28 寂しい合格
私は逃げ出してから、訓練場からも離れて、ハンター学園の敷地内をとぼとぼ歩いていました。
一応、今日の目的は忘れていません。
ハンター学園の入学試験に合格すること。
だから、逃げて帰りたくても、合格発表を見に行かなければなりません。
でも……リグレットさんと鉢合わせするのが怖くて、合格発表を見に行くことすらできません。
だから私は、敷地の隅っこに座り込み、呆然と時間が過ぎるのを待っていました。
いずれ、合格発表を見終えたリグレットさんは、立ち去っていくはずです。
それを待って、後から見に行きましょう。
いっそのこと、不合格の方がいい、とさえ思ってしまいます。
リグレットさんに会いたくない。
そんな、後ろ向きの気持ちばかり募ります。
「――こんなところにいたのか!」
急に、大人の女性の声が聞こえます。
見ると、見覚えがあります。今日の試験で、試験官をしていた人です。
「急にいなくなった、と騒ぎになっていたぞ。ほら、立ちなさい」
「……はい」
私は言われるがままに立ち上がります。
「さて、とっくに合格発表の時間は過ぎている。訓練場まで、戻って見に行くかい?」
問われて、私は首を横に振ります。
「そっか。まあ、喧嘩したんじゃ仕方ないかな。……安心しなさい。君は文句なしの合格。今日から聖ヴェルベリア王立ハンター学園の正式な生徒だ」
それを聞いて、安心したような、不安なような、不思議な気持ちになります。
ハンター学園に入学するのは最初の目標の一つ。
でも、きっとリグレットさんも合格しています。
また顔を合わせることもあるはずです。
私が考え込んでいると、その頭を試験官の女の人がぽん、と軽く叩きました。
「暗い顔をしない。今日から君は生徒だ。つまり、私は君の先生ということにもなる。先生の言うことは聞きなさい。いいね?」
「は、はい……」
「よろしい」
女の人は、うんうんと頷きます。
「私はリリーナ。この学園の魔法科の教員をしている。もしかすると、君のクラスの担当になるかもしれないね。その時はよろしく、ファーリさん」
「あ……はい」
どうやら、とっくに私の名前は知られているようです。
まあ、サーチの件でかなり話題になったでしょうから、当然のことではありますが。
「ともかく、今日から君は学園の生徒。これからは寮で生活してもらうことになるんだけど……部屋割りも合格者発表と一緒だったからね。君は行きたくないでしょう。寮まで案内してあげるよ」
「えっと……」
「ん? もしかして、今日からだと都合が悪いのかな?」
「い、いえっ!」
むしろ、それを期待して宿はチェックアウトしています。
そして、荷物は全てストレージの中です。
今からでも寮に行けるのはありがたいことです。
「あの、ありがとうございます……リリーナ先生」
「うん。それじゃあ、寮に行こうか」
「はい」
私は先生に引き連れられ、学園の寮へと向かったのです。




