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14 たった一度かぎりのチャンス




 私は逃げ続けながら、チャンスを待ちます。

 それは、私が『足を踏み外したフリ』をしながら受けることのできそうな、地下からの槍の突き上げ攻撃です。

 不自然に踏み込んで喰らうと、私の策を悟られかねません。

 なので、慎重に機会を伺います。


 やがて、私の肉体が限界間際というほど疲労した時です。


(――これですッ!)


 スーパーサーチの知覚が、次の地下からの攻撃を予見してくれました。

 そして、その攻撃は私が足を踏み外した場合、直撃する位置にあります。


 私はわざと体勢を崩し、足を踏み外したような動きで、自分の身体を槍の突き上がるはずの位置に移動させます。


 そして――血の槍は、勢い良く私の身体を下から突き上げてくれました。


 これを、私は待っていました。


 パワーを振り絞り、自分の足元に高密度の魔力を集めます。

 そして魔力に血の槍が衝突した時、その衝撃は私がまとった魔力の中へと分散していきます。


 そう、これはリグとの模擬戦で使った技術の応用。

 あの時は全身に張り巡らせた力を、今は足だけに使っています。


 槍の突き上げの衝撃と威力に、私の足は当然悲鳴を上げます。

 ミシミシ、と痛みが走ります。ライフも大きく削られ、たった一撃で半分以上を持っていかれました。

 しかし、ここが踏ん張りどころです。


「……ッアアアアァ!!!」


 私は絶叫しながら、痛みを堪えながら、槍の突き上げの勢いを利用して高くジャンプしました。

 真っ直ぐ、お姉さまの方へと向かって。


「ッ!?」


 思わぬ事態に、お姉さまは驚愕の表情を浮かべていました。

 ですが、もう手遅れです。

 私の敏捷性に、槍の突き上げの威力も重ねたスピードで突っ込んでいくのです。

 お姉さまが私より速くとも、その差は大きくありません。

 また、意表をついた突撃でもありますから、お姉さまに回避するという余裕はありませんでした。


 そこでお姉さまは、咄嗟に血液を操作し、私との間に巨大な盾を生み出しました。

 回避が不可能なら、受け止める。当然の思考です。


 しかし――これも私は、読んでいました。


 私は、今まで試したこともない方法で、この障害を消去します。

 手を翳し――血の盾を私の『ストレージ』に収納しようと試みます。


 いくら血液とはいえ、一度身体から流れ出てしまえば、そこにお姉さまの意思は宿っていません。

 私のストレージの適正がランクSであるならば――きっと、お姉さまの魔力が篭った物体でも、収納することは可能だと考えたのです。


 そして、私の考えは当たりました。

 お姉さまの生み出した血の盾は、一瞬で消滅します。


「――嘘だろ――」


 お姉さまは、信じられないと言った様子で小さくつぶやきました。

 きっと、何が起こったのかも分かっていないのでしょう。


 私は、お姉さまのつぶやきも終わらぬうちに、その身体にエクスコルドの斬撃を浴びせます。


 十分な切れ味を持った無属性魔法の刃は、抵抗なくお姉さまの身体を切り裂きます。

 もちろん、命まで断たないよう、浅い斬撃ではありましたが。

 お姉さまの戦闘力、そしてライフを奪い切るには十分な一撃でした。


 意識を失ったお姉さまの身体が、地上へと落下していきます。

 そして私も、飛び上がりの勢いを失い自由落下を始めます。


 お姉さま、そして私が地面に墜落します。

 私は槍の一撃とジャンプで無理をしたせいで、足がボロボロになっていました。

 立ち上がるのも困難な状態です。

 しかしどうにか膝をつき、身体を起こしました。


 一方で――お姉さまは、見るからに戦闘不能。

 身体を起き上がらせる様子もありません。


「――勝負アリッ!」


 リリーナ先生の声が聞こえます。

 私の勝ちが決まった瞬間でした。


 緊張が解け、私は身体から力が抜けるのを感じました。

 ライフが残っているとはいえ、スーパーサーチと足の負傷の負担は軽くはありません。

 そのまま、私も気を失って倒れてしまいました。

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