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25話 魔女様は気づけない

遂に仮面の下の正体が判明します!

見覚えのある赤髪の男性は一体誰なのでしょうか・・・・・!

 転移先でレナさんと準備運動をしながら体の調子を確かめ合っていると、向かい側からややテンションが低めのディルさんと、変わらない様子のハイドさんが現れました。


「レナさん、本当に良かったのでしょうか? なんだか凹んでらっしゃるようですが……」


「あの手の人は構ってもらえると嬉しくなるから、無視するのが一番の得策よ」


 私達が小声で話していると、突然ディルさんが顔を上げて元気を取り戻しました。


「ふははは! 気遣いは無用だ【慈愛の魔女】よ!」


「いえ、してませんが……」


「あ、そう……」


 再び凹み始めるディルさん。なんとも情緒が不安定な方のようです。

 どう接するべきか悩んでいると、ハイドさんが咳払いをひとつしました。


「コホン。正直なところ、お前達が勝ち上がってくるとは思っていなかった。あの【暗影の魔女】との闘い、実に見事だった」


「開口一番にあたし達が負けると思ってたとか、ちょっと失礼じゃない?」


「いや、(けな)すつもりで言ったのではない。単純にお前達と彼女では力の差がありすぎると我らも考えていたのだ。だが、お前達は我らの予想の遥か斜め上を行き、勝って見せた」


「当たり前よ。あたしとシルヴィなら誰にも負けないっての」


「あぁ。だからこそ私も本気で、本気のお前達を正面から迎え撃とう」


 そう言うとハイドさんは肩のマントを掴み、後ろへと放り投げました。それと同時に仮面も剝がれていて、その正体に私は驚かされました。


「アーデルハイトさん!?」


「え、嘘でしょシルヴィ。マジで気づいてなかったの!?」


「レナさん気づいていたのですか!?」


「当たり前じゃない! あんな派手なロン毛の男なんてそうそういないわよ!」


「おい、【桜花の魔女】。お前も中々に失礼だぞ」


「おっと、失礼失礼!」


「まぁいい……。お前もいつまでそうしてるつもりだ」


「あぁ!? やめろって! それは自分でやりたい――あぁー!!」


 アーデルハイトさんは、項垂れっぱなしだったディルさんのマントと仮面を無理やり剥がして放り投げてしまいました。その仮面の下から現れたのは、開幕の宣言でアーデルハイトさんから出番を奪っていたあの男性でした。


「このケダモノ! 人の身包みを奪うなんて、それでも魔導連合の長のやることか!」


「黙れ! 語弊のある言い方はするな!」


「いって! 分かった、悪かったって!」


「……なんか、シリアとフローリアを見ている気分になるわね」


「奇遇ですねレナさん。私もちょうど、同じことを考えていました」


 二人のじゃれ合いに似たものを感じながら眺めていると、殴られたところを擦りながらディルさんが口を開きました。


「あいててて、相変わらず容赦ねーな。……んじゃ改めて初めましてだな。俺はヘルガ。ヘルガ=ディルムロッドだ。この魔導連合の副総長であり、アーデルハイトの補佐だ。よろしくな」


 爽やかに挨拶をするディルさん――もといヘルガさんですが、私はこれから戦う相手を改めて認識して頭を悩ませます。なぜ私達は、魔導連合のトップのお二人と戦わなくてはならないのでしょう……。


 レナさんも同じことを考えていたらしく、私と同じ疑問を彼らにぶつけました。


「で? なんで魔導連合のトップがトーナメントに出てる訳? 反則じゃない?」


「そうだ、通常ならあり得ない事態だ。だが、マレリアの枠を埋めるために再び志願者を募り競わせるにはあまりに時間が足りない」


「ま、建前はそんな感じだが、とどのつまりは俺達もお前さんたちに興味があったからってだけなんだけどな」


「おいヘルガ! 無駄口を挟むな!」


「いいじゃねぇか。お前だってあのシリア様公認の魔女と聞いてから、ずっとそわそわしてたじゃねぇか」


「ばっ、馬鹿を言うな! 誰がそわそわなど!」


「へぇ? よく言うぜ。「聞いたかヘルガ。南西の森に、シリア様の認可を受けている魔女が見つかったらしい。一体どんな魔女なのだろうな」なーんて毎日毎日楽しそうにしてやがったくせにさ」


「やめろヘルガ!! それ以上口を開くな!!」


「ははは。そんなに揺するなよ~脳が揺れるだろ~」


 ヘルガさんの胸元を掴んでぐわんぐわんと揺さぶるアーデルハイトさんを見ながら、今の話とこの前の説明会の話を照らし合わせ、あまりにも違いすぎるギャップに戸惑っていると、レナさんが堪えきれなくなったらしく大笑いし始めました。


「あっははははは!! あんなに「お前のような魔女もどきがー」とか食って掛かってきてたくせに、内心会うのが楽しみだったんじゃない!」


「う、うるさいぞ【桜花の魔女】! 誰に向かって物を言っている!」


「うわぁ、こういう時だけ身分を盾にするとか、卑怯者ぉ~」


「言われてるぞ卑怯者ぉ~」


「お、お前達……!!」


 アーデルハイトさんが顔を真っ赤にしながらぷるぷると震えています。

 この前のような凛々しくあろうとする姿とは違って子どもっぽさが垣間見え、なんだか微笑ましくなっていると、ヘルガさんが私を指さしながら笑い始めました。


「ほら見て見ろよ。シルヴィちゃんにも笑われてんぞ」


「わ、笑ってないです笑ってないです!」


 直後に鬼の形相で睨まれ、慌てて訂正します。

 この前の時もそうでしたが、私にだけ当たりが強いように感じるのは気のせいでしょうか……。


「お前達のことはよぉーく分かった。いいだろう。この試合で誰を怒らせたのか、よく覚えて帰るといい……」


 恥ずかしさからか怒りからか、恐らく後者ですが顔を真っ赤にしたアーデルハイトさんは、魔法も使っていないのに背後に凄まじい熱気の暗い炎を出しています。


「ちょ、ちょっと! 完全に私怨じゃない!」


「ひゅ~! 総長大人気(おとなげ)なぁい!」


「黙れヘルガ! 元はと言えばお前が悪いんだからな!? お前の今期のボーナスは半分にしてやるからな!!」


「マジで大人気ねぇ!!」


 ヘルガさんが半泣きになっている中、怒り心頭のアーデルハイトさんに向けて、司会の方よりお伺いを立てる質問が届きました。


「あの~総長。準備がよろしければ始めさせていただいても……」


「うるさい! 早く開始と言え!!」


「は、はいぃ!! それでは第百二十一回技練祭、模擬戦トーナメント最終戦、スタートです!!」


 なんだか無茶苦茶な始まり方になったような気がしますが、試合開始の合図があったので臨戦態勢に移ります。


 相手は魔導連合の総長と副総長。決して油断が許される相手ではありません……!

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