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14.一度生えたものは消えない世界

誤字修正をしました。

母親の想像よりも早い十分程度で、二頭立ての幌馬車が一台到着した。

かなり急いだのだろう。

到着するや否や、馬車の後ろから顔を出す青年。


「馬!馬はどこですか!!」


その青年は馬車を降りようと気持ちが急き、ステップから転げ落ちた。


「良かったトーマスがちゃんと来てくれて。こっちよ!ルークも一緒に来て!」


と、転んだ事を心配せず、無事に要請した人物が来てくれた事に喜ぶアイリスは、トーマスとルークを引き連れて急足で倒れた馬の元へ向かうが、トーマスが見当たらない。

振り向くと、車体の瓦礫に足を取られ転んでいた。


嘘だろ。大人なのに。。


おでこから血を流したまま起き上がり、急いでこちらにかけよって、また瓦礫に足を取られて転んだ。


トーマスさんのかけていたメガネが欠けているのが見えた。


大丈夫なのか、この人。。

首から上ばかりぶつけてる…

制服も土埃だらけだ…


到着した現場では、治療らしきことは何もされていない状態だった。

止血だけでも出来なかったんだろうか。

少しだけ怒りが湧いてくるのを踏ん張って止めた。

怒ったって仕方がないのだ。


馬の横で泣いている御者さんは俺を馬車から抱いて移動してくれた人だ。

もう一人の御者さんは泣くのを我慢した顔で怪我のなかった馬たち一頭一頭の頭や体を撫でていた。


そうだ。俺が怒ったって仕方がない。

この子の飼い主はそんな御者さんたちで、この子の家族は御者さんたちなのだから。

俺に命の選択の権利はない。


「おお。怪我をしたままの状態ですね!僥倖です!良き判断でした!恩に切ります!」


トーマスさんの言葉に眉を顰めるルーク。

どこが僥倖だっていうんだよ…。


ルークの顔を見ていたのだろう。アイリスが声をかける。


「ルーク?気持ちはわかるけど、しっかり現状とこれからを見なさい。ね?さぁ、力を貸して。時間がないの。貴方にしか頼めないことよ。」


そう言ってトーマスの左手にルークの右手を重ね握るように促す。


俺にしか出来ないこと?

それって俺になら出来るってこと?

俺が助けになるってこと!?


気持ちを立て直し、トーマスに尋ねる。


「どうしたら良いですか?」


「うん。ありがとう。ルーク君。君の膨大な魔力の一部を僕に使わせて欲しいんだ。僕は今必要なスキルを持っているけど、魔力が少なすぎて使いこなせない。その分勉強を重ねて王預かりの獣医にはなれたけど、一人ではスキルは使えない落ちこぼれなんだ。でもこうして、ルーク君から魔力を借りたら…」


トーマスさんが薄く光り、その右手が輝き出す。その右手を馬の折れた両脚にかざすと、小さな声でスキルを詠唱した。


「『ヒール』」


!!!

ヒール。存在したんだ!!そして、使える人も居るんだと言うことに、心が歓喜する。

それと共に、どうかこの馬の両脚が元に戻って、また元気に走り回れますように。

そんな祈りを込めてしまった。


馬の脚は徐々に元通りになってゆく。

それはまるで巻き戻し映像を見ているようで、流れた血も傷口から吸い込まれていった。


そうか、このために怪我をしたまま放置していたのか。

多分、余計なことをしたらダメなんだ。血が足りなくなったり、別のものが手を加えた分は戻せないとか。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


と泣く御者さんの隣で


「こんな完璧な回復初めてぇーーー!!」


と、両腕を天に突き上げ歓喜の声を上げるトーマスさん。

おでこから流れる血もそのままのトーマスさん。

欠けたメガネを気にも留めないトーマスさん。

土埃を払わないトーマスさん。


ルークはどんな顔をしたら良いのかわからない。


「魔力の量なんでしょうか、質なんでしょうか!あぁ、精霊よ!教えてくださいぃ!!

