16.問題は山積みなのです
「で、この宝石どうしましょう…」
宝の山を前に青ざめるアイリス。
「とりあえず、馬車の修理の見積もり費と、うちの被害額。今回応援に駆けつけてくれた費用と、『ヒール』『ならし』の対価と、街道の再整備費も忘れずに。ああ、街路樹の埋め直しも必要だな。今日の“精霊の被害額“の総計をしっかり出して、この宝石で支払おう。」
「残った宝石はどうするの?」
「の、残った宝石は精霊被害預金として王宮の銀行に預けましょう。」
とりあえず、その方向に決まったようだ。
「でもさ、精霊から被害を受けたって聞いたことないんでしょう?今後その預けた宝石を使うことってあるのかな?」
雪豹さんだって“前代未聞“だと言っていた。
ルークは当たり前の疑問を口にしたのだが、こんな大量の宝石は持っていたくないんだと震える両親。
まぁ、その時考えれば良い。と言うことで、早速アイリスが通知盤を使って王宮に呼び出しをかけていた。
しっかりした人を呼びつけて、管理とか支払いとか一括で丸投げすることにしたらしい。
「もう考えたくない!」
だって。母さん、ちょっと震えてるもんね。
確かにこうした事は専門分野の人の仕事かも。
それより何より、この目の前に広がるこれらのピカピカ光を放つ宝石一粒だって触るのが怖いのが本音だろう。
怖いのだ。何しろ量が多すぎる。一粒だって取りこぼしがあったら大変なことになるだろう。
その一粒が小さいモノでもゴルフボールサイズなのだから。。
俺もこれらの宝石を綺麗だとは思うけれど、自分のもではない。管理は絶対嫌だ。
それに、精霊関係は基本王家預かりなのだと言う。
そんなこと言ったら、俺はどうなる?
俺はイレギュラーだったっけ。
王家預かりの案件だからこそ、躊躇なく今日の緊急要請を出せたし、対応もめちゃくちゃ早かったのだろうか。
王家直属の、研究者だからだとばかり思っていた。
両方かも。
しかし、だ。
今回はたまたま通知盤を持って行っていたこと、持つことを許可された我が家だったことから、素早い救助があったわけだが、そうじゃない場合だったら、どうしていたのか。
あの馬はきっと今生きていなかっただろう。
そう思うと、とっても怖い。
どんなものの死も、今はまだ、受け入れられそうにない。
助けを呼べるって大切なんだ。
助けられるってことも重要なのだ。
「やっぱりスマホか携帯電話が必要だよな。」
と、声に出ていた。
「「スマホ!携帯電話!?」」
あ、やっちゃった。。
スマホの名称が二度目のアイリスはアーサーより目が爛々としている。
これは逃れられそうにない。
宝石については王家に丸投げでよし!
「う、うん。どっちも、軽くて小さくて持ち運びのできる通信装置のこと。今回はさ、母さんが通知盤を持っていたから、馬も助かったし、こんなに早く家に引き返すことができたでしょ?それが叶うものを普及させたいなって。携帯電話は音声で、スマホは音声と文字を。それくらいの機能であれば、通知盤で実現できるんじゃないかと思ってるんだ。通信が届く距離とか、文字数をどれくらいにするかとか、ノートなしで直接書き込むことができるように出来ないかとか、考える余地はたくさんあるけど。」
「「それ、実現させようかっ!」」
「家庭に一台で持ち運びができる感じかしら?」
この世界ではそれが常識なんだろうけど、俺が思うのはそうじゃない。子供が一人で遊べないのは、環境的に命の危険が伴うからだ。人為的な危険はほぼないのに、これは勿体無いと思う。
子供に持たせる。
親も持つ。
老人にも持たせる。
そうすることで行方不明になる人はグッと減るし、知らぬ場所で動けない人からのSOSも届けられる。
仕事にも使えるのだ。
時計の時のように「追われる」のが嫌なら通知をオフにすれば良いのだ。使いたいときに使う。
緊急事態で受け取れない時もあるが、それは個人で選ぶしかないのだ。
どのみち、それを持っていなければ、緊急時かどうかも気がつけない生活をしているのだから。
また、人工衛星がないから、スマホの位置情報などは無理だろう。沢山の人が持つとなると、すべてのスマホと繋がるような設定は難しいだろう。
なので、いくつかは必要なところへ設定しておく。
地球でいうところの警察と、消防とかだな。
この国なら王宮の迷子対策室とか作ってそこに繋がるとかさ。
サッカーボール大だった通知ボールの設定も入れられたらさらに便利じゃない?
