているか、謝ること自体を忘れているか…。
いや、まさか忘れるなんて…ありえちゃう?
ないよね?まさかね?
どれにしたって、アーサーが悪い。原因を作り続けたのはアーサー自身。時間経過とともにどんどん謝りにくくなっていくのだ。
「ちゃんと看病してあげなよね。」
「しっかりしてきたわねぇ。ルークちゃんは。」
隣の席のデイジーがしんみり言う。
まだまだこれからだよ!成長を楽しみにしててね!と伝えてみんなの笑いを誘う。
ライスペーパーのようなものに好きな生野菜を置いていく、最後にハンナのお手製のお豆のドレッシングをかけたら巻いていく。
色合いが美しくできた気がする。
パクりと口に入れて咀嚼すると、半分潰されたお豆が新鮮な野菜の食感と相まっていい感じ。
このお豆のドレッシングのレシピは、是非もらわねばならない。
次々とライスペーパーのようなものに巻いていき食べていく。
このライスペーパーみたいなものもハンナの手作りだったはず。
このレシピも欲しいけど、これは貰うのをやめよう。なんか自分の首を絞める気がする…
ふと、昨日のユニサス号(デコ馬車)が気になった。
「ねぇ、馬車は帰っちゃったよね?」
内装の簡易ベットがどんな感じなのかが見たかったのだ。
が。
乗車して色も形も奇抜な椅子に驚き、安全バーで固定され、その動きに翻弄され、アイリス撃沈でそれどころじゃなくなり、夜中には体力の限界で寝落ち。確認できずに今に至る。
「日の出の前に出発したようだよ。扉の下に手紙が挟んであった。」
ジェイクが言うには、出発する旨と厩で馬が世話になったお礼の手紙が差し込まれていたそうだ。
残念。帰りのお楽しみにしよう。
すっかりお腹いっぱいになると、食後のフルーツだ。
祖父母たちのこの家での昼食後は、手をかけたデザートが定番だ。手間をかけて作ってくれた枇杷のドライフルーツが皿の上に準備されていた。
これに食指が動いた白カエルちゃん。
小さく小さくちぎって豆皿に入れていると、
「え?ルークちゃん…白カエルちゃんって、枇杷を食べるの?」
と、小さなカエルが大好きなデイジーが聞いてくる。
「うん。多分一番好きだったはずだよ?」
デイジーばあちゃんにこそ、アレを教えてあげようかなと、チラリと白カエルちゃんをみる。
両手で抱えていた枇杷のドライフルーツを口に咥えてから、両手をサムズアップしてこちらに突き出した。元気なOKもらえました。
「あとね、この家の一番近くの湖あるでしょ?あそこは白カエルちゃんたちの棲家なんだって」
少し笑いながら伝えると、デイジーが手をワナワナさせて立ち上がった。
勢いよく立ち上がったので、座っていた椅子がバランスを崩して後ろに倒れ音を立てた。
よくある事のようで、ルークとアーサー以外は誰も驚かない。
倒した椅子を気にする事なく
「び、枇杷の木を植えなくちゃ!!ほとりに!湖のほとりを枇杷の木で埋め尽くさなきゃ!」
「…一本で充分よ。」
「一本で良いって。でも若木だとなかなか実がつかないから、実が早くつきそうなのを選んで植えてあげてね」
白カエルちゃんの通訳、代弁をする。
デイジーの倒した椅子を起こし、そこにゆっくり座らせる母方の祖父キース。
「今日は時間がたっぷりあるし、食後に枇杷の木を選びに行こうな。」
無言でゆっくり頷くデイジー。
安定のカエルが好きだね。
まさか。これほどだとは思わなかったけど。
今日俺の隣に座ったのも、豆皿の白カエルちゃんの気配を感じたかったからかな。
「相思相愛ね。デイジーが小さい時、私の母の分体と一度だけ目が合った事があったのよ。よほどその時の魔力の相性が良かったのね。それ以来、私の母もデイジーが大好き。時々デイジーを気にして頭の上に載っちゃうくらいには。」
昔デイジーばあちゃんの頭の上にアマガエルくらいの白いカエルが乗っていたのを見た事があった。それが白カエルちゃんのお母さんなのだろう。そう言うこともあるんだな。
「なかなかある事じゃないのよ。精霊と目が合うなんて。あぁ、ルークは規格外ね。
目が合うってことは視線が繋がるってこと。魔力が繋がるってことなのよ。あの一瞬だけだったけど、母とデイジーの魔力の受け渡しがあったの。デイジーからしたら、目が合ったのを覚えてるなんて奇跡みたいなものよね。みんな忘れちゃうのに。あれからと言うもの、みかけたどの子が私の母かわからないけど、どの子でも私の母と友達に違いないからって、見かける全ての小さなカエルを大切にしてくれてるの。だから普通のカエルたちも、みんなデイジーが大好きなの。」
じゃあ、近くにデイジーばあちゃんが移り住んできた時はみんな喜んだんじゃない?
「逆よ。逆。デイジーが遠くに引っ越してしまったから、デイジーの近くの湖に棲家を移したのよ。」
ええぇーー!!
ね?相思相愛でしょう?と枇杷のドライフルーツを食べ終わった白カエルちゃんは、お腹がいっぱいになったと仰向けに寝転んだ。
評価してくださった方、
ブックマークに登録してくださった方
いいねを押してくださった方がいらっしゃいました!
確認方法を知らなかったので、お礼が遅くなりました。
どうもありがとうございます!(小躍りして喜びました)
今後ともよろしくお願い致します。