完璧すぎるぅぅぅー!」


天を仰ぎ泣き叫んでいるトーマスからそっと視線を外して離れ、馬に近寄る。


トーマスさん。面白い人なんだろうけど、今はちょっと…精神的に堪えるな。


すっかり元の両脚に戻った馬は、自力で立ち上がり、嘶いき、木陰で御者さんに撫でられていた馬たちの方へ歩いていった。


良かった。うん。本当に良かった。



大事をとって、この馬はトーマスさんが乗ってきた幌馬車の荷台に乗せて帰ることになった。

というか、そのための二頭立ての幌馬車だったのだろう。


トーマスさんのスキル発動中に到着したと思われるもう一台の一頭立ての馬車からは、スキル『ならし』を持つ者により、惨事だった地面がそれなりにならされていて、車体を傾けていた道路だったものも、瓦礫もわからなくなっていた。


ただ、倒れて根っこが剥き出しになった木だけは大人たちで道路の横まで移動させていた。


荷物台に乗らなくなった全ての荷物は、やってきた二台目の馬車の荷台に乗せられた。



全てが片付いたので、一度王都の家に戻って、再度整えてから祖父の家へ向かうことにしたようだ。


走行に問題なしとされた元の馬車に両親は乗り込んだが、俺の乗れる座席はない。座席が開いたまま閉じないのだ。


嬉々としてトーマスが、是非是非に!と俺を幌馬車へ誘う。両親も相手がトーマスならと、幌馬車に乗せられたのだ。


今あのテンションはキツイ!

キツイけれど、こうなっては仕方がない。

諦めるしかない。


トーマスさんの横の座席に座らされたので、先に声をかけることにした。深呼吸して頭を下げ先ほどのお礼を伝えた。


馬を助けてくれてありがとう。

忙しいだろうに、駆けつけてくれてありがとう。と。


「何を言ってるんですか!先ほども申しましたが、僕一人では魔力が足りず、発動出来ないスキルなのです。馬を助けることができたのは、ルーク君のおかげなんですよ!」


喜び笑顔を浮かべお礼を伝えてくるトーマス。


「いつもはこれ、この魔石電池を握ってスキルを使用するんですが、あれほどの回復は見たことがありません。」


と言って円柱型の例のアレは魔石電池をポケットから出して見せてくれた。

あ、それ、人間も接続可能なんですか。。

名前も初めて聞く。

魔石電池って名前にしたんだ。

電気がない世界に電池。

名付ける時に一悶着あったりしなかっただろうか。。

電池ってなんだ?って。

商品名だからいいのか。


円柱の形を見てちょっと恥ずかしい気持ちになる。

トーマスさんも恥ずかしそうに円柱をポケットに入れ直している。


だよね?恥ずかしいよね?その円柱の形!


トーマスからしたら、魔力電池から魔力を補わなければ働けない自分を恥ずかしく思っただけなのだが。


「それにアイリスさんからご指名ですからね。何か僕が役に立つはずだと喜んで飛び出てきちゃいました。馬も大好きですしね!」


そうなんですね。と返事をして、それにしてもと思考に入る。


先程トーマスさんの言った事、俺は違うと思っている。

先程はどう言うわけか俺の魔力をトーマスさんに使ってもらうことができたが、事実として、俺は魔力は多いみたいだけどスキルは使えない。生えたらしい『鑑定』が使えないんです。


と、トーマスさんと目を合わせながら、なんと言おうかと考えあぐねていると、目の前に半透明な白い画面のようなものがスパっと差し込み現れた。


これ、二度目ましてな気がする…


---

トーマス 18歳 宮廷獣医

属性:植物

スキル:ヒール レベル1

*ただし負傷から30分以内に限る。

*魔力接続により一時的に完全回復使用可能。

    (草-創薬)

魔力量A

魔力操作G→C!!

