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23話 ご先祖様達は心配性

全てをぶつけ、勝利をもぎ取った二人。

そんな二人を保護者は影ながら心配していました……。

 目を覚ますと、見たことのない部屋の天井が目に入りました。


「あ、シリア~! シルヴィちゃん起きたわよ~!」


 フローリア様の声が聞こえます。寝起き特有のぼやけた視界で姿を探すと、私を覗き込むようにしているフローリア様のいつもの笑顔がありました。


「おはようシルヴィちゃん! 体はどう? 痛むところはない?」


「おはようございます、フローリア様」


 体を起こし、自分の体に異常が無いか軽く確認します。上着と帽子がないこと以外は、いつもと変わらないように思えます。


「はぁ~、良かったわぁ。二人とも無理しすぎよ? 体力も魔力も使い切って昏睡とか、お姉さんひやひやしたわよ」


「昏睡……。あっ、試合はどうなりましたか!? レナさんは!?」


 ぼんやりと回っていなかった頭でしたが、自分が試合中にレナさんを残して倒れたのを思い出しました。

 あの後、エルフォニアさんとの決着はどうなったのでしょうか。それに、レナさんの姿も見えないのがさらに不安を搔き立てます。


 すると、どこからか現れたシリア様が、落ち着けと言わんばかりに掛布団の上から私の脚の上にちょこんと座りました。


『そう慌てるでない。レナならお主が起きた時のためにと、エミリを連れて買い出しに行っておる』


「そ、そうでしたか。すみません……。それでその、試合の方はどうだったのでしょうか?」


『うむ。それも案ずるでない。レナがお主の想いを継いで勝ってくれおった』


 それを聞いて、とても嬉しいはずなのになぜか涙が溢れてきてしまいました。


「あ~、シリアいけない子~。シルヴィちゃん泣かせるなんてひっどぉ~い」


『わ、妾は何もしておらん! どうしたのじゃシルヴィ!?』


「すみ、すみません……! 勝てたのが嬉しくて、涙が……」


 前回の優勝者であり、次期大魔導士候補なんて噂されるほどの実力を持つエルフォニアさんに、私達が勝てたなんて未だに信じられません。ですが、私達二人で打ち破ることが出来たという事実が嬉しくて、ぼろぼろと涙が止まりませんでした。


 そんな私を、ベッドに腰掛けたフローリア様が優しく抱きしめました。


「フローリア様……?」


「よしよし、シルヴィちゃん頑張ったね。多重詠唱なんて無謀なことしちゃって、苦しかったでしょう? レナちゃんを護ってくれてありがとね、シルヴィちゃん」


 フローリア様の温かさと、ほんのりと鼻をくすぐる花の香りで、だんだんと心が落ち着いていくのが分かります。そのまましばらく体を預けながら撫でられていると、シリア様が私を呼び戻すように布団の上から脚を叩きました。


『じゃがな、シルヴィよ。実際にその身で体感して分かったとは思うが、多重詠唱は何の訓練も受けていない者がやるものではない。一歩間違えればそのまま廃人となってもおかしくはないほど、脳に負担を掛ける危険な行為なのじゃ。故に、今後は使わぬように』


「すみません……」


『あの状況では、手段なぞ選べぬという気持ちも分からんでもない。むしろ、その発想に思い至り行動に移したお主に感心しておるよ。お主には再三驚かされてきたが、此度ほど驚いたことはない』


「そうよ~シルヴィちゃん。無茶するのは悪いとは言わないけど、自分の体は大切にしなきゃダメだからね?」


『まぁ、小言はこの程度にしておくかの。妾からも賛辞を贈るぞ、シルヴィよ。良くぞあれを防いでみせたな。見事じゃ』


 そう仰いながら笑うシリア様に笑い返すと、部屋のドアが開く音がしました。


「あ! お姉ちゃん起きてる! もう大丈夫?」


「おはようシルヴィ。ほらこれ、疲れてお腹空いてると思って買ってきたから、一緒に食べましょ」


「ありがとうございます、レナさん。エミリも心配かけてごめんなさい」


 ベッドに乗り、フローリア様の反対側から抱き付いてくるエミリを撫でていると、レナさんが私の顔を見て何かに気が付いたように声を上げました。


「あれ? シルヴィなんで涙の跡なんて……ちょっとフローリア、変な事して泣かせたんじゃないでしょうね?」


「えぇ~!? 酷いわレナちゃん! この私が寝てる女の子に酷いことするように見える!?」


「見える」


『見えるな』


「シリアまで酷くない!? 私そんなことしないわよ~!」


「だってフローリア、この前もあたしが寝てる時にキスしてきたじゃない!」


『……お主、そんなことをしておったのか』


「違うの! あれはレナちゃんの寝顔が可愛くて……」


「何も違わないわよ! 寝顔が可愛いからってキスするような人のどこを信じたらいいの!」


「レナちゃんだけだも~ん! シルヴィちゃんはまだ食べるには早いの!」


「た、食べるのですか……?」


「あぁ!! 違うのシルヴィちゃん! 待って待って、そんな怯えた目で見ない――あ、でもその目はアリね。お姉さんちょっとゾクゾクしてきちゃう!」


『黙っておれフローリア。貴様は今日から物置部屋で寝泊まりするがよい』


「嫌! 私はレナちゃんを抱きながらじゃないと寝れない体になっちゃったの! それもこれも、レナちゃんが可愛いのがいけないんだから!」


「わっ、ちょっと急に抱き付いてくるんじゃないわよ! 離れろ~!!」


「レナちゃ~ん、レナちゃんはシリアみたいに酷いこと言わないよね? 私のこと好きだもんね~?」


「フローリアのこういうとこは嫌いよ! ……わぁー!? 待って待って、嘘だから泣かないで! 好きよ、好きだから!」


「わぁい! ということで悪いわねシリア、レナちゃんに愛されてる女神はこれからも一緒に寝るわ!」


『……もう好きにせい』


 レナさんを愛おしそうに抱きしめながら喜ぶフローリア様に、心底呆れて溜め息を吐くシリア様。とりあえず、私が食べられてしまうことは避けられたようです。


 そんなことを考えていると、食べるから連想された食欲が鳴き声を上げました。


「あ、お姉ちゃんお腹鳴った!」


「え、エミリ! 言わないでください!」


『くふふっ。ほれ、シルヴィ。お主はこれから決勝が残っておるのじゃ、ささっと食べてしまえ』


 賑やかになった空間で食べる食事は、お昼に食べたものより美味しく感じました。

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