1-24 ステータスを確認しました
ポケットから取り出した加護板に、文字が浮かび上がっていた。
「それ、指でなぞるみたいに動かすと、隠れている部分も出てくるから」
スマートフォンのモニターをスワイプする要領で触れてみると、文字がスクロールされるようだ。
加護板を見て判明した賢人の能力は、以下の通りだった。
**********
【名前】ケント
【レベル】1
【HP】15/15
【MP】23/23
【SP】0
【冒険者】G
【攻撃力】H(A~G)
【防御力】H(S)
【魔力】F(B)
【精神力】G(B)
【敏捷性】H
【器用さ】G
【運】G
【スキル】
〈魔女の恩恵〉
〈マップ〉
〈アイテムボックス〉0/1
〈射撃〉F
【パーティーメンバー】
ルーシー
【属性適性】
《地》H
《水》H
《火》G
《風》H
《空》G
《光》G
《闇》E
《聖》F
《邪》-
**********
自分でひととおり確認したあと、ルーシーに加護板を見せた。
「Hが一番低いんだっけ?」
「そう。でもこれはあくまで補正値。素の能力はまた別だからね」
いかに加護の能力値が低かろうと、それは本来の能力に上乗せされるものだ。
なので、加護を受けた瞬間から、多少なりとも強くなるのである。
【属性適性】は魔術を習得する際に重要になってくる項目なのだが、これについてはあとで考えることにした。
「カッコに入ってる値は?」
「それは装備による補正ね。本人にしか見えないわ」「なるほど……」
装備による補正がとんでもないことになっていた。
例の短筒がそれなりの【攻撃力】を誇るのはわかる。
変動値になっているのは、使う魔石によって威力が変わるからだろう。
また、魔術効果の補正値である【魔力】や、魔法への耐性、回復魔術の効果に関わる【精神力】へも、あの短筒の影響が考えられる。
しかし【防御力】――すなわちダメージを受けた際の【HP】減少量に関わる能力値は、どう考えても異常だった。
(まさか……このスーツか?)
ただこれについては、いまのところ考えても答えは出なさそうである。
「この〈魔女の恩恵〉っていうスキルはなんなんだ?」
「うーん……聞いたことないわね。それより気になるのは【MP】の隣にあるものなんだけど……。この文字が、どうしてここに……」
「ああ、えっと……【SP】か」
ケントがそう言った瞬間、加護板をのぞき込んでいたルーシーが勢いよく顔を上げた。
「ど、どうして……?」
ケントを見るルーシーの顔は青ざめ、わずかに口元がわずか震えていた。
「ルーシー、いったいどうし――」
「どうしてケントはその文字を読めるの!?」
それは悲鳴のような声だった。
ルーシーは目を血走らせ、賢人の両肩を掴んだ。
「なんでケントがそれを読めるの!? 誰も読めなかったのにっ!!」
「落ち着けルーシー!」
「どうしてっ!? ねぇ、なんでなのっ!?」
「まずは落ち着くんだ!」
今にも暴れ出しそうなルーシーをひとまず押さえつけようとしたところ、驚くほど簡単に組み伏せることができた。
加護の補正のおかげなのだろうか。
「くぅ……! いや、やめて……」
気がつけば、賢人はルーシーに覆い被さっていた。
「ご、ごめん!」
賢人は慌ててとびのいた。
「けほ……うぅ……」
「ごめん、ルーシー」
謝る賢人に対して、ルーシーは身体を起こしながら首を小さく横に振った。
「あたしのほうこそ、ごめん……取り乱しちゃって」
そう言うと、ルーシーは顔を上げて力なく微笑んだ。
「でも……」
しかしすぐに訝しげな表情を浮かべて、賢人を見た。
「どうしてケントはその文字を――」
「その前にルーシー、俺には記憶がない」
「あ……」
賢人の言葉を受け、ルーシーは呆然とした。
「だから、なぜその文字を読めるのかは俺もわからない」
嘘ではあるが、その設定で話を進めることにした。
「俺には記憶がないけど、名前は覚えてたし、言葉もしゃべれるだろう? だから、神代文字についてもなにか知っていたかもしれないけど、いまはよくわからないんだ」
「……そっか」
ルーシーはがっくりとうなだれた。
「じゃあ、文字の意味なんかもわかんないんだね……」
うなだれたまま、彼女は呟いた。
「意味……意味か……うーん」
この世界で神代文字と呼ばれるアルファベットは、表意文字ではないので、文字そのものに意味はない。
だが、それがどこに表示されているかで、なにを意味するのかはある程度判断できるだろう。
「わかるような……わからないような……」
ルーシーの落ち込み方がかわいそうで、賢人ははっきりと〝わからない〟とは言えなかった。
「意味、わかるの……?」
ルーシーが顔を上げた。
期待の眼差しを向けられ、賢人は少し早まったかと後悔し始めた。
「いや、その……なんというか……」
「あのね、ケント」
すっと差し出されたルーシーの手に、板が現れた。
「あたしの加護板、見てもらってもいいかな?」
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