1-3 ひとりで森を歩きました
10/26 本話サブタイトルが1-7と被っていたので、『森を歩きました』から『ひとりで森を歩きました』に変更しました。
――バスッ! ……バスッ! ……バスッ!
短筒の撃鉄を起こし、引き金を引けば、音と衝撃が生まれ、なにかが射出される。
それは光の弾のようにみえた。
撃鉄が黒い石を打つたびに、銃口から小さな光の弾丸が飛んでいく。
それらは吸い込まれるように、狙った位置に命中した。
「なんだこりゃ?」
理解できない光景だった。
少なくとも、賢人はこのような光弾を射出する銃の存在を知らない。
射撃競技にはビームライフルというものもあるが、あれにしたって発射される光線が見えるわけでもないのだ。
気を取り直して射撃を再開する。
引き金を引けば、光弾が飛び、木に当たって消える。
命中精度は大したものだが、威力はまったくない。
乾いた樹皮を剥がすほどの威力すらなく、ただ消えるだけ。
「おもちゃか?」
当たっても痛くない光の弾を発射する銃のおもちゃ。
なるほど、これで遊べば盛り上がりそうだ。
しかし、ならばなぜこんな古風な短筒の形をしているのだろうか。
「いや、そもそも当たっても痛くないのか?」
木にダメージはない。
だからといって、身体に受けても平気だとは限らない。
「……やめとこう」
無害かもしれないが、もしかしたら怪我をするかもしれない。
この意味不明な状況にあっては、かすり傷ですら避けるべきだろう。
救急セットはあるが、だからといって怪我をしていいわけではない。
「さて、これからどうするかな」
防災セットから水を飲み、練りようかんを1本食べた賢人は、あたりを見回しながらつぶやいた。
ここがどこなのかは依然わからないし、どこにいくべきかもわからない。
しかしこの場に留まり続けても意味はない。
「とりあえず、歩こう」
下手に動けば遭難の恐れはある。
だが、すでに遭難している状態といってもいいのではないか。
仮に迷って、ここまで戻れなくなったとして、なにか困ることがあるわけでもない。
待っていて誰かが来てくれる可能性も低い。
なら、とりあえず歩こう。
そう思い、賢人はリュックサックをしっかりと両肩にかけ、短筒を片手に歩き始めた。
「案外歩けるな」
草木が密集しているように見えた森だが、近づいて見れば人がひとり通れるだけのスペースはそこかしこにあった。
ときおり邪魔な枝葉や蔦を短筒で払いながら、森のなかを進んでいく。
「本格的に遭難したかな、こりゃ」
1時間ほど歩き、もうどの方向からきたのかもわからなくなった。
不安はある。
不意に叫びたくなるほど怖くなることも。
「すぅ…………はぁー……」
そんなときはミントパイプを吸って心を落ち着けた。
――ガササッ……!
少し離れたところから、茂みの揺れる音が聞こえた。
「なにか動物でもいるのか?」
その音は徐々に接近し、やがて足音が混ざり始める。
なにかがこちらへと走ってきているのか?
「どこだ?」
賢人は辺りを見回したが、音の発生源を特定できないでいた。
風にそよぐ草木のこすれる音が邪魔をし、乱立する樹木に音が反響する。
軽く腰を落とし、警戒していると、すぐ近くの木の陰から、なにかが飛び出した。
「うわぁっ!?」
声を上げ、短筒を構える。
「――人?」
現れたのは、人間のようだった。
「あんた冒険者!? ランクはっ!?」
突然現れた人物は、賢人を見るなりそう叫んだ。
ようやく異世界人に遭遇!!
続きは12時!




