25 ファーリの秘策
パアンッ、という射撃音。
それが響くよりも先に――私は、予め宣言した通り、補助としての無属性魔法を使いました。
それは、ただ漠然と無属性魔法の魔力を身体に纏うだけの魔法。
しかしそれは、私の魔法耐性の高さと噛み合うと、大きな効果を生み出します。
リグレットさんの放った魔法の弾丸は私の身体に直撃し――そのまま、弾けて消滅しました。
「なっ――!?」
驚くリグレットさん。けれど、私はその隙を逃しません。素早く剣閃を煌めかせ、反撃に転じます。
リグレットさんは原因が分からないながらも、事態は把握し、私の反撃から逃げることに専念します。
どうやら、リグレットさんの魔法弾は私に通じない、ということは分かって頂けたようです。
無属性魔法の魔力を身にまとったのは、魔法弾の衝撃や威力を和らげるためです。
というのも、魔法弾は文字通り魔力の塊。私の無属性魔法の魔力とぶつかると、その威力はある程度分散されます。
そして、私の高い魔法耐性があれば、分散した威力を受け止めることは難しくはありません。
もちろん、痛みやダメージは通っているのですが、弾丸を直接受ける場合と比べれば段違いのダメージ軽減率となっています。
つまり私は、リグレットさんの魔法弾を受けたところで怯みも負傷もしないというわけです。
リグレットさんも事態をおおよそ察知したのか、私との距離を離そうとします。
足元を魔法弾で撃ち、土煙を巻き上げます。
その中に紛れて、リグレットさんは距離をとります。
「――まるで、無敵のドラゴンですわね、貴女!」
一度離れたリグレットさんから、皮肉のような一言が飛んできます。
けれど、私は答えを返しません。
というのも、そこまでの余裕は実際のところ無かったのです。
衝撃を分散して負傷を防いだとは言え、ステータス上ではライフがしっかり減っているのですから。
あくまで怯まず、負傷しないだけの技術。
ダメージはちゃんと身体に蓄積しているのです。
このまま無闇に戦っていても、リグレットさんの弾丸にライフを削られ、倒れるだけです。
私が勝つための手段を思案していると、すぐにリグレットさんが次の手に出ました。
遠距離からの連続射撃に、無数のブリッツ。同時の一斉遠距離攻撃です。
私は素早く移動しながら、これを避けていきます。ダメージの高い銃剣の魔法弾だけは念入りに回避し、ブリッツは当たっても仕方ない、と割り切ります。
ブリッツ程度の威力では、私の魔法耐性をぶち抜くことはできません。ライフも、ほんの僅かに削れるだけです。
しかし、ちりも積もれば、と前世の世界のことわざがあります。
状況が悪化するよりも先に、私は身を翻し、リグレットさんへと詰め寄っていきます。
無数のブリッツを放って集中力を割かれていたのか、リグレットさんは私の行動に対応するのがワンテンポ遅れました。
私が接近するのには十分すぎる時間です。
私の剣戟がリグレットさんを襲います。
リグレットさんは急ぎ、これを銃剣で防ぎます。
そしてもう片方の銃剣で再び土煙を巻き上げようとするのですが――。
「させませんッ!」
私は、その弾道上に自分の足を突き出します。
銃剣から放たれた弾丸は私の足に当たり、弾けて消えます。
私にはダメージが入りますが、まだライフは十分に残っています。
「くッ!」
窮地を脱することが出来ず、リグレットさんの表情が苦しそうに歪みます。
そのまま、私は剣の連撃でリグレットさんを追い詰めます。
一度攻勢に転じれば、私の方が近距離では熟練者です。リグレットさんに体勢を立て直す隙を与えません。
「炎よ、地を焦がす奔流となりて我が敵を――くぅッ!!」
リグレットさんは私の攻撃を受けながら、なんとか高度な魔法攻撃の為の呪文を唱えます。
ですが、近距離とあっては私に邪魔されてそれも叶いません。
そして、無詠唱が可能な魔法では威力が足りません。
銃剣の連撃も、体勢を崩されていては不可能です。
詰みに近い状況でした。
そして、最後の瞬間が訪れます。
ついに私の剣が、リグレットさんの体勢を完全に崩します。
がら空きになったリグレットさんの正面に――剣を突き付け、静止します。
「――勝負あり、です」
私の言葉に、リグレットさんは悔しそうに歯ぎしりをします。
ですが、すぐに疲れたような表情になって、息を吐きます。
「認めますわ。……わたくしの、負けです」
リグレットさんは銃剣から手を離し、両手を上げました。降参の合図です。
「――勝負ありッ!」
試験官の声が響きます。
こうして――私とリグレットさんの模擬戦は決着を迎えたのでした。




