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2話 魔女様はお祭りを満喫する

平和な日常に忍び寄る怪しい影……。

新キャラ登場回です!

 そして迎えた太陽の日。

 軽めの朝ご飯にしていたこともあり、エミリとフローリア様のお腹から元気な虫の声が聞こえています。


「シルヴィちゃん、何か食べてから行かない? 私もう立てな~い……」


「お姉ちゃ~ん……。わたしもお腹すいた……」


「もう少ししたら村に向かいますので、我慢してください。今作ってしまうと、村でせっかく用意してくださっている料理が入らなくなってしまいますよ?」


「そうよフローリア。あと一時間もないんだから待ってなさいよ」


「ふぇぇ……」


 悲しそうに項垂れる二人を見ていると忍びなく感じるので、気を紛らわせるようにクッキーを数枚だけお出しすることにします。別に嫌がらせをしているつもりは一切ないのですが、泣きながらちびちびと齧る姿に何とも言えない罪悪感を感じました。


 レナさんの言う通り、お祭りが始まるまでは既にあと一時間を切ってはいるのですが、今からのんびり向かえば少し早い到着くらいにはなるでしょうか。村の皆さんには申し訳ないですが、目の前に食べ物があるのに食べられないという家での待ち時間よりは、移動している方がマシかもしれません。


 シリア様にその旨を耳打ちすると了承を頂けたので、私達は家を出て村に向かうことにしました。


 最近は夏も近くなっていることもあり、じっとしているだけでじんわりと汗が浮かぶくらいには、私達の住んでいる森の中でも夏の歓待を受けています。


 魔女が着ている服には防寒や防暑の機能があるので、ある程度は軽減されているのですが、それでも暑いことには変わりません。


「エルフォニアちゃんいいなぁ~。私も影の中で涼みながら移動したぁい」


 私の前を歩きながら、フローリア様が不満げに口を開きました。私も内心羨ましいと思いながらも、私の背後にいるエルフォニアさんへ視線を送ります。


 正確には背後ではなく、私の影の中なのですが……。


「私はレナみたいに風魔法が得意っていう訳ではないから、こうするしかないのよ。それに影の中と言っても、体感で若干涼しいってくらいにしか変わらないわ」


「でも涼しいんでしょ~? 私はそれだけで羨まし――あ、レナちゃん。もうちょっとこっちにも風ちょうだい?」


「フローリアは女神なんだから、自分でやんなさいよ……。ほら、これでいい?」


「ん~、涼しくなぁい……」


「そりゃ気温が高いんだから、いくら風があってもぬるい風になるわよ……。ていうかエルフォニア、あんたいつまでシルヴィの影にいるのよ」


 レナさんの声にも若干元気がありません。彼女は彼女で周囲の風の流れを操作してるみたいですが、今日はそれだけではあまり涼めないようです。


「シルヴィの動きが一番静かだから、影もブレなくていやすいのよ。こうやって全員で移動する時は物陰を使う訳にもいかないもの」


 渋々といった感じでエルフォニアさんが答えながら、私の影の中から姿を現しました。


 基本的にエルフォニアさんは、長距離の移動には影を使うことが多いらしく、一度でも魔力の波長を掴めた相手ならば、どこにいてもその人の影に移動することが出来るのだとか。

 本人は転移魔法の簡単な応用だと仰っていましたが、シリア様が感心するくらいにはかなり高等技術の魔法らしいです。


 私も何か使えれば……と思って、この前氷魔法を使って実験していたのですが、冷気を放つ氷塊を作った後に何をしたらいいのかが分からず、持ち運ぶにも冷たすぎるということで断念したばかりです。


 エミリと二人して、暑さ対策に手のひらで少しでも風を浴びれるように仰ぎながら村へと歩き続けること数分。ようやく見えてきた村からは、既に楽し気な声が聞こえてきています。


 私達の姿を見つけたらしい獣人族の方が、こちらへ大きく手を振りながら声を張り上げました。


「魔女様ー! お待ちしてました! おーい、魔女様達到着したぞー!!」


「ようこそ魔女様! 暑い日にすんません!」


「いえ、大丈夫です。こちらこそお招きありがとうございます」


「もう! 魔女様いっつも真面目なんだからー! さ、こっちよ。料理も出来上がってるわ!」


 獣人族の方とハイエルフの皆さんに誘導され、私達は村の中に設置されていた円形のテーブルの席に着き、座ると同時にひんやりとしている薄黄色の飲み物を渡されました。ほんのりと香る甘い匂いから、恐らく桃のジュースでしょうか。


 口に含むと桃の上質な甘みと、さっぱりとした口当たりが広がります。暑さで水分を失っていた体に染みわたるようで、とても美味しく感じられました。


 それは私だけではなかったようで、一気に飲み干したレナさんとフローリア様が、揃っておかわりを要求していました。

 注がれるジュースを再び一気飲みしたレナさん達の元へ、今度は獣人族の方がお酒を飲むときに好んで使うジョッキが用意されました。恐らく、グラスで渡すよりもこっちの方がいいと判断されたのでしょう。


