表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【小説7巻12/19発売・コミカライズ2巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第五章 王都王宮・お見合いそして出会い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

150/356

終局

 襲撃の話は瞬く間にアスカルド王国中に広まった。

 新聞に掲載された位なので、当たり前と言えば当たり前なのだが。



 まずはキャンベル商会からお見舞という名の報告書が来た。


 襲撃され怪我などは大丈夫なのかという確認と、襲撃されたばかりで、色々大変だろうから心身共にきちんと休むようにという文言。今回は訪問を遠慮するという気遣いに満ちた断りの言葉と、確認する予定だった販売物の数字の色々が記載された書類が同封されていた。


 忙しい最中に書類を纏めて頂き、大変申し訳ない事である。


 ジェラルドが怪我をした事も当然知っている訳で……軍部の聞き取りだとかあれやこれやを鑑みて、落ち着いてから話をしようという事であった。


(……カギホックとボタンを作って、売って貰おうと思ってたのに~)


 とは言え、状況を考えればサイモンの言っている事も尤もな訳で。


 あちらも忙しい身でもあるので、気遣いを無下にして無理を言うのも良くないであろうと了承とお礼の手紙をしたためた。


 犯人が良く解っていない現在、貴族も富豪の平民も外出を控えている人が多い。

 余計な外出は控える方が良いだろうと思うマグノリアであった。

 


 リリーも休暇を切り上げてタウンハウスへ帰って来ると騎士経由で言ってきたが、万が一があり巻き込まれるといけないので、予定通り最終日にピックアップする旨返事を返したのだった。

 


 そして。

 再三送られてくる王妃様からの手紙への返事は、体調を崩している一点張りで返信だ。


 軍部がまだ事件を調査している状況で、お茶とか観劇に行こうとか、ちょっと何を言っているのか解らない。

 ……言葉は解るが、その行動理由が。



 ガーディニアからもお見舞のお手紙が届いた。


 いきなり乗り込んで来た時は驚いたマグノリアだったが、お見舞と心配している事と、元気になって欲しい事がきちんと書かれた手紙だった。

 

 こちらも怪我などは無い事と、手紙を受け取って嬉しかった事を書いて返信する。



 ヴァイオレットには帰宅後、いの一番に手紙を書いた。

 ジェラルドが無事目を覚ました事、ポーションを使った(ナイショだが)ので、怪我はだいぶ治り、もう心配ない事を付け加えた。


 翌日には凄まじいテンションの返事がやって来た。

 推しへの情熱というのは凄いのだなぁと遠い目になったのは仕方ないであろう。


 


 セルヴェスがやって来た翌日、タウンハウスにアイリスがやって来た。


 まずは無事ジェラルドが目覚めた事を伝えると、ほっとしたように顔を綻ばせた。

 同級生であり同じ様な家業と言う事で、憎まれ口(?)を叩きつつも、お互い気に掛けているらしい様子が垣間見れる。


 そして、応接室でディーンとマグノリアと別々に、事件の聞き取りをされる。

 ……発言が他者に引きずられたり、意識のすり替えがないようにだ。


 魔道具を投げた辺りの説明で苦笑いをされたが、他の調書とも食い違いは無い事と、魔道具で縛り上げておいたからこそ大量検挙出来た事もあり、比較的あっさりと終了した。



 捕まえた襲撃者達からも、少しずつ供述が取れているそうだ。

 未だ正式発表前の為詳しくは言えないが、薬物と金銭が欲しい者達が大量に集められていたらしい。


 盗みを始め、短期間で色々な悪事を行っていたらしいが、一番は誘拐だという。


「誘拐……金銭目的ですか?」

「うん……色々だったみたいだね。身代金目的は無かったみたいだけど、人身売買みたいな時もあれば……」


 アイリスは言葉を濁す様に言い淀んだ。

 何か言い難い事があるのだろう。マグノリアは小さく頷いて言葉を続けた。


「そうですか。じゃあ、雇い主までもう一息ですね?」

「ああ。最近不審者が目撃されているという報告が出ていたんだが。こんなに大きい団体で、多岐にわたっていたなんてね」


 やり切れないような顔をしたアイリスが、小さくため息をつく。


 静かにお茶を飲むと、セルヴェスとクロードと暫し話をして帰って行った。



 ガイ達も色々な報告を持って来ているらしかったが、セルヴェスとクロードの口は重かった。

 こちらも言い難い事実が判明しているのだろう事が察せられる。

 ここ数日ガイは護衛につくことはなく、ずっと外へ出ている。


(――もしかすると、ターゲットは私だったのか)

 大人たちの様子から、そんなような予想がついてしまう。


 かなり沢山の人間が集められていた事から、黒幕は貴族なのだろうか。

 そうだとして、何故貴族がマグノリアを狙うのか?


