07 リグレットのお家事情
「さて……これでカミーユさんも信頼できる人物とわかったことだし、リグレット様のお話も聞くことが出来ますね」
お姉さまは話を戻します。
そうでした。リグが私たちに、秘密を明かしてくれるのでした。
「……今さらですけれど、カミーユ様に今までの話を聞かせても良かったんですの?」
リグの疑問はごもっとも。
今までカミさまを信用していなかったのなら、お姉さまは何故自分の秘密をペラペラとお話したのでしょうか。
「いや、別に信頼していなかったわけじゃないんですよ。僕の眼は、カミーユさんが悪意ある存在でないことは見抜いていましたし。それに、リグレット様もどこか信頼をおいているように見えました。違いますか?」
「そうですわね……確かに、わたくしもファーリの守護精霊様であるというのは聞き及んでいましたから。クエラさん、貴女なかなかやりますわね」
「これはどうも」
お姉さまはわざと畏まったように一礼します。
「ですが、リグレット様の秘密ともなれば、信頼できる相手か確認しておくべきかと思いまして」
「なるほど、良い心がけですわ」
「これまたどうも」
「もう礼は良いですわ。それよりも……わたくしの話を聞いていただけないかしら」
言って、リグはこの場の全員に目配せします。そして、私にだけ手を握って合図をくれます。
全員が、リグの目を見て頷きます。
「では――まずは、おバカなファーリの為に我がクラウサス家について説明した方が良さそうですわね」
「り、リグ……ひどいのです」
「あら、不勉強でわたくしの身分を見抜けなかったのはどこの誰かしら?」
「うぅっ」
「しかも、わたくしの名前までしっかり把握した上で気づきもしないなんて、正直あの時は信じられませんでしたわ」
「えっ、それは本当かいファーリ?」
お姉さまにまで驚かれてしまいます。
「ご、ごめんなさいなのです……どこかで聞いたことのあるような気はしていたのですが、思い出せなかっただけで……知らないわけではなかったのです」
「それを知らない、と普通は言うんだけどね」
「あう」
お姉さまに図星を突かれます。
「では……改めまして、わたくしはクラウサス大公家の一人娘であり、現在十三位の王位継承権を持つリグレット・ベーゼ・クラウサスですわ」
改めて言われると、とんでもないことだと分かります。
王位継承権がある、ということは、リグはこの国のお姫様でもあるのですから。
……そう考えた途端、ちょっと興奮してきました。
私の一番のお友達は、お姫様。
なんだか、素敵すぎます。
「何を笑っているの、ファーリ」
「な、なんでもないのです」
リグに忠告され、私はすぐに顔を引き締めます。
「わたくしが王位継承権を持っているとはいえ、実際に王族となる可能性はほとんどありません。あくまでも、法に従って順位付けをした場合、そうなるというだけですわ」
「まあ、そうだろうね。でなければ、大公という位を与えた現王族の方々の示しがつかなくなる」
「ええ。ですが……わたくしの場合は、次母様の御位に問題がありまして」
次母とは、この世界、ファンタズム特有の言葉です。
女性同士でも婚姻することが普通のファンタズムでは、2人の母親を区別して呼ぶための言葉があります。
嫁入りした側の母を『次母』『入母』などと呼び、反対に嫁を迎えた側の母を『元母』『長母』と呼びます。
同様の法則で、嫁入りする側の女性を『次嫁』『入嫁』『次妻』『入妻』等と、嫁を迎える側の女性を『元嫁』『長嫁』『元妻』『長妻』等と呼びます。
「元クラウサス大公様の入嫁様は、確か……古典英雄教の教皇様でしたね」
「さすが、クエラさんですわね。その通り、わたくしの次母様は元教皇です」




