15.精霊の理
あの日、自分が再び『鑑定』を使えてしまったこと、その内容、自分の行末に不安を感じたルークは、フリーズしていたままだった。トーマスさんに褒めちぎられまくりながらの馬車の旅十五分。
家に着くとまだ昼頃。
五十分程度の旅でした。
アーサーは受け取った荷物を全て確認し、使えなそうなものは処分、新たに購入するリストを作成。使えそうだか汚れてしまったものは洗濯場になど、仕分けしていた。
アイリスは通知盤で祖父母たちに連絡を。馬車の手配ができ次第出発すること、その時はまた連絡すると伝えていた。
え?王宮とのやりとりしか出来ないんじゃなかったっけ?
「なんで、じいちゃんに通知出来ちゃうの?」
「言ってなかった?父さんたちのところにも置かれるって話だったから、通知先の設定を増やしておいたのよ。いつくか登録できたら便利でしょ?」
って母さん!!初耳です!
通知盤自体見たのも聞いたのも最近です!
なんで漏れありで伝えてくれるのぉ〜。
でも、便利で素晴らしいじゃないですかぁ〜。
通知先は依頼主から指定された設定を守っただけで、数十箇所以上は登録できるだろって。確認してないけど。と言っていた。
母さんってば、無駄に優秀なんだからぁ!
それなら小型化したら、スマホみたいになりそうじゃん!すごいよ母さん!
それに対して俺は…
知らないから知りたがり、教えてもらうが抜けが多い。教えられないこともあると言われ、益々宙ぶらりん。
これから俺はこの宙ぶらりんのまま、いつでも新しいことを無邪気に受け入れていくしかないのかもしれない。
それがスローライフ?
俺の求めているスローライフとは違うなぁ。。
遠い目をしていたら、すぐ横に気配を感じたのでそちらを向く。
申し訳なさげの顔をした雪豹さんだった。
「雪豹さん!もう来たの?急いだのかな?大丈夫?」
ルークの声でアイリスが、
「雪豹さんが来たの?」
と嬉しそうな声を上げ、ワタワタし始めた。
今日はこの家にいない予定だったので、フルーツや食べ物は一切置かれていない。
「あぁ、残念!雪豹さんの『フローズン』っぽいスキル、雪の結晶が舞って素敵だから、毎回見るのが楽しみなのに。」
「あら、正解よ。さすがあの末裔ね。」
雪豹さんの言葉をアイリスに伝えると、それはもう喜んでいた。スキル名は適当に言ったのだそうだ。
末裔?って?
「湖の主にでも聞きなさい。」
湖の主って誰?じいちゃんのたちの家の湖?
精霊さんたちはいつもこんな感じだ。
積極的に答えをルークたちには教えない。しかし、嘘はつけないので聞かれたことにはイエスかノーでは答えてくれるのだ。
自力で答えにたどり着くことが大切なのかもしれない。
「あらルーク、それも正解よ。」
そっか、そうなんだ。知りたいこと沢山あるけど、それ全部自力が良いの?
「ねぇルーク、カンニングして正解を書いた答案を誰が褒めてくれるの?」
そうか。だから思考を止めずに考え続けることが大切なのか。そのための気になるヒントなのか。
宙ぶらりんだと思ってしまったが、そうじゃないんだ。その思考は良くなかった。消そう。その思考は。
俺には正解か不正解を教えてくれる相手がいる。
普通の人はその相手がいない中で暗中模索しながら、大小あれど不安と闘いながら生きているのだ。
俺は誰よりも恵まれているじゃないか。
間違いをすぐに正せる環境ほと素晴らしいものはない。
「うん。ありがとう雪豹さん。友達でいてくれて。」
「この正解に辿り着いたのもルーク自身よ。」
いつものように柔らかな顎の下で頭を撫でられ、全身を擦り付けてくる雪豹さんにマーキングされた。
「さてルーク、アーサーを呼んでくれる?通訳はお願い。」
意を決した雪豹さんにより、謝罪会議が始まった。
いつものダイニングテーブルに向かって、座るルークたち。
雪豹さんはいつも通りルークの右横に座って謝罪を始めるという。
通訳はできるし嫌ではないけど、どうせだったら雪豹さんが両親にも見えたらいいのにな。
と思った時には、目の前に三度目ましての白い画面が現れていた。
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ルーク・フェニックス 5歳
加護:*** 解放されていません
属性:*** 解放されていません
スキル:共有Max
*とある条件下につき一時的に一部解放
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『共有』解放につき相手を選択できます。
承認しますか
YES / NO
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2枚目の画面が上に重なるようにして現れた。
ええ!うん?
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YESが選択されました。
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えええ!その“うん“じゃなかったんだけどっ!!
そうこうしているうちに、両親の目が開き驚愕の表情となり、そしてふやけた。
「「ゆ、雪豹しゃん」」
嘘でしょ!見える!見えるぞ!
思った通りの美しさだわぁ!
思った以上に大きい!
