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129.長生きするにも金が必要

ルークはジェイクとアイコンタクトをする。

やっちゃって良いよね?と。

大きく頷いてくれたので、二人に話す事に決めた。


「サイラスさん。サイラスさんに初めてお会いした時から、ずっとしがみついている友達精霊さんがいます。」


「友達精霊?」「ただの精霊とは違うのかい?」


「はい。この星では、人間一人に必ず一人の精霊が友達になってくれるようで、その精霊が二つ目以降のスキルをくれる事が多いようです。」


サイラスとサティは呆然とした。今まで聞いた事がない事実をさらりと伝えられたからだ。


「どんな精霊なのか教えてもらっても?」


サイラスは真面目な顔をして、ずいっとテーブルに乗り出す。


「はい。長毛種のうさぎです。先程、なんで長毛種のうさぎを扱っているか疑問に思われたようですが、祖父に聞いたのではありません。友達精霊が長毛種だったからそうなのではないかと当たりをつけさせて貰いました。」


「……うさぎ、なのか…。私は生命をいただいていると言うのに、友達でいてくれてると言うのか…。」


ショックだったのか、テーブルに突っ伏してしまった。


ありゃ、まずったか?

でも精霊は全く嫌な顔してないんだよなぁ。


「ウサギの精霊さんは、嫌な顔をしていません。ニコニコしているので、サイラスさんの事は大好きなはずです。サイラスさんの気持ちが伝わっているのだと思います。」


サティはサイラスの背中を摩る。


「そうだよ。仕方がないだろう?仕事として選んじまったんだ。その分、サイラスはうさぎをしっかり可愛がってるじゃないか。」


仕事かー。そうだよね。仕事しないと、生きてけないよねぇ。


「なんだ?まだあの土地の借地権の権利金の分割の支払いを続けてるのか?」


「ちょっとあの土地は、私ら二人には広すぎたんだよ。」


「そうか。」


「どう言うこと?」


ルークはジェイクに聞いたこと以外、土地の借り方を知らない。


サイラス曰く、ひと財産を使ったジェイクたちの土地に比べれば、サイラスたちの借りた土地はその一割にも満たないそうだが。


普通に暮らしていた帰還者であれば、早々に引退するため、貯金もそれほど持っていないので、引退後の生活基盤となる郊外の土地は頭金を支払い、足りない分は分割して毎年払うのが通例だそうだ。


「その金を払うために、サトウキビ畑農家をしてきたんだが、ゴミが増えて畑の面積が減ってきてな。収穫量も年々減って。払いきれずに借金になっちまった。それで、ただ可愛がって育てていたうさぎも屠殺して売ることになったんだよ。」


サイラスが声を絞りだす。


なにそれ。切なすぎる。


「ここ数年は、うさぎも何故だか生まれにくくなっちまってね。もう何年も金が払えないってんで、サトウキビとジュースの実のゴミを今年からあの土地に引き取ることになったんだよ。ジュースの実専用の倉庫も近々建築が始まるんだ。それで、今後一切、権利金はチャラってわけさ。」


「え!サトウキビとジュースの実のゴミを引き取るんですか!?」


ルークはその話に飛びつく。

ジェイクも目を輝かせてボビーに知らせてくると、部屋を出て行った。


ダイニングで耳を傾けていたハンナとデイジーも手を取り合って興奮して笑い出した。


「「え?っとー?」」


サイラスとサティは訳がわからない。

ここ最近の一番どん底の話をしたはずなのに?


サトウキビもジュースの実、どちらのゴミも腐敗せずに何年もそのままの姿を保ち続ける。何故か土に帰らない。

ということは、いつか自分たちが住んでいるあの土地もそのゴミの山に埋もれてしまうと言うことだ。


ルークたちとしては、わざわざ王都へ出向かなくても、素材が近くにやってくる。こんなに嬉しい事はないのだ!


