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17.最新型って?

黒豹の襲撃事件があった日から二日後。

祖父母たちの家へ行けることになった。


前回利用させてもらった王都の大きな方の馬車貸し屋さんの馬車は、材料が足りず修理が始まっていないのだそうで間に合わない。いつ修理が始まるかも解らないという事で、王宮の余って埃をかぶっている“最新型“の大型馬車を貸してもらえることになったのだ。


しかも、前回の精霊襲撃が原因ということで、無償で!やったー!最新型ってのが気になるぅ!


「外装は剥がれても罪には問わん。なんなら壊して返してくれ」


という、王様からの謎のお言葉付き。


使ってなかったとはいえ、ボロいわけでは決してない。だって最新型だもん。


質素を好む王様たちなのに、豪華すぎる見た目の車体の馬車が寄贈されてしまって、使われていなかったのだという。


どうやら歴史の教科書にも載っているらしい、例の属国スライ王国からの賠償金の一部としてリライラブル王国に献上された馬車らしい。それが何台かあり、扱いに困るからという本音を隠し、最新型の馬車という触れ込みで一台


『あの時は大変お世話になりました。最新型の馬車です。馬も一緒にどうぞお受け取りください。』


と寄贈してきたそうだ。


ちなみに他の信頼のおける国にも寄贈したらした。

おそらくどの国でも埃をかぶっていることだろう。と、倉庫責任者談。


なんで?最新型なのに?


質素を好むこの星の多くの王侯貴族からすると、その馬車の見た目は皆に敬遠されるものらしいのだが、性能は格別に抜群らしい。

前回乗った馬車よりも乗り心地が良いとか、途中で疲れたら椅子がベッドになる?とか、その上安全性も高いらしい。



ルークは家の前の大通りで馬車を待っている間、アイリスにイヤーカフを渡して付けてもらった。

部屋に鏡がないので、まだちゃんと付けられないのだ。

イヤーカフを付けてもらっている最中も、馬車の到着を今か今かとワクワク、ソワソワしていた。


すると、遥かかなたから何やら見えてきたではないか。


目を凝らして見ている。

なにやら巨大なものが見える。

馬車にしてはピカピカしていて眩しいので目を細める。


なんだろうあれ?

え?まじで?

俺の目がいかれちゃったとかじゃないよね?


知っていたアーサーは、アイリスが驚き口を開けているのを見て笑いを堪えて震えている。


父さん、知っていたならこれは止めても良かったんじゃない?

いくら早く祖父母たちのところに行きたかったとしても。


呆れた目でアーサーを一瞥したあと、ゆっくりとでも確実に近づいてくるその物体に目を向けた。


六頭立て(!初めて見たよ)のその馬車は、正面から見ると車体から巨大な翼が、生えている?

それは白く近づくにつれ周囲が白く光るようだ。

真ん中からは光り輝く円錐状に尖ったデカいものが車体から突き出ているように見えた。


えっと…豪華っていうか、デコカー?デコ馬車?


ゆっくりと家の前に到着したそれは、横からばっちり眺めることができた。


光り輝く円錐状のものは、御者席用の少し長い雨避け(紫色に装飾)の前方斜めに突き出すように取り付けられており、その左右には馬の耳のような形の何かが一列に並んでいた。


もしや、ユニコーンのデコか?

いやでも角のバランスおかしくない?

ルークは眉を顰める。


御者さん二人はサクッと降りて両親に挨拶をした。ふたりとも随分と逞しい体をしてる。制服のオーバーコートがとても似合っている。


ただその腰に不自然に括り付けられた袋がなんとなく気になるのだが。


御者さん二人は多分脱いだらボディビルダーみたいな体に違いない。この世界にはないけど。


挨拶を交わした後、我が家の多めの荷物を車体の下に取り付けられた荷物置き場に、次々と積載してゆく。手際がいい。


これに乗るのかと愕然としているアイリスを、見た目をほぼ気にしないアーサーが謎のデコカーの扉を開けて、早々にエスコートする。


さあさあ、どうぞと手を差し伸べるアーサー。

イヤイヤと頭を振る涙目のアイリスの手を取り、アーサーはゆっくりと謎のデコカーにアイリスを収納した。


珍しいな。いつもなら最後に乗るのに。

アーサーが出てくるのをちょっと待つが顔を出さないので、内装の説明でもしているのかもしれない。

最新型だし。


車体に目を戻し確認していく。

車体の扉の上には雨除けのように、白いふわふわのワタのようなものが張り付いた巨大な翼が配置されていた。

昔の車、ガルウィングのようだ。


車体の横後方にも同じような翼を模した何かが、見える。こちらからは見えないが、反対側にも同様のものが付いていることだろう。

前方から見た時に周囲が光っているように見えたのは、二対の翼のような何かから時々落ちる白いワタが原因のようだ(ワタは経年劣化だろうか。ふわふわと落ちる。)


軽いそれらは、あちこちに舞っており、作業中の御者さんの顔に落ちかけると、素早い手の動きでキャッチ!腰から下げた袋に収容された。

近くに落ちているワタも素早く回収して腰袋に収納していく。


それ用の腰袋なんだ。。


馬車の後方には白いポニーテールがふさふさと絡まりきった状態で揺れており、そちらも時々紐状のものが抜ける。モソモソと。


こっちも見つけ次第ささっと回収して腰袋に収納していた。ワタもポニーテールもむしり取って袋に入れたのを見てしまった。


お疲れ様…

ふむ。後方はやっぱりペガサス?のデコだな…

二対の翼は何を意味しているのだろう。謎だ。


屋根は紫色、車体は白いが煌びやかだ。なんなら太陽光を反射して目が痛い。

新手の攻撃か?


