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【小説7巻12/19発売・コミカライズ2巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第三章 アゼンダ辺境伯領・起業編

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畑作りと行軍訓練?

「大工組、農家組、其々位置へ! 進め!!」

「「「「「「「応っ!!」」」」」」


 セルヴェスの声に幾つもの野太い声が呼応すると、太い建材を担いだ人達が走り出す。続いてスキやクワ、何故か昼食で使う野菜や食材の入った籠を担いだ人達が後に続く。


 わっせ! わっせ! という掛け声に、マグノリアは目を疑った。


「……一体何事なのでしゅか?」

「行軍訓練の一種? ですかねぇ」


 行軍……確かに物凄く重そうな荷物を背負っているけど……まさかあれを担いだまま畑まで行くつもりなんだろうか……というか行くんだろうなと思って、マグノリアはちょっと引く。近いとはいえ、何キロ距離があるのか……

 とんでもない騎士団である。


「始めはかなりの力仕事が多いじゃないっすか? 身体に不調がある者が多いスラムの人間には厳しいかもしれないんで、訓練がてら休みの騎士を手伝いに募ったんですよ」


 ……ガイが事も無げに言うが、それはもはや休みとは言わないのではないだろうか?


(スラム街の人々だけだと何日かかるか気にしてたら、大丈夫だって言ってたのはこれかぁ)


 今日は領都の東側に位置する遊休農地を再開墾する事になった。農家代表として出席してくれた人が、真っ先に手を挙げてくれたからである。

 丁度辺境伯家と領都の間に位置する場所なので、手始めには良いだろうと思う。


 重い荷物を担いでいるにもかかわらず、普通に走り込むのと同じ速さで走っている。

(……コイツら化物みたいな奴らだな)


 窓の中から馬車と並走する騎士を見て、マグノリアはゾッとする。

 お向かいに座るディーンの顔も青ざめている。

 ……本当は騎士志望の彼は、多分数年後の自分の姿を垣間見て慄いているのであろう。



 

 農地に着くと集落の人が揃って出迎えてくれた。にこやかな代表のお爺さんが、進み出る。


「ようこそおいで下さいました」

「こちらこそ、これからお世話になりましゅ」



 集落の人々には仕事に戻ってもらい、食事の時に再び集まってもらうよう伝える。

 リリーとディーンには騎士に手伝って貰いながら簡易かまどを作って貰い、食事の用意をお願いする。

 


 まずは遊休農地の確認だ。土の様子、灌漑の状態、周りの施設や作っている作物等を教えてもらう。


「畑と道の間の邪魔になりゃない所に、肥料小屋を作りたいのでしゅ」

「肥料小屋?」


 お世話係としてか、代表のお爺さんが残ってくれるようだ。

 マグノリアは頷く。


 今回作業をするにあたって館の庭師や実家が農家だという使用人に聞いてみたが、肥料に関しては口伝や個人の感覚による所が大きいらしいのだ。


「畑の土を作るために、肥料を作りたいのでしゅ。人が食事で栄養を摂るように、土も栄養が必要なのでしゅ」


 お爺さんは頷く。

「そうですな……」


「肥料も色々なものがありましゅし、土の栄養の偏り具合でも変わるのでしゅが……遊休農地だったということで、多分全体的に不足していりゅかと思うので、まずはバランスの良いものを作りょうと思うのでしゅ」


