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8話 兎人族は店を手に入れる

無事に人前に出せるようには腕前の上がった兎人族の子達。

村の獣人族にお願いしていたお店の方も出来上がったようです。

 あれから一週間ほど、兎人族の皆さんと楽しく料理教室を続けた結果、なんとか人前に出してもおかしくない料理を作れるようになりました。


 今のところはしっかり食べたい人向けにオムレツとハンバーグ、シチューにサンドイッチ。お酒のおつまみに食べたい人向けにフライドチキンやポテトフライ、ビーフジャーキーなどを作る予定で、もし希望があれば私の方でレシピを考えながら増やしていくという方針です。


 そして今日は、村の方々にお願いしていた彼女達の酒場が完成したので、教鞭を振るいに来ていたエルフォニアさんも含めてみんなで見に来ています。

 場所は私達の家の側にある川を渡って少ししたところで、こちら側から向かえる様に橋も作られていました。


「どうっすか魔女様! 俺達力作の酒場ですよ!」


 謎のポージングはさておき、彼らが頑張ってくださった店内は素晴らしいものになっていました。

 基本的には木造で作られた店内ですが、本で読んだ冒険譚に出てくるような酒場そのもので、カウンターテーブルや数人で囲めるテーブル席、中央にはラヴィムーンとして活動が出来そうな舞台まで用意されています。


『ほほぉ……この短期間でよくぞ作り上げたものじゃな。シルヴィ、ちと体を貸すのじゃ』


「えぇ!? 嫌な予感しかしないのですが……!」


「大儀である! お主らの筋肉は伊達ではないのぅ! むぅん!」


「「ナイス魔女さマッチョ!!!」」


『もう! やめてくださいシリア様! 返してください!』


「やれやれ、ほんに冗談がわからぬ奴じゃのう……ほれ」


 シリア様から体を取返し、赤くなった顔を隠すように他の場所へと移動します。

 酒場エリアの裏手には大きな倉庫があり、うちにもあるような酒樽がいくつか置いてあります。その横には立派な台所も用意されていて、ちょっとだけここで料理がしたくなる気持ちを押さえながらさらに移動します。


 裏手の扉から外へ出て、二階へと繋がる階段を上がって建物内部へと入ると、たくさんの扉が並んでいました。


「ここは生活エリアっす! 流石に二十人分の部屋は個室で作るのは無理があるんで、相部屋で作ってます!」


「あらぁ~! なんだか宿屋さんみたいじゃない?」


「あたし的には学生寮を思い出すわー。あ、食堂は下が兼ねてるのね」


「そうっす! で、奥はシャワールームっすね」


 奥へと案内され中を覗くと、村の集会所にあるようなシャワールームが並んでいました。

 シャワーの作りを観察していたエルフォニアさんが、少し意外そうに口を開きます。


「兎人族はお風呂では無くてシャワー派なのね」


「俺達もどっちか分かんなかったんで聞いたんすけど、なんでも魔族領での風呂って懲罰に使うものだったらしくて凄い嫌がられまして」


「あぁ、そう言えばそんな使われ方もしてたかしら」


「お、お風呂を懲罰に使うのですか?」


「ええ。私達が湯船に入るような温度ではなくて、もっと沸騰に近い温度でお湯を張って、悪さをした者をそこへ放り込むのよ。もちろんタダでは済まないし、出ようとしても上から棒で抑えつけられたりするから逃げられないっていう一種の拷問ね」


 煮え湯に放り込まれる……。想像するだけでゾッとします。

 エルフォニアさんは私を笑いながら言葉を続けます。


「まぁ最近はそんなに使われてないらしいわ。でも、もしかしたら大釜の中から這い出ようとする幽霊の姿を見てしまったから苦手、という可能性もあるわね……」


「ひぃ……っ!」


「ちょっとエルフォニア、あまりシルヴィを怖がらせないでよ!」


「ふふ、冗談よ」


 クスクスと笑うエルフォニアさんに怒るレナさんですが、どこかソワソワとしていました。もしかしたらレナさんも、こういった話は苦手なのかもしれません。


「と、とりあえず! 家はこれで完成ですし、皆さんに明け渡してあげましょう!」


 私は強引に話題を逸らすことにして、そそくさと家の外に出て行きます。

 後ろからエルフォニアさんとフローリア様が楽しそうにしている声が聞こえましたが、聞こえないふりをすることにしました。


 村に戻った私が兎人族の子達を連れて戻ると、彼女達は大喜びで家の中を探索し始めました。

 厨房を確認する子、店内で踊り始める子、早速店員の真似事を始める子……本当に楽しそうです。


「こんなに立派なお店を作っていただいて、ありがとうございます! 私達、頑張って酒場を盛り上げます!」


『うむ、励むがよいぞ。酒と食料はあとで運ばせるが故、明日からでもやってみよ』


 シリア様の言葉を代わりに伝え、ペルラさん達は元気よく返事をすると、いそいそと家の確認に戻っていきました。あとは自由にさせよとシリア様が仰るので、私達はその場を後にして家に帰ることにしました。


 明日から活動を開始する彼女達のお店が、既に今から楽しみです。

 朝も忙しくすることでしょうし、何か差し入れを持って行ってあげることにしましょう。

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