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7話 魔女様は慕われる

兎人族の子達に料理を教えることになったシルヴィ。

彼女はとある理由から慕われることになります……。

 和やかにお昼休憩を過ごすことが出来たこともあって、午後の料理教室では皆さん伸び伸びと料理を楽しんで取り組むことが出来ていました。

 それでもやはり、ペルラさんが色々と失敗することはあったのですが、だんだん慣れてきたらしい他の子達によるサポートもあって、無事に七個のオムレツが完成しました。


「「できた~!」」


 初めて作った手作り料理に歓喜の声を上げる兎人族の皆さん。

 ところどころ卵が破けてしまったり、若干焦げてしまったり、ケチャップで絵が描けなかったりとアクシデントはありましたが、形にはなっているので成功と言えるでしょう。


「お疲れさまでした。それでは味見をしてみましょうか」


 改めて食堂へと戻り、全員で出来上がったオムレツの試食をします。

 スプーンでオムレツを掬って焦げた中身が見えた瞬間に、周囲の子がそれを見ながら笑い出したり、一見綺麗なオムレツだったのに食べたら殻が入ってたと騒いだりと、とても賑やかな試食会になりました。


 食べ終えてみんなで洗い物をしていると、私の隣で食器を拭いていた子が話しかけてきました。


「シルヴィ様って、魔女様なんですよね?」


「はい。とは言っても、魔女様になってそんなに経っていませんが……」


「こういうことを聞いていいのか分かんないですけど、シルヴィ様っておいくつなんですか?」


「今年で十六になります」


 私が答えると同時に、持っていたお皿を流しの中へ落としながら、ぎょっとした顔をされました。周囲からも視線を感じて見渡すと、他の子達も手を止めて私を凝視しています。


「ど、どうかしましたか……?」


「シルヴィ様、私達とほぼ同い年なの……? え、本当……?」


「ちょ、ちょっとみんな集合!」


 戸惑う私を置き去りにして、小さく固まって会議を始める皆さん。そんなに驚かれるようなことだったのでしょうか。

 そう言えば、たまにシリア様からお叱りを受ける際、『大人び過ぎている』と言われることもありました。もしかしたら、かなり年上に見られていたのでしょうか……。


 得体の知れないショックを受けていると、会議を終えたらしい皆さんが私の元へ集まり、ペルラさんが代表して口を開きました。


「あ、あの、シルヴィ様!」


「何でしょうか?」


「その、魔女様であるシルヴィ様にこういうことを言って良いか分からないんですが……。あ、でもでも、嫌だったら全然怒ってください! すみません!」


「いえ、話の内容が分からないので怒るも何もないのですが……。とりあえず、遠慮なくどうぞ」


 私が促すと、ペルラさんは一旦深呼吸を挟み、何かを期待した目で私をまっすぐに見上げてきました。


「あの! 私達とお友達になってくださいませんか!?」


「…………?」


「私達、今まで歳の近い人と会ったことが無かったんです! 魔族領の皆さんはだいたい数百年生きていましたし、兎人族のみんなは友達と言うよりは家族なので、友達ってできたことが無くって」


「シルヴィ様って、魔女様だけど魔女様っぽくないって言うか、怖くないって言うか、話しやすいって言うか……」


「最初見た時はすっごい美人だし、話し方も動きもお姉さんみたいで大人の人なのかなって思ってたんですけど、同い年って聞いてびっくりして、嬉しくなっちゃって」


「だからその、もし失礼でなければ、魔女様としてでなくシルヴィ様個人として、お友達になってくれたら……って。あぁぁ、失礼ですよね! やっぱりなんでもないです、ホントごめんなさい!!」


