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1話 魔女様は議会に出席する

 フローリア様のお土産を堪能したり、ハイエルフの皆さんにお米の育成をお願いしたり、何故か私とレナさんのサイズにぴったりな服を着せられたりと楽しみながらも日々は過ぎていき、気が付けば議会当日でした。


 結局、今日の今日までフローリア様を拘束することは叶わず、有事の際は未完成の拘束魔法で乗り切らなければいけない形となってしまったのが唯一の心残りです……。


「だーいじょぶだってシルヴィ! 議会とか難しいこと言ってるけど、顔合わせ会なんだろうし楽に行きましょ!」


「そうよ~! いざとなったら私達もいるから安心してね!」


「ありがとうございます、お二人とも……」


 緊張をほぐしてくださろうとしているのは分かるのですが、お二人に全く緊張感がないのが逆に心配です。

 フローリア様に至っては先日の派手めな服装を気に入られてしまったようで、今日もその恰好で向かわれるおつもりです。


『気に病むでないシルヴィ。やれることはやったのじゃ、いざとなればこれまでに学んだことを全て駆使すれば何とかはなろう』


「だといいのですが……」


『それにお主にはメイナードもおる。そこらの魔女程度ならこやつを見ただけで戦意を失うじゃろうて』


『我は魔除けなどの類ではありませんが……。まぁ主の気休めになるならば、それでも構わんか』


「頼りにしていますよ、メイナード!!」


『主よ、頼むから他の魔女共の前でそんな情けない顔をしてくれるなよ』


 メイナードに呆れられてしまいました。慌てて顔を揉みほぐしていつもの表情に戻します。

 シリア様がそんな私の様子を笑い、私以外が釣られて笑っていると、メイナードが声を上げました。


『来たぞ主。この前と同じ奴だ』


 その言葉通り、この前と同じように空間に亀裂が入り始め、隙間の中からまた黒いローブの方が出てきました。さすがに二度目となり、来ると分かっていたのであまり驚きはしませんが、エミリが少し怖がっていたので抱き寄せてあげることにします。


「おはようございます、シルヴィ様。そしてレナ様。ご家族の方々もご一緒のようですね」


「おはようございます。今日は全員で出席させていただければと思っています」


「ええ、問題ございませんとも。それでは、ただいま準備を致しますのでしばしお待ちを」


 ローブの方は恭しく一礼すると、自分が通ってきた穴を横に広げ始めます。ガラスが砕けていく音と共に穴は広くなり、横に二人並んでも通れそうなくらいの大きさになりました。

 穴の中は青黒い渦のような物しか見て取ることが出来ません。一体どうなっているのでしょうか。


「お待たせいたしました。それでは僭越(せんえつ)ながら、私めが先導させていただきますので、あまり離れずにご同行ください」


 私は頷き、ローブの方の後を追って穴の中へと足を踏み入れます。潜り抜けた瞬間に体の回りから空気の流れが消えたように感じ、不思議な感覚になります。これが普段私達が利用している、空間収納の内部なのでしょうか。


 しばらく無言で歩き続ける時間が続き、この空間は本当に大丈夫なのでしょうかと不安になり始めた頃でした。

 私の不安を感じ取ったシリア様が、安心させるように笑いかけてくださいます。


『気にするでない。これは転移魔法といって、空間魔法の一種じゃ』


「なるほど……。それなりに歩いているように思えますが、先が見えないのでどこまで歩くのかが分かりませんね」


『そうでもないぞ。ほれ、前に光が差しておるじゃろ。あれが出口じゃ』


 シリア様が前足で示す先。確かに進むにつれて徐々に光が大きくなっているように感じられます。

 そしてその光は近づけば近づくほど大きく、眩しくなり――。


「お疲れ様でございました。こちらが目的地、魔導連合本部でございます」


「わぁ…………」


「でっか…………」


「お城だぁー!」


 私とレナさんとエミリが、三者三様に感嘆の声を上げてしまいました。

 エミリの言う通り、それはとても立派なお城でした。本で良く出てくるような国を代表するお城の見た目そのままですが、城門付近の垂れ幕が場違いに可愛らしくて違和感を覚えてしまいます。


 魔法の基礎となる六大元素が描かれているのは分かるのですが、なぜ中央で黒猫が偉そうにふんぞり返って座っているのでしょうか……。

 しかもあの黒猫のデザイン、見覚えがあります。そうです、私達のパジャマの黒猫にそっくりです!


