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1-30 改めてよろしくお願いします

「ごめん、また取り乱しちゃって……」


 ひとしきり泣いたところで、ルーシーは落ち着きを取り戻した。


「すっきりした?」

「ええ、おかげさまで」


 いったん落ち着いたところで、彼女は浄化施設にいった。

 顔を洗ってくる、という感覚なのだろう。

 1泊につき1度は無料で使える浄化施設だが、それ以外にも1回1500シクルで利用可能だ。

 日帰り入浴のようなものだろうか。


「それで、パーティーはどうする?」

「もちろん継続に決まってるわ」


 彼女の実績を考えれば、すぐにでもEランクへ昇格できるだろうし、そうなればより難易度の高い依頼を受けたり、ダンジョン探索を始めることもできる。

 しかし俺とパーティーを組んでいると、そうはいかない。


「パーティーランクは、低い方に合わせるからGになるんだよな」

「ええ、そうね」


 仮にルーシーがEランクになっても、Gランクの賢人と組んだ場合、最初のパーティーランクはGとなる。

 その後パーティーでの評価を上げていけば、例えばケントがGランクのままでも、パーティーランクはFやEにまで上げることが可能だ。

 そうなれば、賢人がいてもより高い難易度の依頼を受けることは可能になる。

 ただし、依頼によっては個人ランク制限がかかる場合もあった。


「ソロならすぐにでもダンジョン探索を始められる。バートたちのパーティーに戻ることもできるんじゃないか?」


 たとえばダンジョン探索がそれにあたる。

 バートらは現在Eランクパーティーだが、ダンジョン探索には『Eランク以上』という個人ランク制限があるので、ルーシーは同行できないのだ。


「あたしの能力値を上げてくれたのは賢人よね? だったら今度はあたしができるだけのことをあなたに返さなくちゃ」

「でも、そんなに時間は残されてないんだろう? だったら効率を考えてだな」

「あたしは恥知らずでも恩知らずでもないわ。命を助けてもらったうえに能力値まで上げてもらっておいて、自分の都合を優先させることなんでできないわよ。それにね……」


 そこでルーシーは、小さく笑って肩をすくめた。


「別にきれいごとだけでこんなことを言ってるわけじゃないのよ」

「ん? それってどういう……」

「そうね。じゃあ1回試しに解散してみましょうか」


 彼女はそう言って加護板を差し出した。


「ケントも加護板を」


 ルーシーに促され、賢人は加護板をポケットから取り出し、彼女のものに重ねた。


「ルーシーはケントとパーティーを解散する」

「……承諾する」


 その瞬間、彼女との間にあった繋がりのようなものが消えた。

 少し、不安になる。


「やっぱりね……ほら」


 自分の加護板を確認したあと、ルーシーはそれを賢人に見せた。


「えっと……」

「【SP】っていうのが、なくなってるでしょ?」

「あ!」


 たしかに、ルーシーのステータスから、【SP】の項目が消えていた。


「たぶん……っていうか、間違いなくだけど、【SP】を操作できるのはケントが持ってるなんらかのスキルの効果だと思うのよ。で、対象は本人とパーティーメンバーってところかしら」


 少し考えればわかりそうなものだった。

 こちらに来ていろいろあったことで、まだ正常に思考できる状態ではないのかもしれない。


「ケントのそのスキルは、あたしにとってとても重要なものなの。だから」


 ルーシーは居住まいを正し、まっすぐにケントを見た。


「あたしとパーティーを組んでください。改めてお願いします」


 そう言って彼女は深く頭を下げた。


「そういうことなら、よろこんで」


 ふたりは改めて加護板を重ねた。


「じゃあ今度は俺から、ルーシーにパーティー申請を行う」

「申請を受けるわ」


 重ね合わせたふたりの加護板が淡く光り、ふたりを包んでほどなく消えた。


 賢人は彼女の能力を上げてやる。

 代わりに、ルーシーはこれまでの経験を活かして、賢人を指導しつつ行動を共にする。

 お互いにメリットがあるのなら、断る理由はない。


「それにしても、この土壇場でケントみたいな人に出会えるとはね。あたしの運も捨てたもんじゃないわね」

「いや、捨てたもんじゃないどころか、最高の【運】を持ってるから」

「あはは、そういやそうだったわ」


 賢人にしたところで、訳もわからないまま異世界に放り出されたあと、最初に出会ったのがルーシーだったことは、幸運だったと言えるだろう。

 それは彼自身の運というより、ルーシーの【運】にあやかった、ということかもしれない。


「ただ、ケントのスキルについては秘密にしておいたほうがいいわね」


 ルーシーが賢人の能力を独り占めしたいからそう言ったわけではない。

 本来冒険者というものは、自身の重要な能力については秘密を貫く者が多いのだ。

 まして未知の――さらに言えば非常に有用な――スキルを周りに知られてしまうと、賢人は必ず面倒ごとに巻き込まれるだろう。

 ならば、ランクSや【SP】にまつわることは極力知られないほうがいい。

 そこでふたりは、再び互いの加護板を重ねた。


「私、ルーシーは、今日この部屋で見聞きしたことを、パーティーメンバー以外には秘密にすることを誓う」

「おなじく賢人も誓う」


 加護板が淡く光った。

『秘密の共有』という、加護板の機能のひとつだ。

 これで、お互いが許可しない限り、いまこの場で話した内容は口外できなくなった。

 パーティー解散後も、どちらかが死んだあとも、その効果は続く。


「それじゃあ、改めてよろしくね、ケント」

「ああ。こちらこそよろしく」


 少しまじめな表情でそう言ったあと、ふたりは軽く笑い合った。


これにて第一章は終了となります。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

次回から賢人とルーシーの本格的な冒険者活動が始まりますので、引き続きよろしくお願いします!!


「おもしろい!」「おもしろくなりそう!」と思っていただけたのなら、是非ともブックマーク、評価、そしてレビューをお願いします!!

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