それらは何か宝石なのか、色付きガラスなのか。ガラス工芸で有名だったっぽいし、ガラスな気がする。

日本の女性がスマホカバーをスワロフスキーで全面デコっていたのを思い出した。

車体はそんな感じだった。派手。


なぜユニコーンとペガサスの二つをないまぜにしたのか理解に苦しむが、発注者は好きだったのだろう。両方とも。

乙女チックといえなくもない?

とはいえ、趣味が悪い。その一言に尽きる。


属国スライ王国の元王家か。

なんとなくだか、原因となった贅沢好きな王女様の持ち馬車だった気がする。

聞いたことも会ったことないけど。


車体の後方には、これまた前世でいうところのかなり大きめのヒッチキャリアが取り付けてあった。

荷物置き場は座席の下にあるのに、何用だろう?


車体に取り付けられた上向きの大きな翼を仰ぎ見る。


これ、森の中、走行可能?

大型馬車用道路の幅から翼は確実にはみ出ない?


翼引っかかって折れそうだな。

だから、「外装は剥がれても罪には問わん。なんなら壊して返してくれ」に繋がるのか。

理解した。


これ、相当重いだろうなぁ。

だからこのサイズで六頭立てなのか。


それを見届けた後、御者席側に回ってみた。

御者席側は見た目はそれほど奇抜ではない。

雨除けは雨が降った際十分に役割を果たすだろう。足置き場も完備しているし、乗り降りに便利な台も出したり引っ込めたりできるようになっていた。


車体全体の窓も二重サッシだし、ブラインドも外と中についているようだ。


これで最新型かぁ。

なかなか理解に苦しむ最新だな。

流行んないでしょ。先進的すぎるよ。


荷物も全て括り付けられたのを確認したので、ルークも馬車に乗ろうと扉に向かうと、御者さんが両脇に手を入れて抱き上げ乗せてくれた。

この馬車は車体が高く、エスコートなしでは乗り降りが難しいからだろう。


ありがとうと笑顔でお礼を言うと、


「なに、かまいませぬ。では、お気をつけて。」


と、笑顔で答えてくれた。こっちのボディビルダーは、セバスチャンって顔のお爺ちゃんだった。


お爺ちゃんと挨拶して車内に顔を向けると、驚愕な状況が広がっていた。


進行方向に向かって座れる向きに、高級でゴツいゲーミングチェアのような真っ赤な椅子が四脚横一列に配置され、その椅子は車体の床と一本のパイプで固定されており、安全性を高めるためなのか、ジェットコースターの安全バーのようなものが、二つ上がっていた。


後ろで扉が閉まる音がする。


安全バーの二つはアーサーとアイリスが使用中。

二つは未使用で上がっているらしい。


これからジェットコースターが動き出す前のお客さんのように、アーサーはウキウキし、アイリスはガクブルとしていた。


何これ。


「ほらルーク、早く座りなさい。」


と、ウキウキを隠さないアーサーに指定された席は座高が足りない分クッションで調節できるようになっていた。

ノートを進行側の出っ張りに置き、よじ登る。


座り心地がべらぼうに良い。


安全バーが自然とゆっくり下され、ガチャンと鳴った。押しても上がらないことを確認してみた。


すごい。ほんとのジェットコースターの椅子みたい!


足元を見ると、足置きを確認することができた。俺は届かないが、両親は届くらしい。

斜め前方に突き出されたその足置きは、多分踏ん張るためのものだろう。


「アイリス、ちゃんと足おきに足を乗せておくんだよ?何かあるといけないからね。」


いったい何があるというのか。

アーサーは乗ったことがあるらしい。


アイリスは真っ青な顔をして頷き、足置きに足を乗せる。


「準備できました。お願いします。」


とアーサーが御者さんに声をかけると返事がある。


「承知しました。足置きをご利用下さい。では参ります。」


また足置きを使うように言われた。

何かあるのか?


馬車はゆっくり動き出した。

特に何かが起きるわけではない。

ただ、見たことのない椅子が四脚、馬車の内部に配置されているだけだ。


この広い車内にたったの四脚。

御者席側のノートを載せた出っ張り見ていると、それに気がついたアーサーが教えてくれる


「引き出すタイプの簡易ベットがあるんだよ。長椅子にもなって、大勢が乗れるようだね。まあ、あちらには“安全ベルト“はないから、こっちの方が安全だよ。前回みたいに馬車が揺れても、頭をぶつけないだろ?」


畳まれている状態だとわかんないね。


王都を離れ、前回精霊から襲撃を受けたあたりの道に差し掛かった時、アイリスの座った椅子が不穏な動きを始めた。


最初ガタンと沈み込んだのだ。

え?

と思ったら、なんと回り出したのだ。


「え?ええぇーー??」


それは遊園地のコーヒーカップのように右回り、左回りを交互に。


さらにはちょっとだけだが、上下にも動く。

メリーゴーランドとの合作?


びっくりしているとアーサーの椅子も、ルークの椅子も同様に回し出した。

俺の足だけ投げ出されるが、隣のアイリスにぶつかることはない。


なにこれ!面白ーい!

喜ぶルークとアーサー、泣き叫ぶアイリス。

無視を決め込む御者さんたち。


「いやぁぁあ!!!止めて止めてぇ!!」

「「あははは!!」」


アトラクション機能付き!

最新型ってこれのことかぁ〜!


カオスであった。

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