04 吸血鬼&魔族
私たちは、4人で食堂に向かいました。
食堂は朝早いからなのか、まだあまり人がいません。
「それじゃあ、僕もきちんと自己紹介をしておこうかな」
言って、お姉さまは一度礼をしてから名乗ります。
「僕はクエラ・フォン・ダズエル。ダズエル子爵家の長女の身ですが、今は身分を隠してただのクエラとして学園にかよっています」
「お姉さま!? それ、隠さなくて良いのですか?」
「リグレット様に隠し立てするのは良くないと思ってね。それに、ファーリはもうとっくにダズエル家の者だとバレているんだろう?」
「うっ……」
図星でした。
……ん? リグレット『様』?
私はお姉さまがリグに様付けした理由を聞こうとしましたが、それよりも先にリグが声を上げます。
「あの、クエラさん。失礼ですが……本当に、お二人は姉妹なのですか?」
「ん? ああ――僕の、『コレ』のことだね。それは説明すると、少し長くなるけど、いいかな?」
言いながら――お姉さまは自分の頭を指差しました。
お姉さまはダズエル家の人間でありながら、頭髪は赤ではなく煌めく銀色。そして、瞳は血色の真っ赤な瞳。
私と血の繋がった姉妹とは、とても思えない色をしています。
そして――それだけではありません。
お姉さまには、『角』と『牙』が生えているのです。
親指ほどの大きさの小さな角が、頭に2本。
そして口には、人の2倍ほども長い犬歯――牙というほかない歯が2本。
血の繋がりはもちろん、同じ人種であることさえ疑われる姿なのです。
「簡潔に言うと、僕は吸血鬼と魔族の血が流れている。まあ、亜人種の混血ってことだね。……もしかして、引いちゃったかな?」
「いえ、わたくしには亜人種への偏見はありませんもの。ですが……クエラさんが混血ということは、ファーリさんも?」
「いや、そうじゃないんだ。……正確に言えば、どちらとも言えない、かな」
お姉さまの言い方に、リグは首を傾げます。
「僕たちダズエル家の歴史の話になるんだけどね。大昔、ダズエルの人間はより強い力を求めて、亜人種の血統に目をつけたんだ」
お姉さまの話は、ダズエル家の外の人間にはほとんど知られていない影の歴史の話です。
「様々な亜人種と交配を繰り返し、ダズエル家はその全ての血を一つに集め、手に入れた。以来、ダズエルの人間は極めて優れた能力を発揮することが多くなったんだけど……弊害もあった。時おり、生まれる子供に亜人種の血が濃く出てしまうことがあったんだ」
「それが貴女、クエラさんであると?」
ここまで話を聞いて、リグは察したように言います。
実際にその通りで、お姉さまも頷いて答えます。
「その通り。まあ、ここ数百年はそんなことも無かったらしいんだけど、久々に僕みたいな異端児が生まれちゃってね。長女がこの姿じゃあ、世継ぎとして社交界に出すわけにもいかない。そこで僕は16年間存在を秘匿され続けていたんだけど、今年ようやくただの『クエラ』として生きる道を父上に与えてもらい、ハンター学園に入学したってわけさ」
お姉さまは、包み隠さず全てを話しました。
確かにお姉さまは誠実な人なのですが、それにしても、少し正直に話しすぎなような気もします。
「ご理解頂けましたか? クラウサス大公令嬢、リグレット様」
「ええ。これで、貴女のことを変に疑う必要も無いと分かりました。同じ学園の友人として、仲良くいたしましょう」
お姉さまとリグが、握手を交わします。
いや――それよりも。
今、お姉さま『クラウサス大公令嬢』って言いました!?




