37話 魔女様と穏やかな一日(前編)
無事技練祭も終わり、久しぶりに訪れた穏やかな太陽の日(日曜日)。
シルヴィ達も、ようやくゆっくりとした休日を楽しんでいるようです。
ですが、フローリアが微妙に怪しい動きを見せているらしく……?
「フローリア、ウィズナビ弄りながら何笑ってるの?」
リビングでウィズナビを操作しながら楽しそうにしていたフローリア様に、レナさんが話しかけました。
昨夜の夕飯の時も食事風景を撮影されていましたし、何だかんだ私達の中で一番ウィズナビを使ってるような気がします。
「ん~? 内緒っ」
「内緒って……」
「強いて言えば~……。宣伝? みたいなとこかしら」
「魔女でもないフローリアが宣伝して何になるってのよ……よく分かんないわ」
「宣伝は大事よ~? 神様は信仰する人間が多ければ多いほど、扱える力の強さに影響するんだから」
「とか言いながら、どうせヒマジョしてるんでしょ? ほどほどにしてよね」
「は~い♪」
レナさんと軽いやり取りを終えると、フローリア様は再びポチポチとウィズナビを操作し始めました。
そう言えば、ウィズナビでよく分からない機能を放置して後回しにしていたような気がします。ちょうどいい機会ですし、レナさんに使い方を教わることにしましょう。
「レナさん、少し時間をいただけますか?」
「ん? どしたの?」
「その、ウィズナビの機能で使い方が分からないものがありまして」
取り出したウィズナビをどれどれと覗き込むレナさんに、よく分からなかったアイコンを指で示します。
「こっちのウィズリンは普段使うので分かるのですが、このヒマジョと言うのがどう使ったらいいか分からなくて……」
「あー、これね。あたしはヒマッター感覚で使ってるけど、シルヴィはこういうの使わなさそうだもんね。…………あっははは! フォローもフォロワーもいないのに『【慈愛の魔女】シルヴィです。よろしくお願いいたします』って書いても誰も気づく訳ないじゃない! それにプロフ設定もできてないし!」
レナさんに笑われながら、プロフィールページの設定を進めていきます。作業を続けること数分、何も手を加えていなかった私のプロフィールページは、とても充実したものとなっていました。
『こんにちは。【慈愛の魔女】シルヴィです。
不帰の森で【魔女の診療所】を営んでいます。よかったら遊びにいらしてください。
趣味は料理で、腕前はシリア様のお墨付きです』
「こんなものかしら? あとはアイコンだけど、何か写真ない?」
「ええっと……。あぁ、以前エミリと撮ったのがあります。これでも大丈夫でしょうか?」
「あはは! いつこんなの撮ったの!? 可愛いじゃない! それじゃ、それを使いましょ」
写真を選ぶと、歩く猫のシルエットだったアイコンが変更され、エミリの耳を真似て両手を頭の上に沿えている私とエミリの写真になりました。
「これでよし。あとはフォロワーを増やしたら終わりだけど……。あ、ちょうどいいわ。タグで手作り料理があるみたいだから、これを使って作った料理の写真と一緒に投稿しましょ。昨日の晩御飯の写真はあたしが送ってあげる」
レナさんの指示に従って操作し、コメントを添えて投稿します。
『昨晩作った料理はとても好評でした。#魔女の手作り料理』
「うん、いいんじゃないかしら? あたしとかは『今日はこんなトレーニングした!』とか、『お風呂上りのアイスサイコー!』とかその場その場で適当に投稿してるけど、シルヴィは使い慣れるまでは『こんな料理作りました』って感じで投稿すればいいと思うわ」
「なるほど、ありがとうござ――わわっ!?」
突然ウィズナビから子猫の鳴き声が上がったと思った直後、その鳴き声が続々と上がり続けました!
怖くなり慌ててレナさんに手渡すと、それを見たレナさんが笑い出しました。
「凄いわよシルヴィ!! まだ一分もしてないのに百スキー行きそうよ!!」
「す、スキーとは何でしょうか!? あと、この鳴き声は止まらないのでしょうか!?」
「待ってね……。はい、通知を切っておいたわ。スキーって言うのはね、この投稿いいなーとか共感したーって思った時に押すものね。ほら、ここにハートマークあるでしょ? これがスキーで、こっちの手紙を手渡ししてるようなのがパッセージ。パッセージはフォローしてない人でも見れるように、他の人に見せてあげる機能よ」
次々と出てくる単語に頭が混乱しそうです。
レナさんの説明を受けている間も、どんどんスキーとパッセージの数が増えていきます。
「これはやばいわね……。シルヴィ、もしかしたら有名な魔女になれるかもしれないわよ!」
「そ、そんなにですか?」
「ほら、シルヴィの料理にもいっぱいコメント来てるし、フォロワーも凄い数で増えてるわ!」
コメントに目を通すと、『初めて見る料理です! 美味しそう!』『シルヴィさん家庭的なのねー!』『うまそー!!』などなど、沢山の数を頂いているようです。フォロワーの数もついさっきまではゼロだったのに、今では八百人を超えています。
「あの、これはお返事した方がいいのでしょうか?」
「うーん、一人二人とかだったらしてあげると親切だけど、ここまで群がってるなら対応しない方がいいわね。全部にコメント返してたら一日が終わりそう。あ、でも知り合いとかがいたら返してあげてもいいかもね」
レナさんの言葉に頷いてコメントを読んでいくと、技練祭で戦ったマイヤさんや、副総長のヘルガさんからもコメントが寄せられているのを見つけました。
簡単ではありますがコメントを返して、レナさんにフォローのやり方を教わって二人をフォローさせていただき、一緒にレナさんとフローリア様もフォローさせていただきました。
「シルヴィちゃ~ん、そろそろおやつにしない? 私ちょっとお腹空いて来ちゃった!」
後ろからフローリア様に抱き付かれ、もうそんな時間でしょうかと壁の時計を見上げると、いつの間にか時計の針は三時を回っていました。
「分かりました。それではおやつをご用意しますので、皆さんに声を掛けて頂けますか?」
「は~い! あ、今日はお日様気持ちいいから別棟の窓際でもいいかしら?」
「はい。では、準備が出来たらお持ちしますね」
「やった! シルヴィちゃんだぁい好き! ちゅっ☆」
私の頬にキスをしたフローリア様は、跳ねるように廊下の方へと向かって行きました。
「レナさん、何か食べたいものの希望はありますか?」
「ん~……。フローリアの言う通り今日は暖かいし、何か涼しい感じのデザートがあれば嬉しいかな」
「涼しい感じですか。…………フルーツゼリーとかでも大丈夫ですか?」
「あ、美味しそう! 全然おっけーよ!」
「分かりました。ではちょっと待っていただけるよう、皆さんに伝えて頂けますか?」
「了解!」
レナさんもパタパタと廊下の方へ向かい、リビングは私ひとりになりました。
あまり待たせてはいけませんし、手早く作ってしまいましょう。