 ちらりとシリア様を見ると、何故か感慨深そうに頷いていました。


『うむうむ。よもや遊び半分で描いたシンボルがそのまま残されてるとは思わなんだが、我ながら良い出来だとは思わんか?』


「やはり、あれを描かれたのはシリア様なのですね」


『当時の連合には、妾以外に絵心のあるものがおらんでなぁ。黒猫でいいじゃろと描いたら偉く気に入られてしまってな』


 昔を思い出しておられるようで、一人楽しそうに笑いだすシリア様。私は心配していたほど、連合の方はお堅い人達なのではないように思えてきました。


 その後私達は城門をくぐり、豪勢な装飾が施されていたエレベーターに乗り、三階の客間へと案内されました。

 フードの男性は一礼し、「こちらでしばしお待ちくださいませ」と去って行ってしまいました。


「はぁ~、歩き疲れちゃった! わぁ、ちょっとちょっとレナちゃん! このソファふっかふかよ! あはははっ!」


「ちょっとフローリア、あんまはしゃがないでよ……。あ、でもすっごいふかふか! 体が弾むわこれ! エミリも座ってみなよ!」


「え、うん……。すごーい、ぽよんぽよん! あははっ!」


 大きなソファではしゃぎ始めた三人を微笑ましく見ながら、部屋の内装を観察します。

 どれもデザインがかなり凝っている家具や小物が多く、お城の外見に見劣りしない数々です。

 それらの中でも、特に目を惹いたのは大きな人物画でした。


 歴代の大魔導士が描かれているようであり、初代大魔導士から十五人ほどの魔導士がそれぞれポーズを決めて描かれています。もっとも、その初代大魔導士の絵はとても見慣れたものであり、額縁の下に『神祖 シリア=グランディア』と彫られています。


『昔の自分を見られると言うのは、まぁまぁ気恥ずかしいものじゃな』


「そうでしょうか? 今の私の体よりよっぽどお綺麗だとは思いますが」


『昔は昔、今は今じゃ。妾は前の肉体も気に入っておったが、あれはあれで悩みも多かった。今ほど衛生もしっかりしておらんが故、髪を美しく保つのにも苦労はしたし、何よりあの胸が重くてな。大きすぎるというのもコンプレックスになるのじゃよ。何事もほどほどと言うことじゃ』


 シリア様、昔のご自身の絵と私の胸を比べないでください。少し恥ずかしいです。

 気恥ずかしさから他の魔導士の絵を見ていると、一つの共通点に気が付きました。


「シリア様、歴代の大魔導士の方は女性しかいらっしゃらないのですか?」


『うむ、古来より人は生まれ持った性で傾向が異なるものでな。男子ならば魔術、女子ならば魔法と別れておったのじゃよ。まぁ、男子だろうと女子だろうと反する道へ進みたがる者もそれなりにはおったが、大成するものはほぼおらんかった』


「そういうものなのですね」


『中には己の体を魔術で作り直し女子になる者や、転生魔法を用いて男子になり大成を果たした変わり者もおったがな! 人とはほんに分からぬものじゃ。くふふっ』


 な、なんだか変な話を聞いてしまったような気がします。深くは触れないでおきましょう……。


 そうこうしている内に議会の準備が整っていたようで、部屋の扉が叩かれ、先ほどのローブの方が姿を現しました。


「皆さま、お待たせいたしました。議会が始まりますので移動のほどをお願い致します」


『主よ、我は人間の話し合いなど興味が無い。終わるまで我は外に行くことにする。何かあれば呼ぶと良い』


「分かりました。行ってらっしゃいメイナード」


 メイナードを窓から外へ出させると、少し飛んだ先で元の体の大きさに戻って一気に加速していきました。

 私達はローブの方の後に続いて再びエレベーターで階層を移動し、豪華な廊下を進んでいると、ひと際大きな扉の前に出ました。

 そしてローブの方が扉を押し開き、その奥に広がっていたのは無数の席が半円を描くように並ぶ光景でした。その中央にはちょっとした壇上が用意されています。


 周囲を見渡すと、既に他の魔女や魔導士の方々も席についていらっしゃるようです。


「皆さまはこちらでございます」


 ローブの方に案内され、ほぼ最前列の席に通されます。奥から適当に腰を掛け、一息ついたと同時に壇上に一人の男性の方が立ち、拡声器を手に一礼しました。


 ついに魔導連合での議会が始まります。緊張する体を落ち着かせるように深呼吸をすると、壇上の男性が話始めました。

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