と喜ぶ両親に驚く雪豹さん。
「えっと、どういう感じ?ルーク」
ううんと。。なんかね『共有』のスキルが出て?間違えてYESを選択したっぽい。
「そう…。精霊の鍛錬所送りをあんなに間近で見てしまったし、精霊力に当てられるのも無理もないわ。」
「「ゆ、雪豹さんの声がぁぁ!!」」
雪豹さんとの会話も、声に出せば問題なさそうだ。
「父さん、母さん、この現象については俺にも良くわかってない。けど、良い機会だから、二人にも雪豹さんの声を届けたいって思ったんだ。だから、落ち着いて話を聞いてほしい。」
両親はゴクリと唾を飲み込み、声に出さずに何度も何度も何度も頷く。
自分たちの声より、雪豹さんの声に集中したいのだろう。首、怪我しない程度でよろしく。。
目線で雪豹さんに先を促す。
心得たとばかりに顔を二人に向け話し出した。
「今日はごめんなさい。私の力不足であの子が、精霊が、あなたたちに酷い迷惑をかけてしまったわ。怪我はなかったみたいだけど、驚いたでしょう?本当にごめんなさい。」
ルークは今日の顛末をかいつまんで両親に聞かせた。
・黒豹が雪豹さんの制止もきかずにやってきて、馬車の屋根を凹ませたこと。
・思い通りにならず怒りを抑えきれずにスキルを暴走させてしまったこと。
・あの光の塊はその黒豹で、あの現象は精霊の鍛錬所送りだったこと。
「馬車は修理が必要でしょう?馬にも被害が出ていた。馬には可哀想なことをしてしまった。痛かったでしょうに…
その補填になるかわからないけど、あの子が溜め込んでいた宝物を全部持ってきたわ。強欲なところがあるから量はそれなりにあったの。使ってね。」
と、ダイニングテーブルの上から、それらをパッと出して落とした。
ザラザラザラ、カツカツカツン
出し終えたそれは、ダイニングテーブルいっぱいに広がる大小さまざまな宝石類だった。
「「「!!!」」」
こんな沢山の宝石見たことない!
どう見ても貰いすぎなんじゃ…
「「王様でも持ってない(わ)。こんな量…」」
二人は愕然としているが、声は重なっている。
雪豹さんはどこ吹く風、なんなら
「精霊には不必要なものなのよ。なんの役にも立たないわ。フルーツの方が何倍も素敵!半分くらい凍らせて、食べるのが良いのよねぇ〜。」
と、思い出してうっとり顔だ。
「あの…いくつか質問を宜しいでしょうか?」
といち早く我に帰ったアイリスが左手を上げて雪豹さんに質問をすることにしたようだ。
「いいわ。私たち精霊には役割があるから答えられないことも多いけど。それでも良いかしら。」
「もちろんです。」
なら幾つでもどうぞ。と雪豹さん。
「黒い精霊ってはじめて聞くんですが、いるものなんですか?」
あぁ、実はそれ俺も思っていた。
「俺の友達はみんな真っ白だから、精霊は真っ白なんだと思ってた。」
「いるわ。いろんな色の精霊が。」
「それでもルークの友達は真っ白ばかりということは、色により何か差があるということでしょうか?」
「そういうことね。」
あれ?と思い至る。
「ねぇ、雪豹さん。黒豹さんが悪態つくたびに、より黒い色になっていったように見てたけど、色ってそういうこと?」
雪豹さんは大きなため息をつくと
「そういうことよ。」
と肯定してくれた。
「え?ルークどういうことだい?」
アーサーがやっと参戦してきた。
元々黒かった黒豹だったが、嘘をついたり、悪態をついたり、最後の精霊の鍛錬所送りの直前にもそうだったけど、より漆黒に近づいていくように見えたことから導き出すなら、色がより濃い精霊は、精霊の理からより外れていっており、最終的には俗世から離れて精霊の鍛錬所へ。
隣国のリアイラブル王国の属国スライ王国の精霊の鍛錬所へ送られた前王族のことも含めると、傲慢だったり狡猾だったり誰かを傷つけたりを繰り返し、反省の色なしと判断されること自体が、精霊の理から外れたと言うことなのではないか。
という推察を話す。
「精霊の理はいくつかあるの。その一つから逸脱したということね。ほとんど正解よ。ルーク。」
正解を導き出したけれど、精霊の理はまだあるのか。
まだ知らぬ理から外れる事で鍛錬所へ送られるってことは、星の自浄作用のように感じた。
例えば、この星のありたい方向性にみんなで協力して活動しているときに、足を引っ張る奴がいたとすれば、星からしたらそれらは細菌みたいなもので、それを精霊が浄化のために鍛錬所へ連れていく。
協力するみんなってのが、人間…?俺たちみたいに帰還者と転生者、他?
「他は、この星で生まれてこの星だけで過ごしている子たちね。未熟だけれど、平和的で愛を持っている可愛い子たちよ。」
と言う声が聞こえる方へ目を向けると、ルークの友達、ペットボトルサイズの精霊ちゃんがいた。
「迎えにきたわ。雪豹。やりすぎよ。」
精霊の鍛錬所行きの時のように、雪豹さんは地面スレスレまで頭を下げる。
まぁ、今回は仕方がないし、積極的に答えを教えたわけじゃないから大丈夫だと思うけど。
と、ため息をつく精霊ちゃん。
理の話はあまり俺らに聞かせたくないのだろうか。
そう言えば精霊ちゃんは、生活のなかで一緒に遊ぶことはあっても、魔力とか突っ込んだ話になると途端に帰っていくことが多かったっけ。
「じゃ、またね!ルーク」
そういうと、あっという間に二人は消えていった。




