13 レッドマスカレイドの恐怖
私は襲い掛かってくる血の剣たちを、自分の剣閃とブリッツで叩き落としていきます。
余裕も無く、スーパーサーチを働かせ、軌道予測をしながらの防衛です。
しかしそれでも――お姉さまの攻勢は揺るぎないものでした。
私は体勢こそ崩さないものの、ブリッツとスーパーサーチでパワーばかり消耗していきます。
一方でお姉さまは空中で高みの見物です。
しかも、お姉さまにはパワー回復の技能があります。
このまま防戦を続けていれば、私の方がパワー量で上回っていても、スタミナ切れを先に起こすのは確実です。
私はお姉さまの新しい行動を釣るために、自分も行動を変えます。
これまで以上の強い魔力をエクスコルド、そしてブリッツに込めます。
そして――私の圧倒的な魔法力を活かし、血の剣を次々と破壊していきます。
「マジか! ファーリの魔法力は底無しだなぁ!」
お姉さまは嬉しそうに声を上げながら、腕を奮って指先の血液を散らします。
無数の血飛沫は、そのまま膨大な量に増え、そして形を変えて――槍の形を成します。
その切っ先は、地上にいる私の方を向いていました。
今日の天気は、血飛沫ときどき槍。
冗談じゃありません。
「全部避けてごらんよ!」
言いながら、お姉さまは無数の槍をコントロールし、次々と私に目掛けて飛ばしてきます。
上空から連続して降り注ぐ槍を、私は受け止める気にはなれませんでした。威力もリスクも、剣の時とは桁違いです。
とにかく私は駆け回り、次々落ちてくる槍から逃げ続けます。
ですが――何か、おかしい。
槍が本当に私を貫こうと狙っているようには思えませんでした。
剣の時のような、私の行動を制限するような、嫌らしい軌道を飛んでくるものがありません。
私が何事か、と考えていた時。
不意に、スーパーサーチの知覚に、奇妙な反応がありました。
目の前の地面に、強い魔力と、攻撃の反応。
訳がわからないながらも、私は真横に飛び退きます。
すると、次の瞬間には地面から巨大な血の槍が突き出てきたのです。
私がもしも直進していれば、身体をぐっさり貫かれていたでしょう。
「こ、殺す気ですかお姉さま!?」
「これぐらいじゃあ死なないだろう!? それに、即死じゃなければリリーナ先生が治癒魔法で治してくれるよ!」
その通り、この世界の治癒魔法はとても強力です。
とはいえ、致命傷をあっさり回復できるほど万能でもありません。それはパパの時にも経験したとおり。
つまりお姉さまは、私があの槍を回避するか、悪くても致命傷は避けることが出来ると踏んで攻撃してきたのでしょう。
期待をかけてもらえるのは嬉しいのですが、もう少し穏便な期待は頂けないものでしょうか……。
その後も、お姉さまの上空と地下からの槍の連携は続きます。
いよいよ攻撃も激化して、逃げ続けるのも苦しくなってきます。
(このまま逃げ続けても――追い込まれるだけなのです)
私は、体力の限界を感じていました。
攻撃を受けていないのでライフは健在なのですが、肉体的な限界が近づいていました。
そして、一瞬でも回避が遅れたら上空、あるいは地下からの槍にぐっさり貫かれて終わりです。
――いえ、貫かれる、とすればの話です。
私は、一つの可能性に賭けることにしました。
作戦、というには心もとない考えですが、今はお姉さまに勝つための方法をそれ以外に思いつきません。
私は、考えを実行に移します。