「あ、あのサイラスさん!その倉庫はどの辺りに建築する予定なんですか?」


ルークも興奮して尋ねる。


サイラスたちとしては、隣に住むジェイクたちに極力迷惑をかけたくない。いつかゴミが溢れたとしても、被害が最小限で済むように、


「こことは反対側の隅にお願いする予定だ。」


キッパリと言う。でもいつか迷惑をかけるかもしれんと思いながら。


「なんですって!」


「あんな端に作るって言うの!?」


ハンナとデイジーが恐ろしい形相でゆらりと立ち上がると、その表情のままサイラスとサティの座っているリビングのソファまで、小走りでやってきた。


「ひっ!本当にすまん!!」


「や、やっぱり迷惑だよね。ごめんよ。ハンナ、デイジー、相談もなしに近くにゴミ倉庫なんてっ!」


「「そうじゃない!」」


両目を瞑って両手を合わせて平謝りする二人に、ハンナとデイジーはキッパリハッキリ否定する。


「そんなに遠くじゃ、行くのに時間がかかるじゃないっ!」


「そうよ!この土地との境目ギリギリに建築しましょうよっ!!」


「あ、えぇぇ…??」


「いやいやいや!それだといつかゴミが溢れて迷惑をかけてしまうよ。」


困惑するサティに極力迷惑をかけたくないサイラス。

そんな二人にルークは言い放つ。


「心配ご無用です!ぜひ、近くに建築して、俺たちに中身を分けてください!」


「「はぁ??」」


意味がわからず、二人は困惑したままソファに座っている。


そうだよなぁ。

今後、増え続けていくゴミと暮らすってなったら、ちょっとした絶望感もあっただろうし。

それを迷惑を掛けまいと離れた場所に建築するって言ってるのに、一番近くに建てて、あまつさえ入れるゴミをくれとか。

意味がわからないだろう。


バタン。


先程ジェイクが、ボビーに安心君を使って呼び出しに行った扉が、再び開く。

みんなでそちらを見ると、ルークの知らないオジサンを連れたジェイクが入ってきた。

しかもそのオジサン、両肩に、たわしを持ったアライグマの精霊と試験管のような瓶を持ったアライグマの精霊を乗せているではないか。


「どちら様で?」


ポツリと声に出てしまった。

この世界で初めて見るオジサンだ。

そう。オジサンなのだ。

つまり、帰還者ではないだろう。

突然の訪問に、ルークは硬直した。


「「サイモン!何でここに?」」


サイラスとサティの声が重なる。


「あ、いや、あのまま帰るのもさ。だって、父さんたちが貰ったっていうなら、ジェイクさんのとこしかありえないじゃない?なのに隠すもんだから。気になって。ごめん。」


どうやら、さっき話にあがったサイラスとサティの息子らしい。今この部屋にいるどの人間よりも老けて見える。不思議な状況。


ルークが困惑しているのを悟ったサティが紹介を始めた。


「ルーク君。こっちがさっき話し出た息子のサイモン。王都で酒を作ってるよ。で、サイモン、この子はジェイクとキースの孫のルーク君だよ。お前が昨日飲んだ酒の作り方を持って帰ってきた方だ。」


「え!?じゃあ、帰還者なのか!あ。初めまして。サイモンと言います。桔梗酒造の経営をしています。美味しい酒が作りたくて、日々精進しています。よろしくお願いします!」


五歳のガキンチョに、とても丁寧に説明をし、ぺこりと頭を下げてくれるオジサン、もといサイモンさん。良い人っぽい。


ちらりとジェイクを見ると、わからんと首を小さく振る。


え?解らんの?


ユキちゃんを見ると、ニマニマと口元が笑っている。


これはオッケーなやつっぽい。

オジサン具合に何故か少しビビるけど、ユキちゃんが大丈夫と言うなら大丈夫なのだ。


「じいちゃん、鑑定!」


「おうよ。サイモン、鑑定させてもらっても良いかい?」


鑑定盤を手に持つジェイクに尋ねられ、何のこっちゃと思いながらも帰還者が言うなら是非もない。

何か意味があるのだろう。


「はい!どうぞ!大した内容出ませんが!」


まるでまな板の上の鯉のように、どうにでもしてくれ!と両手を上げるサイモン。


この人も面白そう〜!


ジェイクがサイモンの鑑定結果をルークに見せる。


---

サイモン 28歳 桔梗酒造経営者

スキル 醸造

魔力量B

魔力操作E

---


「ぐっ。」


まさかの二十代。この顔で!老け顔すぎるっ!


ルークはどうにか声に出さないように抑え込みに成功した!さっき失敗したばかりなのだ。


「うわぁ…魔力詰まり。ハンナばあちゃんの最初の頃と同じだ!これは勿体無いっ!これ解消したら、新しいスキルが手に入るかもー!」


ルークの言葉に、サイモンの両肩のアライグマの精霊はサイモンの頭の上で固い握手を交わしている。


サイラスとサティは魔力詰まりってなんだ?と言う顔をし、サイモンは、え?魔力詰まりって解消出来るの?と呟き、ジェイクとデイジーは、こりゃまた魔力接続だなと思っていた。


「え?私と一緒ってことは、Eなの?」


ハンナは驚いて鑑定の結果を覗き込む。


「B Eか。確かに同じね。でも醸造ってスキル、上位のスキルっぽくない?どう言う事?」


と、疑問をルークにぶつける。


「えっとじゃあ、順番に説明させてもらいます。」


ルークが説明し始めようとした時、扉がノックされた。


トンットンットンットンッ


この叩き方はボビーさんだ!