 王太子妃候補に関しての事か。それとも事業が順調な事を知ってる人間による犯行?


 それ以外に理由があるだろうか……?

 どちらかと言えば、悪い噂が蔓延しているであろうマグノリアをつけ狙う理由が解らない。



 ふと窓辺を見れば、カラドリウスと鴉が何やら話し込んでいる。

 カーカー、ピピピとお互い囀っている様にしか見えないが、頷いて見たり羽をばたつかせてみたりと賑やかな事である。


(私がターゲットなら、アゼンダに帰った方が安全なのかなぁ)

 

 アゼンダ辺境伯領には騎士団の騎士達がいる。

 警備や警護の点でも、明らかにこちらよりも手厚い上に容易であろう。


 自分の安全も大切であるが、周りの人間の安全も大切である。

 これ以上誰かに怪我をさせたり、巻き込んだりは望んでいないのだ。


(……用事も済んだんだし、爺様とクロ兄に言って帰ろうかなぁ)

 

 そんな事を思っていたが、事件は急展開を迎えた。



 執務室へ行くと、いつものようにセルヴェスとクロードがいた。

 話し終えたらしいカラドリウスを肩に乗せ部屋に入り、帰領しようと思う事を告げると、二日程待つようにと言われる。


「……解りました」


 何処か張り詰めたような、そんな様子だ。

 進展があったのだろうか。聞いたら答えてくれるのか。


 ただ、言わないという事は積極的に話したくはないのだろう。

 セルヴェスの右手を握る。彼が剣を握る手だ。

 大きくて厚い手は、マグノリアが両手で握ってもまだ余る。


「危険な事はありませんか?」

 セルヴェスもクロードも。


 セルヴェスは微かに瞳を瞠って、強く握られた小さな手を見た。

 昔。戦場に出る時に、小さなジェラルドが同じように手を握っていたのを思い出す。

 心配と、引き留めたいのと。だがそれは出来ないと知っているのだ。


 マグノリアも同じように、何かを感じているのだろう。

 クロードを見ると、何かを考えるように吟味するようにしていたが、セルヴェスに顔を向けた。


「今日か明日の夜、黒幕と思われる人間の取引があると情報が入った。軍部と共に捕物に参加する」


 捕物。

 どの位の規模なのかわからないが、また戦闘があると言う事か。


 セルヴェスとクロードを見て納得する。


「タウンハウスは騎士とお庭番に護らせる。心配はいらない」

「はい」

「大人しくしていなさい」

「……解りました」


 ……こんなに気迫を漲らせていて、黒幕の命は大丈夫なのだろうか?

 勿論戦闘に向かう家族が心配ではあるが、それ以上に犯人の無事が危ぶまれる。


 今後の討伐に際して相談事もあるだろうと、執務室を後にする。

 タウンハウスに奇襲がある事も想定されているのだろうか。


 マグノリアは考えながら屋敷の廊下を部屋へと歩いた。


 夕食後、軍部より早馬が来た。

 慌ただしくふたりが甲冑を纏い、金属のぶつかる音を立てながら廊下を歩いて行く。


 物々しい様子に、ディーンは緊張した顔で立っていた。

 対照的にタウンハウスの人々は慣れているのか、落ち着いた様子である。

 ――かつては何十年と見慣れた風景。


 見送りに出る為に玄関のロビーに行くと、ここでいいとの事であった。

 警備の問題で、外へ出ない方が良いのであろう。


「必ずや首を持ってくる!」

 気合の入ったセルヴェスに、比喩なのか物理なのか判断に迷う所だ。


「……ちゃんと捕まえて下さいね? 生きて罪を償わせるんですよ?」


 念のためにごく当たり前のことを念押ししておく。

 クロードが微妙な顔でふたりのやり取りを見ていたが、暫くして馬の嘶きと共に遠ざかって行った。



 捕物は、呆気なく収束した。

 廃屋とまでは行かないものの、普段使用されていない建物に黒幕と目されていた人形師の男と、その男が雇った男たちが十人程潜んでいたそうだ。


 取引相手は時間になっても現れず、軍部の動きを何処かで知ったのか、とうとう姿を現さなかったらしい。


 ある程度の時間で軍の兵士を始め、セルヴェスとクロード、東狼侯であるアイリス。更には雪辱とばかりに怪我をしたジェラルドまでが武装して捕物に参加し、突入したらしかった。


(何という過剰戦力。それに幾らポーションを飲んだとはいえ、数日前まで死にそうだった親父さんは大丈夫なのかね)


 ほぼ秒で全員が制圧され、黒幕はあっさりと取り押さえられたのであった。


 勿論、警戒するタウンハウスに賊が入るような事も無く……緊張でガチガチになるディーンをあざ笑うかのように至って安全に、朝を迎えたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