 突然のサイズアップに驚いていたレナさんでしたが、少しだけ飲んでようやく落ち着いたらしく、そう言えばと口を開きました。


「結局、シルヴィは誰を呼んだの? ローザ来れるって?」


「それが、ローザさんはどうも日程の都合が合わないらしく……。アーデルハイトさんにも声掛けはしたのですが、遊ぶ暇などないと一蹴されてしまいました」


「ふぅん……。まぁ急だったもんね、マイヤも今日は出かける予定があるって言ってたし、仕方ないか」


『トゥナは根が真面目過ぎるからのぅ。ほれ、議会の時も夏らしいイベントをしたいだのなんだの言っておったじゃろ? そこらへんの取りまとめに追われているのであろうよ』


「夏のイベントって何をやるのかしら!? 技練祭も面白かったし、今から楽しみだわ~!」


「次も家族参加できるかなんて分からないんだから、変に期待しないでよね」


「えぇ~! いいじゃない、シリアの名前出せばきっと参加していいって言ってくれるわよ!」


『その時は貴様だけは置いていくからな』


「やぁん! そんなこと言わないでよシリア~!」


『放せ!! ただでさえ暑いのに、これ以上暑苦しくさせるでない!!』


 ある意味いつも通りのお二人を眺めていると、私達のテーブルに料理が次々と運ばれてきました。どれも大皿にこんもりと盛られていて、議会の時の食事会を彷彿とさせる品数の多さです。


 私達以外のテーブルにも同じように料理が並び、全員が座ったのを見計らって、スピカさんが前に出て話し始めました。


「魔女様とご家族の方。今日は貴重なお休みなのに、こうして来ていただいて感謝している。我々から日頃の感謝を込めて精一杯もてなさせてもらうから、どうか楽しんでいってくれ。それでは――乾杯!」


「「「かんぱーい!!」」」


 スピカさんの合図で、感謝祭が始まりました。

 村の皆さんやハイエルフの方々が様々な催し物をしてくださる光景は、私がこの森に来てすぐの頃を思い出すようで、つい最近の出来事なのに懐かしささえ感じてしまいます。

 特に彼らの催し物を初めて見るレナさん達は、筋肉ダンスに大笑いしたり、綺麗な音色を奏でる演奏にうっとりとしていました。


「なんだか、ずっとこの森で暮らしていたような感覚になりますね」


『うむ。たかだか半年もいないのじゃが、妾達も随分と馴染んだものじゃ』


 二人で笑いあっていると、ふとシリア様がどこかを見つめ始めました。


『む……。何かがこちらを見ておるな』


「何か……とは?」


『分からぬ。じゃが、少なくとも敵意は無いように感じる。村の者ではなく、魔女である妾達の様子を伺っている……という感じか?』


 シリア様がテーブルから飛び降り、『見に行くぞ』と気配の方へと向かい始めます。私はレナさんに少し席を外すことを伝え、後を追うことにしました。





 村から少し歩くこと数分。あまり来たことが無い森の奥まった所で、シリア様は足を止めました。


『ここでよい。シルヴィよ、少し体を借りるぞ』


「え? はい……」


 言われるがままに体を受け渡し、白猫の姿で入れ替わります。

 一体、何を始めるつもりなのでしょう……。と思った直後、仁王立ちをしたシリア様を中心に、爆発的な魔力の上昇を感じました。


『し、シリア様!?』


「まぁ見ておれ。……そこで隠れている者よ! それ以上コソコソとしておるならば、この森一帯ごと焼き払っても構わんぞ! もし命が惜しいのであれば、これより十数える内に妾の前へ姿を現せ!」


 まるで周囲を威圧するかのような魔力の渦に加え、脅し文句で無理やり引きずり出す考えのようです。

 相手に敵意が無いと分かっていらっしゃったのに、そこまでする必要はあったのでしょうか……。


「十! 九! 八! 七!」


 無情にも始まるカウントダウンに、少し奥にあった茂みが大きく揺れ始めました。どうやらあそこの中に隠れているようです。


「六! 五! 四! ……三!!」


 三が強く強調され、本当に待つ気はないと誇張するシリア様は続けざまに、頭上に爆炎の大玉を出現させ始めました。間近にいる私に影響のないように操作してくださっているようですが、それでも毛並みを無視して肌を焼かれるような感覚に襲われます。私ですらこれなので、周囲にいる人にとってはその威力がどれほどかは本能的に感じ取れるものでしょう。


「にーっ! いーちっ!!」


「「「わ、わあああああああ!! ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!!」」」


 更に出力を上昇させながら刻まれるカウントダウンに遂に心が折れたらしく、三人の女の子が転がり出るように飛び出してきました。

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