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1-23 ルーシーの事情を聞きました

 ルーシーの提案により、話は賢人の部屋ですることになった。

 自分の部屋に女性を連れ込むことに、思うところがないわけではないが、他に場所がないのだからしょうがない。

 念のため、女将には部屋で話すことを断っておく。


「あんたらがいいってんなら別にいいさね」


 ちなみに男性が3階の女性フロアへ行くのは禁止されているが、女性が2階の男性フロアへ行くのは禁じられていない。


「さて、まずはあたしの事情から話したほうがよさそうね」


 部屋に入るなり、ルーシーがそう言った。


「あたしはね、奴隷なの。いわゆる口減らしってやつで売られちゃったんだ」


 15歳のとき、住んでいた村の不況が原因で数名の村人とともに彼女は奴隷として売られた。

 地方の貧しい村では、それほど珍しいことではないらしい。

 奴隷といっても、それなりの権利はある。

 奴隷商はその権利を、奴隷たちに理解させる義務があった。


「それでね、冒険者になると奴隷から解放されるっていう制度があったの」


 魔物の脅威から人々を守る冒険者は、万年人手不足の状態だ。

 なので、冒険者となりそれなりの成果を上げれば、冒険者ギルドが身請けし、奴隷から解放してくれるという制度があった。

 解放される条件はふたつ。

 冒険者として活動し、稼いだ金で自分を買い戻す。

 もしくは、価値に応じたランクに達する、というものだ。


「当時あたしは若かったから、結構な値がついちゃってね」


 若い獣人女性、ということでルーシーには5000万シクルの値がついた。


「おかげでCランクまであげなくちゃいけなくなったのよ」


 だがルーシーは、ある特殊な事情によりいまだにFランクのままだった。


「ほんとうは10年で達成しなくちゃいけないんだけど、全然足りなくてね。でもギルドの温情でさらに猶予が5年延びたの」


 現在ルーシーは29歳。

 残る猶予は1年足らずだが、3000万シクルまでならギルドが出して身請けしてもらえるという約束は取り付けている。


「いまで1800万は返してるから、残り200万かな。ま、なんとかなるでしょ」


 30歳を迎えたとき、ルーシーは競売にかけられる。 それまでに残金を3000万円にできれば、ギルドが入札してくれるとのことだった。


「あー、でも、あたしを3000万以上で買い取ろうなんて物好きがいたら、そっちに買われちゃうんだけどね」


 また、30歳になった時点で残金が3000万シクル以上残っていれば、ギルドの入札はない。

 ほかに買い手がつかなければ、おそらく娼館で働くことになるだろう。


「15のときはさ、5年あれば自分を買い取れるから、その先は自由だよって、結構説得されたんだよねー。それに、もうちょっと若いころは、アタシを身請けしようなんて奇特な人も何人かいたりしたんだけど、そういうの、嫌だったから」


 そう語るルーシーに、悲壮感はない。

 ただ、諦めに似た感情は見て取れた。


「でもさぁ、この歳で娼婦になって、3000万も稼げるかな? 下手をすれば、一生下働きかもねー」

「ルーシー……」


 なんと言っていいのかわからず、賢人は複雑な感情を乗せた視線をルーシーに向けていた。

 すると、彼女は目の前でパンッ! と手を叩いた。


「はい。これであたしの身の上話はおしまい! 身請けとか買い取るとか、そういうのが気になってたんでしょ?」

「いや、まぁ……」

「聞いてみれば、大したことない話でがっかりした?」

「大したことないだなんて……」


 そこまで言って、賢人は口を閉じた。

 彼女の言うとおり、こちらの世界ではよくある話なのだとしたら、自分から言うべきことはなにもないのかもしれない。

 なんでもないことのように話した彼女の心中を察せるほど、賢人はルーシーのことを知らないのだ。


「それじゃあ、さっそく賢人の加護板を確認しましょうか」

「ちょっと待ってくれ、その前にもうひとつ確認しておきたいんだけど」

「なに?」

「ルーシーのランクが上がらない事情って、なんなんだ?」


 14年ものあいだ冒険者を続けてきて、ルーシーのランクは最低のGからひとつ上がっただけのFだった。

 解放のため1800万シクルを収めたというからには、少なくともその倍以上の報酬は得ているはずだ。

 つまりそれだけの依頼を、ルーシーは達成しているということになる。


「もっとランクが上がっていても良さそうなものだけど……」

「んー、それについては先に賢人の加護板を確認してもらったほうが説明しやすいかな?」

「俺の?」

「ええ。賢人の、というより一般的な加護について知っておいてくれたほうがいいわね」


 一般的な、ということは、ルーシーの加護が特殊なのだろうか?

 そう思いながら、賢人はポケットに入れておいた加護板を取り出した。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

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