2話 ご先祖様は困惑する
遂に始まってしまった春季連合会議。
呼び出されて緊張が高まるシルヴィに、魔導連合は何をするのでしょうか……。
「皆さま、本日は春季連合議会にお集まりいただき、誠にありがとうございます。まもなくお時間となりますので、これより議会を開始させていただきたく思います!」
男性の一礼に続いて、周囲から拍手が鳴り響きます。私達も倣って拍手していると、男性が大きく手を振り静粛を求めました。
「さて、まずは前議会から本日までで、皆さまにご連絡差し上げたい内容からお伝えしてまいりましょう。えー、前回の冬季連合議会で決行となった寒冷地帯観光は大盛況となり、現地の方々からもまた遊びに来ていただきたいとのお声を頂いております」
「寒冷地帯観光?」
レナさんの疑問にシリア様が応じます。
『魔導連合では世界中の安定を図る名目で、定期的に各地に訪れ視察をすることがある。冬季は冬眠し損ねた魔物が暴れることもある故、観光も兼ねて鎮圧しに行ったのじゃろ』
「へぇー、ホントに世界を良くしていこうと頑張ってるのね連合って」
「続きまして、先日行われた春季恒例のお花見ですが――」
「ねぇシリア、お花見ってあのお花見よね?」
『う、うむ。昔は春先になると植物の魔物が活発になり、駆除に当たることもあった。故にそれらの駆除を終え、その後に花見でもしていたのやも知れぬ』
「ふーん……」
なんだか雲行きが怪しくなってきました。レナさんではありませんが、私から見ても遊びが大半のように聞こえてしまいます。シリア様の回答も微妙に歯切れが悪くなってきていますし、連合とは本当にどういう場所なのでしょうか。
「えー、続いての連絡事項になります。毎年恒例の技練祭につきましてですが、今年も決行となります。日程につきましては先日ご連絡いたしました通り来週となりますが――」
「技練祭って?」
『分からぬ。これは妾も初めて聞いた……何かの催しが行われるのか?』
「今年は何と、新たに二名の魔女の方が我らが連合に参加となります! それではご紹介しましょう! 【慈愛の魔女】と【桜花の魔女】です!!」
突然私とレナさんにスポットライトが当てられ、何をしたらいいか分からず呆けてしまいます。すると隣に座っていた魔女の方に「ほら、立って前に行くのよ」と言われ、よく分からないまま壇上へと向かわされました。
壇上からはほぼ全席の様子が見ることが出来、それは逆に全員から注目を受けているということになります。徐々に緊張で鼓動が早まっていく気がしますし、なんだか気恥ずかしくなってきました……。
司会の方が杖を振り、私達の背後に拡大された私達の胸から上の写真が映し出されました。
そしてその横には魔女としての詳細な個人情報が記載されています。いつの間にこんな情報を手に入れていたのですか!?
「えー。こちらの美しい銀髪の方が、最近≪不帰の森≫で知名度を上げている【慈愛の魔女】シルヴィ様になります。おや……? わははは! シルヴィ様、どうやら緊張されていらっしゃるようです!」
「シルヴィちゃん頑張れー!」
「可愛いぞー!」
司会の方が茶化すように笑い出し、それに釣られて他の魔女の方々も笑い始めてしまい、見知らぬ方から励まされてしまう始末。もう帰りたいです……。
「さて、シルヴィ様が真っ赤になってしまっていられますので、簡単に私からご紹介させていただきましょう! 彼女の名前を聞くようになったのはここ最近ですが、どうやら森で診療所を開き、森で生活する亜人種の人々を治療しているようです。その腕前は目を見張るものがあり、致命傷であっても絶命さえしていなければ治してしまうのだとか! 素晴らしい治癒魔法の使い手です!」
じ、事実ですが大袈裟です!
周囲の方からもざわめきが生まれ始めていますし、中には拍手まで送る方の姿もあります。
「そして彼女の診療をサポートしているのが、隣の小柄な【桜花の魔女】レナ様です!」
「ちっちゃくて悪かったわね!!」
「おおっと!? 大変失礼いたしました、私としたことがお叱りを受けてしまいました!」
おどける司会の方に、笑いが生まれます。とても場の空気作りがお上手なようです。
レナさんは差し出された拡声器を半ば奪い取るように受け取り、挨拶を始めました。
「あたしは【桜花の魔女】レナよ。小さいからって甘く見てると許さないから! 連合がどういうものか分からないけど、色々教えてくれると嬉しいわ!」
「うおおおおお!!」
「レナちゃーん! 痛い目見せてくれー!!」
「可愛いー!! もっとツンツンしてー!!」
レナさんの挨拶に、周囲から大歓声が沸き上がります。レナさん、こういうイベントごとは慣れていらっしゃるようです。
ぽかんとレナさんを見ていると、そのまま拡声器をずいっと差し出されました。わ、私もやれと言うことでしょうか。
「え、ええっと……。自己紹介が遅くなり、申し訳ございません。森で診療所を営んでおります、【慈愛の魔女】シルヴィと言います。ち、治療の他にも、ポーションなんかも作っていますので、良ければいらっしゃってください……」
「俺、シルヴィちゃん推すぞー!!!」
「シルヴィちゃーん!! ポーション買い占めに行くからねー!!」
「こっちに手を振ってくださーい!! きゃー!! 照れながらしてくれるの最高ー!!」
助けてくださいシリア様……! 恥ずかしくて死んでしまいそうです!
シリア様達の方へ視線を向けると、周囲にすっかり溶け込んで歓声を上げていました。フローリア様に至っては、エミリと一緒に異世界で買ってもらったと思われる派手なうちわをぶんぶんと振っています。
「はっはっは! お二人とも、可愛らしい自己紹介をありがとうございます!それでは、来週の技練祭にはお二人も飛び入りという形で参加していただきましょう! 場所は連合本部内の王城庭園になります!」
「ねぇ司会さん。あたし達、技練祭って何か分からないんだけど」
「あぁ、そちらについてはご心配なく。後程ご説明に上がりますので」
「そう? じゃあ待ってるわね」
「はい、それではお二人は一度席へお戻りください。えー、では続きましてですが――」
その後も「夏らしいイベントをしたいので何か考えています」といった次の催し物や、「技練祭終了後の打ち上げについてですが」と、イベント系統のお話が続いていました。
そして一通りアナウンスが終わると、どうやら晩餐会が行われるようでした。準備があるから私達は一度客室で待っていてほしいとのことですので、結局議会とは何だったのでしょうかと首を傾げながら部屋へと戻ることにしました。