 マグノリアは腐葉土や野菜の皮など捨てるものを使って、肥料を作ろうとしていると話す。

 上手く軌道に乗れば工房で出る野菜くずなどもリサイクル出来て、環境にも優しいと思うのだ。


 この世界にSDGsの概念はないかもしれないけど、せめて余計な伝染病を増やさないために、衛生観念は植え付けたい考え方だと思う。


「是非、集落の皆しゃんにも使っていただければと思っていましゅ」

「有難い事です……それでしたら、集落の共同スペースにお作りになって下さい。少しでも畑が大きく取れた方が良いでしょうから」

「別で、小さめの小屋も作ってほしいのでしゅ。骨なども乾かしてから砕いて粉にして、肥料にするのでしゅ」

「骨!?」


 マグノリアは昨日スープを煮出した後、再度焼いた魚の太い骨をポケットから出して見せる。

「よく洗い乾かした骨や卵の殻、貝殻などは焼いてから砕いて粉にすると、肥料としても使えるし、家畜の餌に混ぜても良いのでしゅ」


 マグノリアは小さなトンカチで焼いた骨を砕く。よく焼いてあるので、太さの割に簡単に砕けた。

 細かくなったものを土の上に撒くと、遠くから様子を窺っていた鶏が勢いよくやって来て、我先にと啄んでいる。


「粗すぎると効果が薄かったり場合によっては殆ど無いので、小さく砕いた骨を水車の粉ひき機などで粉状にしましゅ。焼いた貝殻の粉は、肥料や餌だけでなく洗い物にも使えましゅ」

「へぇ……お嬢様は畑仕事などせんでしょうに、ようお解りですなぁ」


 感心した様子で何度も頷いた。

 ……少々やり過ぎだろうか? マグノリアは愛想笑いをしながら決まり文句を言う。


「……いつだったか(日本で)、本で、読んだのでしゅ……」



 使い道をある程度説明した所で、セルヴェスの号令によって大工組と呼ばれていた騎士達が小屋づくりを始めた。

 彼等は実家が大工らしく小さい頃から手伝っており、ある程度作業に慣れている人達らしい。


 ……セルヴェスは太い柱を持ち上げると、獣のような唸り声と共に地中にぶっ刺している。

 その横で勇ましい掛け声とともに、あっという間に骨組みが作られていく。



 初めはおどおどしたり、反発をしたりしていたスラム街の人達も、作業が進むにあたってそうも言っていられなかったのか、自然と協力して作業をするようになっていた。



 もう一方は、クロードの号令によって農家組が遊休農地を耕している。こちらも実家が農家の人達だそうだ。

 始めに抜いた雑草は先程の肥料に混ぜてしまえば良いだろう。端の方に避けておく。

 

 暫くの間使っていなかった畑のため、堅くなった土を丹念に耕す。

 ガタイの良い騎士達はシャツの腕をまくり、猛然と耕している。スラム街の人は騎士の様子を横目で見ながら、土の感覚を確認しながら作業している様子だ。


 ガイは次の作業のためにメモを取っており、興味深そうにあちこちを確認しては書きつけている。


 パウルは大工組に混じってしまったらしく、目を白黒させながら建材をヨロヨロと運んでいた。


 ヴィクターも楽しそうに、一部の騎士たちとどちらが早く耕せるか競争をしているようだ。赤いパイナップルヘアが激しく動いていると同時に、まるで機械のような速さで耕されていく。


「…………」

(ギルド長は派手だからすぐ解るね……)

 セルヴェスには触れないでおく。


 マグノリアは全体の様子を順番に確認した所で、調理に参加する事にする。リリーとディーン、スラム街の子どもが数名作業をしていた。

 はじめは警戒していた子供たちも、優しいお姉さんと、同じ子ども同士という事で打ち解けたらしく、楽しそうにワイワイと作業をしている。

 マグノリアはそれを見て、良き哉良き哉と頷いた。

 

