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2-15 ダンジョン街に着きました

とりあえず二章は書き上がり次第順次更新していきます。

 エデの町から東へ、専用の馬車に乗って約1時間のところに、一行の目指すセヴォストダンジョンがある。

 集合時間を馬車の出発に合わせたこともあり、賢人らは問題なくダンジョン行きの馬車に乗れた。


「全然揺れないんだな。それに、思ったよりも速い」


 窓の外を流れる景色を見ながら、賢人は呟いた。

 聞けばこの馬車には振動や慣性を制御する魔術が施されているらしく、そのおかげで高級自動車以上の乗り心地を実現できていた。

 また、馬車を引く馬は魔物を調教したものらしく、魔石さえ与えておけばほぼ疲れ知らずで疾駆できるのだとか。

 景色の流れるスピードから、時速50~60キロメートルほどを維持できているようだった。


「よう、ルーシーじゃねぇか! ランクが上がったってのは本当だったみてぇだな。おめでとう」

「ええ、ありがとう」


 馬車には賢人やバートらとは別に、いくつかのパーティーが同乗しており、総勢で30名ほどになっていた。

 それでも車内が狭く感じられないのは、車体に空間拡張の魔術が施されているからだ。


 エデの町でルーシーとかかわったことのある冒険者は多い。

 気づけば彼女は、幾人かの男女に囲まれていた。


「しかし、バートのヤツに先をこされちまったか……。知ってりゃ、俺も声をかけたんだがな」

「そう言ってもらえると、なんだか照れるわね」

「なに言ってやがる。お前さん、ランクはともかく実力が折り紙付きじゃねぇか」

「あはは、買いかぶりすぎよ」

「それで、バートのパーティーに戻るってことかしら?」

「いいえ。バートたちとはレイドを組んだだけよ。あたしはいまのパーティーを辞めるつもりはないから」

「あらあら。あの窓際の彼が、いまの相棒よね? きれいな格好してるけど、どこかのお貴族様かしら? このあたりじゃ見ない顔立ちだけど」

「遠くから来た人よ。あんまり詮索はしないでくれるとありがたいかな」

「そっかそっか。じゃあルーシーちゃんは、あの窓際の彼と、一生添い遂げるつもりってことね」

「ちょっと、そういうんじゃないから」

「あらそうなの? じゃあ私が口説いちゃおうかしら」

「だめよ!」


 思わず大きな声を出してしまったことにルーシーはハッとなり、慌てて賢人のほうを見た。

 窓際の席に座る彼は、ルーシーの周りの騒ぎなど気にしていないかのように、ぼんやりと窓の外を眺めていた。


「はぁ……」


 そのことにほっとしたような、どこか残念に思うような、そんな複雑な表情でルーシーはため息をついた。


「見えてきたぞ。あれがセヴォストダンジョンだ」


 いつのまにか近くに来ていたバートの言葉に促され、賢人は視線を動かした。

 その先には、壁に囲まれた街があった。


○●○●


 ダンジョンの入り口は、必ずと行っていいほど壁に囲まれている。

 ダンジョン内から魔物があふれ出した場合、それを防ぐためだ。


 ダンジョンには多くの冒険者が集まる。

 そしてその冒険者を相手に商売をする者も現れる。

 そのため、壁の内側には街ができる。

 それは、ダンジョン街と呼ばれていた。


「すごいな……」


 活気に溢れたダンジョン街を目の当たりにして、賢人は思わず声を漏らした。


「久々に来たけど、ここはあいかわらずね」


 ダンジョンに入れないルーシーだが、ダンジョン街へくることはできる。

 なので、以前何度かここを訪れたことがあったのだ。


「それにしても、随分雑多な場所だな」


 人は多く、活気に溢れているダンジョン街だが、エデの町のような洗練されたものではなかった。

 木造の建物はいくつか目に入るが、道などは整備されておらず、数多くのテントや屋台が迷路のように入り組んでいた。


「まるでスラム街だ」


 そう呟いた賢人だったが、実際にスラム街と呼ばれる場所を訪れたことはない。

 映画やドラマ、ドキュメンタリーなどで見たことのある、外国のスラム街になんとなく近いものを感じた、というだけのことだ。


「なんというか、もう少し、こう、整備されないものかな?」

「それは難しいだろうね」


 独り言に近い賢人の言葉に、バートが答えた。


 ダンジョンは人知れず生まれ、成長する。

 その過程でダンジョン内に魔物が生まれる。

 生み出された魔物たちは、やがてダンジョンからあふれ出し、暴走を始める。


 魔物氾濫(スタンピード)である。


 暴走する魔物はやがて人里に現れる。

 人は軍をもって氾濫を食い止め、押し返す。

 そうやって暴走の軌跡を逆に辿ることで、人々はダンジョンの存在を確認するのだ。

 ダンジョンに辿り着いた軍は魔物を押し返し、大急ぎで入り口周辺を壁で囲む。

 そうして氾濫を押さえ込みつつ、冒険者を募ってダンジョン内の魔物を討伐させる。

 ダンジョン内の魔物をある程度討伐できれば、氾濫は収まる。

 ダンジョンの規模により左右されるが、氾濫の鎮圧には数ヶ月から数年はかかる。

 そうやって軍や冒険者が活動しているうちに、ダンジョン街は生み出されるのだ。

 都市計画を立てる余裕など、あろうはずもない。


「でも、いまダンジョンは落ち着いてるんだろう? そのあいだに街を整備することもできないのか?」

「いずれ氾濫は起こるからね」


 ダンジョン内の魔物を討伐することで、氾濫を先延ばしにできると言われているが、完全になくすことはできない。

 どのダンジョンもいつかは魔物氾濫(スタンピード)を起こす危険をはらんでいるのだ。

 魔物氾濫(スタンピード)の兆候を掴むと、人はダンジョン街を捨ててとにかく逃げる。

 そしてダンジョンからあふれ出した魔物は、ダンジョン街のすべてを踏み潰し、壁を破壊し、各地にちらばっていくのだ。


「たとえば軍を配備して入り口を固めるとかは?」

「自殺行為だね。魔物氾濫(スタンピード)発生直後の勢いはすさまじいらしく、氾濫によって暴走する魔物の速度や密度は人の力でどうにかできるものではないのさ」


 ゆえに、人々は魔物氾濫(スタンピード)が起こったらダンジョン街を放棄し、周辺の町は守りを固め、氾濫の勢いがある程度弱まってから反撃に転じるのだ。

 そうやって人々は、ダンジョンとうまく折り合いをつけているのである。


「とりあえず、先に宿をとって探索の計画を立てようか」


 バートの先導で人混みを歩く一行は、やがてこの街唯一の宿屋に辿り着いた。

 それは簡素ながらしっかりとした作りの、木造2階建ての大きな建物だった。


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