朝寝坊が減ると思う。
これは俺が欲しいかも。
あれこれとアイデアを出すと、二人はノートに書き留め、なにやら書き足している。
「大きさはできればポケットに入るくらいが良いな。」
と言うと、それってルークのポケット?とアーサーに聞かれる。
五歳児のポケットと入る携帯かスマホ。
小さすぎて使いこなせなくない?
ポケットに手を突っ込み裏地を引っ張り出す。
「大人が使いやすいサイズと、子供用の小さいのを作ればいいんじゃない?手の大きさが違うし。」
とアイリスも意見を出す。お。地球にありましたよ。それ。
室内灯と街灯の話をした時をちょっと思い出した。
あの時もこうやって三人でディスカッションをしたっけな。三歳児相手に親も頑張った事だろう。
「あのさ、通知ボールも大きかったし、通知盤も、研究部屋のモニターもさ、同じくらいのサイズでしょう?小さく出来るの?性能的に。」
と、今まで思っていたことを伝える。
「大きさは自由にできると思うぞ。使いやすくて加工しやすいサイズで一定にしただけだから。」
と、アーサーが言う。
凄いな父さん!
あれ?ならなんで研究部屋の“スパコン”はあんなにでっかいの?
「スパコンはでかいのがロマンだろ!」
それは解らん。
スパコン愛がおかしくなってない?
とりあえず、今日の夜から試作を作ると言う。
やること沢山あるはずだけど、父さん大丈夫?
今日の被害で処分しなきゃいけないものと再購入しなきゃなものとか、あったよね?
「もう手配したぞ?」
こっちも無駄に優秀だったのか。
と思ったらちょっと違った。
王宮に父付きのお手伝いさんみたいな人たちがいて、通知盤で丸投げしたんだって。
アイリスもこの後の食事の準備とか、母付きのお手伝いさんさんたちに丸投げしたそうだ。
研究者は研究に没頭できる環境を整えてくれてるんですね。さすが王家預かり。
ルークが苦笑しているとアーサーが真面目な顔をしてこちらを向く。
「さて、ルーク、さっきの可愛らしい女の子の精霊だけど、あの子もお友達なのかい?」
あの子のことも見えていたのか。通知をYESにしたままだからなのかな?いつまで有効?切るまで?
でも、一時的に解放って書いてあったよね?
でも、あれ?精霊ちゃんの話はしたことなかったかな?
お友達だけど、獣型の精霊さんたちより一緒にいる時間は一回一回にしても総合にしても断然短い。
友達精霊の一人だと答えると、微妙な顔をするアーサー。
なに?何が気になるの?
「うーん。ルーク、人型の精霊はね?国に一人しか存在しないって言われてるんだよ。」
「え?そうなの?」
「あぁ、だからこの星には七人しかいない。国の精霊は王族の一人と契約し、その国に加護を与えてくださっている存在。今代の契約者は王様だね。」
……そうなの?
なんか、凄い子なのはわかった気がする。
みんなが精霊ちゃんを『精霊様』って呼んでたのって。
精霊さんたちの親玉でしたか。
親玉、親玉、けん玉?親方?おやつだま?
キャパシティをオーバーしたらしい。
今日は精霊関係はもう話したくないし聞きたくない。目がしぱしぱしてきた。
「父さん、今日はもう無理みたい。眠くなってきた。」
「あ、あぁ、そうだよな。あんなことがあって疲れたよな。後始末はアイリスとやっておくから、お昼寝しような。」
ルークを抱き上げ、部屋へと連れて行く。
ベッドの前の椅子に腰掛け、抱いたまま靴を脱がしてから掛け布団をめくると、一瞬躊躇したアーサーだったが、ゆっくり寝かせてくれた。
掛け布団をかけてからルークの頭をひと撫でし、またご飯の時に起こしにくるよ。
と声をかけて部屋から出ていった。
ルークは起きたらスキルの話をしなきゃなと思いながら寝返りを打つ、すると布団のあちこちがモゾモゾと動いてルークに寄り添ってきたのを感じた。
アーサーが布団をめくって躊躇したのは、みんなのことが見えたからかもしれない。
驚いただろうな。
俺のベッドに、沢山の動物型の精霊が寝ていたんだ。
ふふふと笑う。
あぁ、これはイタチ君だな。こっちは白蛇さん?あぁ、もふもふする。気持ちいいな。
知ってる感覚に包まれて、俺は夢の世界へ誘われていった。




