1-20 顔なじみが現れたようです
「ルーシー!」
ギルドの出入り口から、ルーシーの名を呼びながら突進してきた人物は、そのまま彼女の腰のあたりに抱きついた。
「ごふっ……!」
それは黒い三角帽子とローブを身につけた、魔女のような恰好をした少女だった。
結構な勢いのまま抱きつかれたルーシーが、軽く咳き込む。
「い、いきなり飛び付いちゃ危ないじゃない、アイリ」
「ん、私は平気」
「あたしが平気じゃないんだけどね」
と呆れ気味にこぼしながら、ルーシーはアイリと呼ばれた少女の背中を優しくトントンと叩いた。
アイリは抱きついたまま、顔を上げる。
「ルーシー、元気だった?」
「もちろん、元気よ」
その返事を聞いたあと、アイリは再びルーシーの身体をギュッと抱きしめた。
「ルーシー、帰ってきて」
「えっと……」
「うちのパーティーには、ルーシーが必要」
「えっと、でも……」
「ルーシー成分が足りない。だから帰ってきて」
「あー……そういうこと。そう言ってくれるのは嬉しいんだけど」
「残念ながらそれは無理だよ、アイリ」
そんなふたりの会話に、別の者が割り込んできた。
声の主は若い男性冒険者だった。
さらさらの金髪に、青い瞳の美青年で、華美な白銀の鎧を身に纏っている。
その半歩うしろに、メイドらしき女性の姿もあった。
銀髪に新緑の瞳を持つ、薄褐色肌の女性で、ゴシック調のメイド服に身を包んでいる。
彼女は青年冒険者に付き従っているようだった。
「ルーシーは我がパーティーにふさわしくない。そんなことくらいわかるだろう?」
諭すようにそう言われたアイリは、ルーシーに抱きついたまま振り向き、青年に冷たい視線を送る。
「バートのいじわる」
「別に意地悪で言っているわけでは――」
「バカ、アホ、ホーケー、タンショー、ソーロー……」
「ま、待ちたまえっ! いくらなんでも言いすぎだぞアイリ!!」
バートと呼ばれた青年は、顔を真っ赤にして抗議する。
「だいたいマリーもなんで黙っているんだよ! 主人が侮辱されているんだぞ!?」
そして、彼の後ろで眉ひとつ動かさぬメイドに向かって、バートは文句を言った。
「では恐れながら」
するとマリーと呼ばれたメイドが、すっと前に出て、アイリと対峙する。
「アイリさま、ご主人さまを侮辱された件、謝罪のうえ訂正願います」
「アイリは言ったのはすべて事実。間違ったことは言っていない」
お互いが無表情のまま向かいあっている。
にらみ合う、というほど険悪ではないが、少しばかり冷たい空気があたりに漂っていた。
「いいですか、アイリさま。そもそも仮性と真性をひとくくりにされているのが大間違いなのです」
「お、おい、マリー……?」
「ご主人さまはあくまで仮性。男性の7割が仮性ですので、それは侮辱されるべきものではありません」
「なにを言っているのだマリー!!」
「ごめんなさい。そこは訂正する」
「それに大きければいい、というものでもありません。過ぎたるは猶及ばざるが如しといいますし、大きすぎれば受け止める側にも負担が――」
「おいマリー、いい加減に――」
「マリー的にはどう?」
「少し物足りないかと」
「えっ……マリー!?」
「あと、早いことよりも一度で終わってしまうことのほうが問題でございますね。こちらの気も知らず満足そうに眠る姿に殺意を覚えたことがいったい何度――」
「も、もういい! やめてくれぇ……」
バートは力なく膝をつき、うなだれていた。
賢人は目の前で繰り広げられた意味深なやりとりにどう反応していいかわからず戸惑ったが、ルーシーはクスクスと笑っていた。
もしかすると、よくある光景なのだろうか。
「ふたりとも、そのくらいにしときなさいよ」
「ん、ルーシーが言うならやめる」
「これはお見苦しいところを……」
マリーはスカートをつまんでお辞儀をし、バートのうしろに下がった。
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