19 魔法実技の前に
魔法実技試験は、リグレットさんの言った通り屋内での試験でした。
訓練場の中に作られた、魔法訓練の為の専用の広い部屋。奥には標的となる無数の的が並んでいます。
この的は、壊れると自動で次の的が出現する仕組みになっているそうです。
かなりの費用を費やして作ったハイテク訓練室なのだとか。
今回の試験では、その的を魔法で撃ち抜きます。
制限時間は1分。その間に、どれだけの的を破壊できるかで成績が決まります。
的を攻撃できるシャープな魔法を扱い、かつそれを持続的に使い続けなければならない。なかなか大変そうな試験です。
ちなみに、魔法適性の無い生徒はこの試験をスキップします。
魔法の失敗などのリスクもあるため、部屋には1人ずつ入室して試験を受けます。
試験が終わると退室。外の廊下で待っている次の受験者と入れ替わります。
ちなみに、部屋には窓もついていないので中を見ることは出来ません。
「それでは、行ってきますわ」
そう言って、リグレットさんが306番さんと入れ替わりで訓練室に入っていきます。
そのまま、暫く無音でした。
普通ならすぐに魔法の音や的が壊れる音などが聞こえはじめるのに。
私が首をかしげると、不意に扉が開きました。
そしてリグレットさんが顔を出し、ちょいちょい、と手招きをしています。
何でしょうか。分からないながらも、私はリグレットさんの方に近寄ります。
「どうしたのですか?」
「特例ですわ。わたくしと貴女はお互いの試験を見学する権限を得たのです」
「えええっ!?」
なんということでしょうか。
どうやらリグレットさんは、試験をするよりも先に、そんなことを試験官と交渉していたようです。
「でも、そんな許可が本当に降りたのですか?」
「ええ。わたくしにかかれば造作もありませんわ」
「そういえば、リグレットさんも貴族だったのですね……」
それを言った途端、リグレットさんは私の服を掴んで、ぐいっと引っ張ります。
「わたくし、貴族だと名乗った覚えはありませんわよ。何故そう思ったのです」
あっ。
またうっかりしていました。リグレットさんは、少し怖い顔をして私を問い詰めます。
「えっと、あの、ダズエル家のことを分かっているようでしたので」
「そんなもの、騎士や軍の関係者でも十分ありえますわ。むしろ、ダズエル家に詳しい人はそちらの方が数も多いですし、可能性は高いはずですわ。……何故、最初からわたくしが貴族であると分かっているような口ぶりだったのです?」
「ほ、ほら、喋り方とかお上品ですし?」
「教育次第ですわ。上品な騎士もおりますし、下品な貴族もいます」
逃げ道を潰されていきます。
「……わたくし、貴女の秘密を他言するつもりはありませんのよ。それでも、どうしてもお教えいただけないのかしら」
それを言われて、私はどきりとしました。
そうです……秘密を作られて、私だってカミさまを相手に怒っていました。
そんな私が、リグレットさんに――お友達になりたい相手に秘密を作るつもりだったなんて。
なんてバカなことをしていたのでしょう。
とは言え、全てを話すわけにもいきません。
私は転生者で、その時に神から授かったスーパーサーチという能力を持っています。
……なんて、言えるわけがありません。
むしろ、嘘を吐いたと思われるのがオチです。
仕方がありません。
ここは、ほぼ真実に近い嘘を吐くしかありません。




