44 ファーリの迷い
サイクロプスを倒した私たちは、そのまま素材となる部位の剥ぎ取りと、狩ってきたモンスターたちの死体処理を済ませることにしました。
肉は食用に、臓器は薬品に使用できるものがあるのですが、ナマモノですからあまり多く新鮮なものを売りに行くのは不自然です。
なので、自分たちで消費できるものだけを残し、他は魔法で焼却して土に還しました。
ちょうどおあつらえ向きの、オークの巣の凹んだ地形が役に立ちました。
各種モンスターの素材と一部の食肉、動物系の素材と肉を私のストレージに入れた頃には、太陽はかなり低くなり、もう森の中は随分と暗くなっていました。
結果的に、私たちは初日から野営をすることとなりました。
テントを準備し、今日狩ったばかりの食肉を焼いて、皆で食べました。
楽しい時間でした。
何よりも、一日中歩いていたので疲れもかなり溜まっていて、その分お肉がとても美味しく感じられました。
味付けも何もない焼肉でしたが、それでも満足のいく食事となりました。
食事を済ませたら、就寝の時間です。
と言っても、全員で一斉に寝る訳にはいきません。
ここはモンスターの徘徊する森の中。人間が4人もいれば、その気配を察知して寄ってくるモンスターも出て来る可能性があります。
なので、1人は哨戒に当たることになります。
順番を決め、薪一本分が燃え尽きるまでを時間の区切りとして、交代で哨戒に当たることになりました。
最初がクエラお姉さま、次がアンネちゃん。そして私、リグという順番です。
そして、私の順番が回ってきます。
「そんじゃあ、よろしくにゃ」
アンネちゃんは言って、私と入れ替わりでテントに入っていきます。
私は焚き火に新しい薪を添えて、哨戒を始めます。
と言っても、私の場合はとても楽です。
スーパーサーチがあるのですから。
……けれど、それこそが私の今一番の悩みの種です。
私は、自分の力について悩んでいました。
全力を出せば、私の力はかなりのものになります。
実際、今日は一瞬でサイクロプス3体を葬り去りました。
それに、スーパーサーチを使えば苦労なく周囲の警戒が出来ます。
敵の接近も察知できますから――今日のオークが帰ってきた時のような、不意打ちを喰らうことも無くなるはずです。
けどそれらは、ただ強い力をぶっ放しているだけなのです。
たまたま私が持っていただけの大きな力を、無造作に使っているだけに過ぎません。
それは強さとは別のものだと、私は思います。
強いというよりも……ただ、攻撃的で、破壊的なだけ。
だから私は、なんでもスーパーサーチに頼ったり、高い魔法適性に物を言わせて敵を倒したりすることを良しとしません。
そのための封印です。
便利過ぎる力を制御して、あくまでも自分の創意工夫で、技術で戦うすべを身に着けたいのです。
でなければ、きっと私は自分自身の高い魔法適性を活かしきることができないままになってしまいます。
でも、それでも私は、力に頼った方がいいのかもしれないと思ってしまいました。
サイクロプスに追い込まれた時、リグやお姉さま、アンネちゃんに危険が及ぶかもしれないと感じた時、私は自分に使える全ての力で敵を倒そうと思っていました。
仲間のみんなが傷ついたり、苦しんだりするのは嫌なのです。
だから、そのためには……本当ならスーパーサーチでもなんでも駆使して、みんなの役に立つべきなのです。
でも、私はそれをやりたくないと思ってしまう。
最低なのです。
「……はぁ」
私は、ため息を吐きました。
手加減をすることで、仲間に迷惑がかかってしまいます。
こんなことなら、1人だったほうがよかったかもしれない、とさえ思ってしまいます。
そうすれば、私が勝手に手加減をして、勝手に傷ついても、他の人は平気です。
大切な仲間が危ない目にあうこともないのです。
でもやっぱり、私はみんなが好きです。
このチームから離れたくない。
……どうしたらいいのか、分からなくなります。
頭がこんがらがって、ぐちゃぐちゃになります。
「――ファーリ」
そんな時、私のことを呼ぶ声が聞こえました。
「……リグ?」
そうです。
リグが起き出して、テントから出てきたのです。




