30 お友達にもなります
「――落ち着いたかしら?」
やがて、私の泣き声が止んだ頃、リグレットさんが優しく言いました。
「はい……ごめんなさい、リグレットさん。お洋服、汚してしまって」
「そんなことを気にしないの。今は、貴女がどうしてこんなに悲しかったのか、それが知りたいのですわ」
その言葉を聞いて、私の胸の中にまた黒いもやもやした気持ちが湧き上がってきます。
「……私、リグレットさんとお友達になれそうだって、そう思っていたのです。でも、リグレットさんはそうじゃないって分かって、それが私、悲しくて」
「それで、逃げ出したのかしら?」
「はい……」
私は頷いて、包み隠さず話します。
「きっと私、またリグレットさんを知らないうちに傷つけて、それで嫌われてるから、お友達になれないんだと思って。そう思ったら、すごく苦しくて、リグレットさんは優しいから、それでよけいに、申し訳なく思ったのです」
「申し訳ない、とは不思議な言い方ですわね。それはどういう気持ちなのかしら」
「えっと……」
どう言っていいか分からず、頭をひねりながら、どうにか本当の気持ちに一番近い言葉を選んで喋ります。
「……私、ダメな子ですから、きっと側にいるだけで人を嫌な気持ちにしてしまうのです。だから、リグレットさんみたいな素敵な人の側にいるのは、私ばかり幸せにしてもらってばかりで、それが貰ってばかりのように思えて、だから申し訳なくて……」
「なるほど、それで二度と近づかない、なんておっしゃったのですわね?」
私はこくり、とリグレットさんの言葉に頷きます。
「……もう、バカな子ね、ファーリったら」
リグレットさんは、呆れたような、けれどどこか嬉しそうな声で言いました。
「いえ――バカなのは、わたくしの方ですわね。ごめんなさい、ファーリ。貴女をそんなにも傷つけるとは、思っていませんでしたの。お友達になれない、というのは貴女を嫌っているから言ったのではありませんわ」
思いもよらない言葉に、私は目を見開きます。
リグレットさんの顔を見ると、優しく微笑んでいました。
「あれは、私と貴女はライバル、というよりも貴女が私にとって目標、倒すべき好敵手だから言ったのですわ。つまり、わたくしが少し格好をつけて、分かりづらいことを言ってしまいましたの」
リグレットさんの言葉を聞いて、私の心は少しだけ軽くなります。
そして、また僅かばかり、期待も湧いてきました。
「えっと……じゃあ、私はリグレットさんに嫌われていないのですか?」
「当たり前ですわ」
断言してくれたリグレットさん。その言葉に、私はドキリ、と胸が熱くなりました。
「わたくしだって、今日は貴女と出会えて本当に良かったと思っていますもの。それが急に、どこかへ行ってしまって……わたくし、貴女に嫌われてしまったのではないかと不安で仕方ありませんでしたのよ?」
「えと、ごめんなさい……」
「いいの、ファーリ。怒っているんじゃありませんわ」
リグレットさんは優しく言ってくれます。
そして、私の頭を撫でながら、頬を合わせてくれました。
親愛の証。それだけ、私のことを大切に思ってくれているということです。
私は嬉しくて、どうにもたまらない気持ちになって、また涙を零してしまいました。
でも、今度流した涙は、きっと甘い味がします。
だって、こんなにも胸の中が、温かい気持ちでいっぱいなのですから。
「ファーリ。仲直りをしましょう。そして、今日から私と貴女は……」
リグレットさんの心地よい声が、私の耳元で囁きます。
「――お友達、ですわ」
その甘い言葉に、私は胸の内を震わせながら、うん、と小さな声で頷きました。