「はい。どうぞ。」


ジェイクが返事をすると、失礼します!と声が聞こえて、扉が開いた。ボビーとメーネが入ってきた。


いつも通り、社長と秘書って感じの佇まいだ。


「待ってたぞ。今丁度酒の話を始めるところだから、座って話を聞いていてくれ。後で説明する。」


「「承知いたしました。」」


ボビーとメーネはリビングテーブルの端っこに並んで座った。


それを見届けてから、ルークは先程の続きを説明していく。


魔力操作のランクは、魔力操作が下手と言う概念ではなく、魔力の通路が詰まっている、いわゆる魔力詰まりという状態を示しているらしいこと。魔力接続をすることで、解消することが解っているが、まだまだ実験段階であること。現在まで、何かの不都合や副作用は一切出ていない事を説明した。


それを聞いたサイラス、サティ、サイモンは難しい顔をして考えこんだ。


なんだ?なんかおかしかったかな?


ルークはジェイクの顔を見るが、表情の変化はなく、ニコニコとしている。それなら次の説明に移ろう。


「お酒の作り方、製造方法は全部で三つありますが、サイモンさんは幾つご存じですか?」


この説明にボビーが反応した。しかし、後でまた説明があると言う話なので、グッと堪えて静かに続きを聞く。


「俺の知る限り醸造酒だけです。え?三つもあるんですか?」


「はい。製造方法は、醸造酒、蒸留酒、混成酒の三種類です。醸造はご存じの様なので割愛します。昨日お飲みになった果実酒は、蒸留酒を使って作った混成酒となります。醸造酒に何か、ハーブやスパイスを入れたものも混成酒となります。」


ジェイク、ハンナ、サイモン以外は理解出来ていないようだが、作れそうな人が解っていたら良いのだ。


「で、その肝となる蒸留酒ですが、材料は色々ありますが、サトウキビの搾りカスからも作ることができるお酒となりますっ!」


「「「えええ!!」」」


サイラスさん一家が驚きで一瞬固まる。

そして、あっという間に解凍された。


「昨日来てゴミをくれって、そう言う事だったのか!」

「ゴミから出来た酒?あれが??」

「嘘でしょ!?」


解凍後の活きが良すぎる。ピッチピチだ。


「サトウキビのカスを発酵させたり蒸留したりして作られたのが、ホワイトリカーという蒸留酒で、そこに果実と砂糖を加えて熟成させたものが、昨日お渡ししたもの。混成酒です!」


ルークは忘れないうちに続ける。


「サイモンさんのスキル、醸造は、おそらく加工から進化したものだと思うのですが、どうですか?」


「あ、はい。液体の加工が出来たので、一日に一度ですが、使っていたらいつの間にか醸造に。ですが、魔力操作がEだからか、使えません。使えると便利だと言う事だけは理解できているのですが。まぁ、手でゆっくり作るのも楽しみの一つなので、それほど不自由には思っていませんが。」


それでもやっぱり魔力詰まりは解消したほうがいいと思うんだよねぇ。


「デイジーばあちゃん!蒸留水って化粧品作りで使ってる?」


「精製水を使うわね。蒸留水は溶解性が強いから、時と場合によって使い分けるけど。」


「ふんふん。そうか。じゃあまぁ、上水を少しだけ蒸留して貰って、スキルを生やすかな。もう少し説明したら生えるかな?」


「「「スキルが生える?」」」


サイラス一家はびっくりしているが、いちいち相手をしていたら時間がかかるので、気にせずにルークは続ける。


サイモンの両肩に乗る片割れ、試験管みたいな瓶(もう試験管でいいか!)を持つアライグマが喜んで試験管を振り回している。


そっちの子が醸造スキルに進化させた子かぁ。


「蒸留と冷却のスキルがあれば、あげてくれると嬉しいなぁ。多分サイモンさんって、前世の蔵元でしょ?酒蔵の経営者。じゃなきゃ醸造のスキルなんてこの世界になさそうなスキル生えないもんねぇ。ってことは帰還者かぁ。」


老け顔ってだけなのね。でもそのおかげで、引退まで長く働けそうじゃん。


「蔵、元、、、酒蔵…!!」


「え?口に出てた?」


「「「出てた。」」」


あちゃー。やっちゃった?

