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15話 女神様は諭す

「……以上が、これまでの出来事です」


『たわけにも程がある……。そもそも、一度目でお主の勝利が決まっていた以上、その後の戯言に付き合う必要なぞなかろう!』


「それはそうなのですが、私が席を外すことで他の子が危険に晒されると思ってしまい……」


『ならば連絡くらい寄越せばよかろう! それがあれば妾も多少は考慮してやったやも知れぬと言うに!』


「私も先に連絡を入れさせて頂こうと思って聞いたのですが、勝負事の途中での退席は認めないと仰られたので……」


『なんじゃその意味の分からん発言は!? そもそも勝負に負け続けて付き合わせておるのがこ奴じゃろう!?』


「ですが、勝負中に抜け出されたら俺としても興が冷めるっつーか」


『黙っておれ! 興冷めさせるのは貴様の存在じゃ!! 貴様、次妾に口を利こうものなら二度と話せぬ体にしてやるぞ!!』


 シリア様の激昂を真正面から受けたゲイルさんの体が、体格はいいはずなのに私より小さく見えるほど縮こまります。流石に私としても居たたまれなくなり、シリア様に赦しを得ようと視線で訴えようとした瞬間に、「ふざけたことを抜かせば許さん」と言わんばかりに睨みつけられました。


『大体、魔族の領主ともあろう者が、たかがゲーム如きで負けて悔しかったからやり直すなぞとんだ笑い話じゃぞ!? 貴様、それでも街を治める頂点に立つ者なのか!?』


「すいませ――」


『口を開くな!! 二度はないと言ったはずじゃ!!』


 無茶苦茶な暴論をぶつけながら、ついに我慢の限界に来たらしいシリア様がゲイルさんに飛び掛かろうとしますが、後ろから長い腕がシリア様の首を掴んでそれを止めました。


『ぐえっ』


「は~い、シリアそこまで。暴力はダメよ?」


『放さんか阿呆! こやつの中身の無い脳に、妾が嫌と言うほど叩き込んでやる!!』


「す~ぐ力で解決させようとするんだから。あなたがゲイルくんの言葉を全部潰しちゃったら、話し合いも何もないでしょう?」


『何を話し合う必要があるというのじゃ!? 戯言を並べられるだけ――きゅ!?』


 シリア様が言葉の途中で可愛い声を上げたと思ったら、白目を剥きながら脱力していました。よく見ると、フローリア様の両手がシリア様の首に添えられています。まさか、力業で気絶させたのでしょうか……。


「もう今日のシリアは頭回ってないから静かにしててね~」


「あたし、フローリアがその言葉使うのにはすっごい違和感あるわ……」


「えぇ~!? 私だってちゃんと考えてるも~ん! ぷんぷん!」


 フローリア様はだらんとしているシリア様を振り回しながら全身で不服を表現していましたが、私達の方へ向き直ると、いつもとは異なる真面目な雰囲気で諭すように話し始めました。


「まずはゲイルくんからね。負けて悔しかったのはすっごい分かるけど、だからって自分のワガママでシルヴィちゃんに無理やり付き合わせるのはダメ。シルヴィちゃんにだってやらなきゃいけないことはあるし、いつまでもあなたと遊んであげられる訳じゃないのよ?」


「すいません……」


「うん、悪かったって思えてるならよし! 今度からは、ちゃんと他の人の事情も考えてあげること。お姉さんと約束できる?」


「約束します」


「よしよし、素直な子はお姉さん好きよ~?」


 まるで子どもに事の良し悪しを説くかのような柔らかな言い方と、褒めながら初対面であるはずの彼の頭を笑顔で撫でるフローリア様に驚かされました。普段が普段なばかりに、一応女神様だという認識が薄れてしまっていたのかもしれません。


「あ~! シルヴィちゃん、今私の事を悪く思ってたでしょ?」


「そ、そんなことはありません!」


「嘘つく子は~……こう!」


「うぎゅっ!!」


 正座中の私を思いっきり抱きしめ、豊満過ぎる胸に埋められます。何とか顔をずらしてフローリア様を見上げる形で息継ぎをすると、私を慈しむような目で見下ろしていました。


「シルヴィちゃん、今日のシリアがなんであんなに怒ってたか分かる?」


「私が、約束を守れなかったから……でしょうか」


「それもあるけど、それはあくまで表向きの理由。シリアはね、シルヴィちゃんに渡した()()のせいで、魔法が使えなくなったシルヴィちゃんが襲われてるんじゃないかってすっごい不安になってたのよ。表には魔族特有の結界も貼られてたから、余計心配だったんじゃないかしら」


 そこで一度言葉を切り、私の頭を撫でながらフローリア様が続けます。


「シリアはあなたのママじゃないけど、親に似た気持ちを持ってるはずだから、娘であるシルヴィちゃんに何かあったらって気が気じゃなかったのよね。だから、あまり心配かけるようなことしちゃダメよ?」


「……はい」


「まぁシリアの気持ちは、今はまだ分からないと思うわ。でもね、いつかあなたが家庭を持って、愛する人が出来た時に同じような時があったら、シルヴィちゃんもきっと泣き出しそうなくらいに心配になると思う。だから家族ごっこの今であっても、その気持ちはみんな持ってるんだって忘れないであげてね」


「ごめんなさい、フローリア様……」


「いいのよ~。シルヴィちゃんだって、好きでやってた訳じゃないものね。それもみんな分かってるから、何かあったら連絡できるようにウィズナビは手放さないようにしてね」


「分かりました。今後は気を付けます」


 フローリア様は私の返答に頷くと、未だ意識を取り戻していないシリア様の体を持ち上げ、前足で私の頭をぺしぺしと叩きながらシリア様の声真似で言いました。


「分かったならばもう良い。ほれ、帰るぞシルヴィ。妾はもう腹が減ってならんのじゃ」


「……ふふっ。そうですね、すぐに晩御飯を準備します」


 立ち上がったフローリア様に続くように立ち上がり、チョーカーを首から外して元の体に戻ります。魔力が体を巡り始め、兎人族の姿より体が軽く感じられます。


 そんな私を見ていたゲイルさんが、顔色を変えながら立ち上がり、震える指先で私を指しながら尋ねてきました。


「お、おま、シルヴィ! お前、魔女だったのか!?」

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