*魔力詰まり解消により大幅アップ

---


え、えっとー。何これ。

知らんぷりして良いやつじゃないよね?


というか、俺、なんでまたスキルが使えたの?

前回は精霊ちゃんが何かしたからっぽい。

今回は?精霊さんが近くに現れたからとか?


困惑して声を出せず焦っているルークを、照れて言葉にならないのだと勘違いしたトーマスは、重ねてルークを褒めまくる。


「アイリスさんからの報告で存じてはいましたが、これほどとは思いませんでした!」

「いやーアイリスさんの考察通り手のひらの接触で魔力供給ができるなんて、画期的すぎますよ!これは魔力接続と呼びましょうか!命名しちゃいます。良いですか?良いですよね?初めてなんですもんね?」

「まさか一発で成功するとは思いませんでしたけど!」

「ルーク君の魔力は感じたことがないくらい膨大ですねぇ。おや?照れてます?照れることないですよ!本当に素晴らしい。」

「先ほどルーク君の右手から流れてきた魔力が、未だに僕の中を蹂躙しているのか、よく混ぜられたというか、いやいや、とても心地がいい!」


白いステータス画面の奥でトーマスが感動して早口で捲し立て、笑いながら何かを言っているがルークから見える。


えっとえっと!!

俺、鑑定使えちゃったこともビビってますが、鑑定内容にもビビってるんです!


だって、トーマスさんのスキル2つですよ?2つ!!

『ヒール』の条件なんてあるの!?レベル1だから!?

「創薬」の表示だけなんか違う!なんで!?

魔力量Aって、なかなかいないんじゃない?

そんな人に感じたことがないくらいの魔力量って言われるってことは、何ですか?俺の魔力量はSだったりするとか、そう言っちゃうんですか?


なにより!!

トーマスさん、魔力操作がめちゃくちゃランクアップしちゃってますよ!

魔力詰まりってなんなんですかっ!

解消ってどう言うことですかっ!!


興奮しているルークは、そのきっかけが自分の魔力供給であることに思い至らない。

それに対して俺は…と、己の至らなさに気が滅入ってきて足元に視線を向ける。


「あれ?おかしいですね?自分の中の魔力を使える気がします。かなり痛いこのおでことか治ったりして?一人で『ヒール』できちゃったりして?なーんちゃって。あはは!浮かれすぎですよねぇ」


おちゃらけた恥ずかしい発言を解消しようとしたが、本人的には失敗したと思っているトーマスは、目を瞑って両手で顔を完全に覆う。トーマスの手が光り、ヒールレベル1では完治しないおでこが完治したが気が付かない。誰も聞いていない。


隣から発せられた光にも気が付かずルークは反省し続ける。


知らないことが多すぎるのだ。

前世ばかりに目を向けて、今世に目を向けなすぎたのかもしれない。

もっと勉強しなきゃ。この星のことを理解しなきゃ。


テンションの上がり下がりが今日は激しい。血圧あがっちゃってる?アドレナリン出まくりかも。


手のひらに視線を落とし、自分のことももっと知らなきゃ。と思った瞬間


手のひらと自分の顔の間に半透明な白い画面のようなものがスパっと差し込み現れた。


---

ルーク・フェニックス 5歳 

加護:*** 解放されていません

属性:*** 解放されていません

スキル:鑑定Max

*とある条件下につき一時的に一部解放

神力***

神力操作G

精霊力***

精霊力操作G

魔力量∞

魔力操作G

---


グッ!!

もうこれ以上は見ちゃだめだ!と思ったところで白い画面は消えた。


殆ど何もわからない情報開示だった

一番の気掛かりは操作系が全てGのところだ。トーマスさんのランクアップ前と同じじゃん?

確か最低ランク。しかも魔力詰まりの表示はなかったし。俺、やっぱり無能?


それより何より、俺、やっぱり自立しなきゃいけないの?

まだ五歳なんだよぉぉぉー!

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