でもまぁ、いつも通りなんだよねぇ。

もう、お口にチャックは出来なくなってきてるし、もう良いか!


トリガーっぽかったし、大丈夫かな?

サイモンさん。


ルークは肩のアライグマの精霊を確認する。試験管を持ってる方のアライグマの精霊の光が収束してるところだった。


「うんうん。増えたっぽいですね!」


「あ、はい。天啓ってやつですかね?なんか、言葉が降りてきました!」


「「え?」」


サイラスとサティの理解が追いついていないが、まぁいいか。

デイジーがボウルに水を張ったものと、コップを持ってきてくれた。


「サイモンさん。その蒸留と冷却をこの水を使って、こっちのコップに蒸留水にして貰っても良いですか?魔石の代わりに俺が魔力接続しますんで。」


「え?え?あの、魔力接続って?」


「あー、はい。えっと、簡単に言うとですね。俺が魔石みたいなもんなんで。大丈夫です!さぁ!サクッとやって、魔力詰まりも解消しちゃいましょう!」


この言葉に反応したのはメーネだった。

ここにきた翌日、同じように魔力詰まりを解消しないか尋ねられ、なんだか怖くて辞退した魔力接続。

興味はあったが、恐怖に負けた。


だって、実験だって言われたら誰だって怖い。


「さっきも伝えた通り、まだ実験段階ですので、やりたくなければ無理強いはしませんので、決めてください。」


ルークは笑顔でサイラスに告げる。


「やります!お願いします!魔力詰まりを解消出来るかもしれない、こんなまたとないチャンスを逃す人なんていませんよ!よろしくお願いします!」


ジェイクにハンナ、デイジーが自分たちもやったから大丈夫だと告げる前に決心した、オジサン顔を上気させているサイラスを、みんなはニコニコしながら見ている。


うそ!やるの?躊躇いもなく??


メーネが驚きで目を開いている中、ルークはサイラスの背中に手をついて、そっと耳元で呟く。


「さあ、どうぞ。蒸留・冷却です。ボウルの中の水をしっかり見て、隣のコップに出来上がった蒸留水を貯めるイメージです。イメージは大切なので、しっかり目に。こちらはいつでも大丈夫です。」


サイラスは小さく息を吐き、気合いを入れスキルを詠唱する。


「『蒸留・冷却』」


いつも通り、ルークから少しだけ魔力が抜けてサイラスの背中から胸に、胸から両手を伝ってボウルの水に魔力が流れる。水はふわりと光って消えると、コップの中に現れた。


「うーん。これ出来てるかどうか、デイジーばあちゃん判断できる?」


「どれどれ。『鑑定』。うん。蒸留水。出来てるわ。成功よ!」


「「「おお!!」」」「!」


サイラスさん一家は大喜び。

メーネは驚きすぎて現実感が失せていた。


「じゃあ、もう一度鑑定してみるか!」


ジェイクがリビングテーブルの上の鑑定盤を操作して、再度鑑定する。


---

サイモン 28歳 桔梗酒造経営者

スキル 醸造・蒸留・冷却↑

    蔵元↑

魔力量B→B++↑

魔力操作E→B+↑

---


「わぉ。色々変化しましたね!とりあえず無事に蒸留と冷却のスキルもゲット出来ましたし、魔力詰まりも解消されたので、今後、美味しいお酒を作れますね!詳しいレシピはジェイクじいちゃんに聞いてもらっても良いですか?」


「あの!ルーク君!本当にありがとう!今自分の中の魔力がものすごく暖かく動いているのが解る!奥底から湧き上がってくるみたいだ!酒のレシピは情報料として、売上の七割で良いだろうか?」


「えっと、報酬関係は、じいちゃんかそちらに座っているメーネさんとお願い出来ますか?VE会社で酒も扱う予定だったので。」


「え!?そうだったんですか?私、初耳のような…。いえ、わかりました!こうなったらとことんお付き合いします!!」


突然自分からの名前を呼ばれて目を見開く。

それに、お酒については全く聞いていない!

ジュースの実と同じくゴミとしてきたものから喜ばれる商品を作り出し、ゴミ自体を減らすアイデア。

なんて面白いのかしら!!

この子、いいえ。ルーク君は本当に規格外だわ!


「「よろしくお願いします。」」


サイモンとルークは同時に頭を下げた。

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