 途中から申し訳なさが勝ってしまったのか、慌てて謝りだしてしまう皆さん。

 魔女らしくない。話しやすい。それは私が魔女としてしっかりできていないと言うことなのですが、それよりも私は何故か嬉さが込み溢れてきてしまっていました。


 魔女としてではなく、私として接したい。


 そう願われた私の気持ちは、既に決まっていました。

 彼女達の目線に合うように少し屈み、笑いながら声を掛けます。


「顔を上げてください。全然怒っていませんよ」


 恐る恐るといった感じで顔を上げる皆さんに、そっと手を差し出します。


「では、これからは魔女としての私ではなく、シルヴィ個人とお友達になっていただけますか?」


 彼女達は一斉に顔を輝かせ、同時に私に飛びついて来ました。


「ありがとうシルヴィ様~!!」


「やったぁ~! 初めてのお友達だ~!!」


「わわっ! そんなに抱き付かれたら動けないですよ!」


「えへへ! シルヴィ様柔らかぁい」


「あの! 呼び方もシルヴィ様じゃなくてもいいですか!?」


「え? えぇ、お好きなように……。私自身、敬意を払ってもらいたい訳ではないので敬語とかも無くて構いません」


「いいの!? シルヴィ様やっさし~!!」


「ちょ、ちょっとみんな! 流石に馴れ馴れしすぎるよぉ!」


 一人だけ抱き付かずに不安そうにしてるペルラさんに、私は優しく笑いかけます。


「いえいえ、全然構いませんよ。ハイエルフの方々も似た感じで接してくださっていますので、ペルラさんも普段通りに接してください」


「えぇ……。じゃ、じゃあ、シルヴィ様――ううん、シルヴィちゃんがそう言うなら!」


 そう言うと、ペルラさんも私に飛びついて来ました。流石に既に六人に抱き付かれて自由が無かった状態で飛びつかれてしまい、その衝撃を受け止め切れずに後ろへと倒れてしまいます。


「わわ、わ~っ!」


「きゃぁ~!!」


 私が一番下敷きになり、顔だけ起こすと皆さんの笑顔が間近にありました。一瞬だけ見つめ合うと、どちらからともなく一緒に笑い始めます。


 そうしてしばらく笑っていたところへ、レナさんとフローリア様の声が聞こえてきました。どうやら、私達の様子を見に来たようです。


「シールヴィー、調子はど…………って、何やってんの?」


「あらぁ~! シルヴィちゃん、うさぎちゃん達に押し倒されちゃってる! 私も混ぜて混ぜて~!」


「ふ、フローリア様! 今はダメで――ふぐぅっ!!」


「うふふ! うさぎちゃん達もふわふわでいいわ~! むぎゅ~!」


「お、重いです女神様~!」


「潰れちゃう~!」


「私は重くないわよ~! そんな悪いことを言ううさぎちゃん達は……こう!」


「あっははははは! ダメ、耳はダメですぅ!!」


「やめて~!!」


 フローリア様が私達の上で、兎人族特有のうさぎの耳を弄り始めました。とても楽しそうで何よりですが、そろそろどいて頂けないと本当に潰されてしまいそうです……。


「ちょっとフローリア! シルヴィがマジでやばいから! ほらどいて……っ!」


「あぁ~ん、もふもふの耳~」


「ほらあんた達もどいてあげて! 何があったか知らないけど、シルヴィの体力は普通の女の子以下なんだから!」


 怒られたペルラさん達が私の上から移動し、レナさんに差し伸べられた手を取って立ち上がると、ペルラさん達はいたずらを怒られた村の子ども達のような顔をしていました。それを見て私もつられて笑ってしまいます。


「ていうか、シルヴィ。この子達と随分仲良さげじゃない? そんなに料理教室が上手くいったの?」


「料理の出来はまだまだこれからですが、彼女達とは友達になれたので楽しく料理できましたよ」


「うんうん! シルヴィちゃん明日もよろしくね!」


「はい。明日も頑張りましょうね」


「「は~い!」」


「……なんだかよく分かんないけど、シルヴィが楽しそうだからいいわ」


 呆れるようなレナさんの声を聞きながら、私達はまた笑いあうのでした。

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