 そうやって周りを確認しながらスープの味見をして、茹でたうどんをスタンバイする。

 そして先日購入した鉄板を、簡易かまどに乗せ油をひく。

 この上に冷蔵の魔道具で冷やしておいたモツを置いて、ホルモン焼きにするのだ! 勿論昨日作ったつけダレも木皿とともに持参してある。


 本当は、完成したザワークラウトを保管するための温度調整器なんだけど……まだ使っていないし、モツが傷んじゃうからね? 試運転という事で使わせてもらった。




 暫くすると作業を終えてお腹を空かせたみんなが、鼻をヒクヒクさせながら戻ってきた。


「うおー!! めっちゃいい匂いがする!」

「肉! 肉! 肉!」


 大騒ぎの連中に向かって声を張り上げると、良い返事が返ってきた。


「みんな手を洗ってきて! 食事はそりぇかりゃよ!!」

「「「「「「はーい!!」」」」」」


 我先にと走っていく中、遠巻きに様子を窺っている集落の人にも笑顔で手招きする。


「皆しゃんもどうぞ! 食器が足りにゃいかもちれないので、ご自宅かりゃお持ちいただけりゅと助かりましゅ」



 そして、行軍宜しくシートの上や石の上などに座り込み、それぞれ好きなものを食べてもらう事にする。勿論お替り自由だ。

 最初はおっかなびっくり口に運んでいる人もいたが、いざ食べれば黙々と咀嚼を始める。


 ――始めから躊躇なく、飲み込むようにして食べている猛者もいるが。




「これが、お嬢の言う骨や内臓を使った賄いなんすか?」

 ガイはまじまじと深皿に盛られたうどんを眺める。箸は無いのでフォークで食べる。


「あい。骨で出汁を取り、野菜や肉等好きなものを入れて好きな味付けで食べれましゅ。さっきも言った通り、使った後の骨は粉にして畑に撒いたり、家畜の餌に混ぜたり出来ましゅ」


「本当に無駄がないのだなぁ」

 上着を肩にかけ、意外にも上品にうどんを啜るセルヴェスが頷きながら口に運ぶ。

 こういう時に、彼は生まれながらの高位貴族なんだなと再確認する。食べ方がとても綺麗だ。


「まあ、土の状態によっては控えた方が良い場合もありゅので、少しずつ使ってみて適量を見ちゅけたり、慣れないようにゃら家畜の餌に混ぜたら良いと思いましゅ。わたちも余り農業関連に詳ちくないので、大ちた説明は出来ないのでしゅが。

 ……普段はどんな感じで処分してましゅか?」


 代表のお爺さんに聞く。

「……そうですね。焼いて捨てる者、深く穴を掘って捨てる者が大半ですが、時折放り投げるだけの者もおりますね」


 うんうん。そうだよね。


「そうすると、臭いが気になりましゅよね……野生動物が来て荒らしたり、虫が出たりもすりゅかと思いましゅ。なので、ちょっと面倒でしゅけど、出来るなら再利用したら美味しいし役にも立ちましゅ。無理そうなら、燃やして深く埋める方が良いと思いましゅ」


 黙って話を聞いていたクロードが、ついに鉄板からモツを持ってきた。


「そのつけダレをつけて食べてみて下しゃい」

 頷いて、そっと口に運ぶ。


「! ……旨い。ちょっと癖はあるが、脂が甘いのだな……」


 ゆっくりと味わいながら、何かを確認するかのように咀嚼している。


「あい! 内臓も部位によって色々な味や歯ごたえがあって、面白いのでしゅ。食べりゃれない動物や魚の内臓もあるかもしれないので、確実に解っているものか、購入したものの方が安全だと思いましゅが」


 マグノリアも焼けたホルモンを葉野菜で包み、豪快にかぶりつく。そして頬張ってモグモグする。

 まるでリスのような見た目に、みんな小さく笑みを浮かべた。


 焼き肉ならぬホルモン焼きも、受け入れられたようである。


(……一時期ホルモンが好きな女子を『ホルモンヌ』って呼んだり、B級グルメと合わせて人気を博していたっけなぁ)


 

 いつしか離れた場所では、騎士とヴィクターとスラム街の人々が、酒も入っていないのに肩を組みながら歌い始めた。さながら宴会場だ。


 ちょっと呆れながらも、安心する。


(やっぱ、同じ釜の飯を食うってやつなんだねぇ)


 食事会は大盛況で終わりを告げた。

 地元の人とも交流ができ、無事に一日で肥料小屋と試作の肥料仕込に、畑の土おこしも完了した。

 結果は上々である!


 しかし。


 後日、この話を聞いた騎士団の面々は大層悔しがり。

 幻の料理(?)を巡り、残り三か所の作業ならぬ行軍訓練参加者を決めるための戦いが、苛烈を極めたらしかったのを、ここに記しておこう……

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