35話 魔女様は牽制する
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「な、な、な、何であんたがここにいんのよ!?」
「私、あなた達の先生になったから」
「はぁ!? ちょっとどういうことシルヴィ!? あたし全然分かんないんだけど!?」
「レナさん、今包丁使っているのであまり揺らさないでください……!」
お風呂から帰ってきたレナさんに問い詰められた私は、料理をしながら一部始終を説明することにします。大まかな内容を話し終えると、レナさんはエルフォニアさんに向けて鋭く指を指しながら吠えました。
「あんたなんかに教わることなんて一個もないわ!!」
「あら。じゃあ手始めに魔女の不文律を七個、教えてもらえるかしら」
「えっ、え~っと……。~~~~~~っ!! 後でシリアに教えてもらうわ!!」
「この不文律が出来上がったのってここ数百年なのだけれど、シリア様が答えられるかしらね」
「くっ、このっ……! ちょっとシルヴィ! なんで何も言わないのよ!? しれっと殺しに来るかもしれないわよ!?」
「だから揺らさないでください……! 一応、魔導連合側ともお話はついていますし、シリア様が決められた以上は私からは何も言うことはありませんので」
「はぁ~!? あんた、シルヴィのこういうとこにつけ込むとか最低よ!!」
「つけ込んだつもりはないわ。対等な条件の上で提案して許可されたものだし、何もおかしなことは言ってないと思うのだけれど」
至極正論なエルフォニアさんの返答を受けたレナさんは、何か言い返そうと口をパクパクとさせていましたが、何も思いつかなかったらしく顔を赤く染めながら私を見上げてきました。そんな顔をされても、私は何も助力できませんよ、レナさん。
私からの援護はないと諦めたレナさんは、ずんずんとエルフォニアさんの座っているところへ近づくと、再び鋭く指を指しました。
「そこ、あたしの席なんだけど!」
「別にいいじゃない。あなたがこの席じゃないと死ぬ呪いが掛かっているというのなら変わるけれど」
「死なないけど、あたしの席はここなの! いいからどきなさいよっ!」
無理やりエルフォニアさんを立ち上がらせ、不貞腐れたようにレナさんが席を奪い取ります。
……特にここ、といった決まりはないのですが、なんとなくでいつも同じ席に座っていただけなのでエルフォニアさんは全く悪くありません。これに関しては少し同情してしまいました。
「エルフォニアさん、レナさんの右向かいの席を使ってください。そこは誰も使っていませんので」
「そう、分かったわ。……レナ、あなた結構独占欲が強いのね」
「馴れ馴れしく呼ぶんじゃないわよ! あと普通よ普通!」
「あなただって私の事を名前で呼ぶじゃない。何が違うのかしら」
「あたしはいいの! あんたはダメ! その他でも何でもないわ!」
「あら、理不尽」
ぶすーっと膨れているレナさんを見ながら小さく笑うエルフォニアさん。レナさんには失礼かもしれませんが、なんだか年の離れた姉妹喧嘩のようにも見えます。
「はぁ~。魔導連合のお風呂もよかったけど、やっぱり家のお風呂が一番ね~。広すぎるのも困りもの……あら?」
二人の様子を見守りながら料理を続けていると、お風呂から戻ってきたらしいフローリア様の声が聞こえました。振り返ると、髪をバスタオルで拭く体勢のまま固まっているフローリア様と、同じポーズで固まっているエミリがいました。
「あらあら、あなたはえ~っと……。決勝トーナメントでレナちゃんと戦ってた子だったかしら?」
「ええ。今度からシルヴィ達の先生役を務めることになった【暗影の魔女】エルフォニアよ。よろしくお願いするわ」
「エルフォニアちゃんね。私はフローリア。よろしくね~」
「かっる!! フローリア軽すぎない!?」
私もあっさりしてるとは思いましたが、フローリア様が首を傾げながら事もなげに返します。
「え~? だってレナちゃんとシルヴィちゃんの知り合いでしょ? それにシルヴィちゃん達に物を教える~って言うのもシリアからおっけー貰ってるんでしょ? だったらいいじゃない」
「あたし、フローリアのそういうとこ見習った方がいいのかな……」
レナさんが机に突っ伏しながら軽く凹んでいます。言いたいことは分かるので、私は何も言わずに笑って誤魔化すことにします。
「さ、エミリちゃんも挨拶しましょ! お姉ちゃん達のお友達さんよ~」
「友達なんかじゃないわよ!!」
「え、エミリです。十歳です。よろしく、お願いします……」
人見知りなエミリが、自己紹介をしながら徐々にフローリア様の裏へと隠れてしまいました。挨拶という点ではあまり良くはありませんが、言葉で表せないその可愛らしさでお釣りをもらえるほどです。
エルフォニアさんはエミリを見て一瞬目を開くと、いつものトーンで挨拶を返しました。
「人狼種なんて初めてみたけど、とても可愛いのね。私はエルフォニア。よろしくお願いするわ、エミリちゃん」
エミリを撫でようと手を伸ばすエルフォニアさんに、牽制の念を込めた視線を送りつけます。
エミリには触らせません。シリア様がいいと仰ったのはあくまでも教鞭を振るうための許可であり、私のエミリに手を出していいとは一言も仰っていません。
「なんだか、シルヴィから試合の時以上の殺気を感じるわ……」
「シルヴィちゃんはエミリちゃんが大好きなのよ~。だから、大切な妹を触られたくないんじゃないかしら?」
「なるほどね……」
「シルヴィ。気持ちは分かるけどお鍋吹いてるから、そろそろ戻ってきて」




