26 終焉の神シュバルツシルト
姿を現したのは、真っ黒な神――シュバルツシルト。
髪は黒、肌は濃い褐色、そして暗色のドレス。
そんな姿の中、ただ一つだけ輝く紫色の瞳。
終焉の名に相応しい、恐ろしげな姿の女の子です。
外見こそ、カミさまと同じく少女のものですが、実際は何百何千年と生きた神の一人なのでしょう。
「あの、カミさま。この人は?」
「終焉の神シュバルツシルト。私と同格の神の一柱で、あらゆる存在の終わりを司る。神の世界に欠かせない一人で……もしも、急にファンタズムを消し飛ばしたとしても、誰も彼女を責めることが出来ない。そんな相手だよ」
言われて、私はなるほどと納得しました。
つまりこの人が、私を殺せる数少ない存在なのですね。
そう思うと、警戒心がいっそう強まります。
「まあまあ、そう警戒せんといてーな。ウチはただな? オモロイもん見せてくれたアンタにお礼言いに来たんや」
「私に、ですか?」
「せやせや。まさかなぁ、ちっと手を加えたぐらいで、アンタみたいにスーパーコード使いこなせる駒が作れるとは思うてなかってん」
駒、という言い方に、つい眉を顰めてしまいます。
それを見て、シュバルツシルトさんはニヤリと笑います。
「そういうとこ、オモロイやんけ。ウチに駒や言われて、機嫌悪うなったか?」
「……そうですね。気分を害しました」
「そりゃおもろいな! 所詮駒のくせしてな! いっぱしの神にでもなったつもりかいな!」
露骨に私を見下したような口調に、つい苛立ってしまいます。
私だけじゃありません。
この人は……自分が転生させたはずの、エシルクロニアのことさえ駒と言ったのです。
恐らくは神でないもの自体を全て見下しているのでしょう。
「まあ、ええわ。今日はな、挨拶ぐらいしとこと思ってん」
「挨拶、ですか?」
「せや。せっかくオモロイことしてくれそうなんやから。これからも、ウチを楽しませてくれな?」
そう言って、シュバルツシルトは次にカミさまの方に視線を向けます。
「それとカミーユ。アンタもウチの為に、こんなおもろいもん用意してくれて、ありがとな!」
「あんたの為じゃないよ。私は、私の為にユッキーを転生させたんだから」
「は? 何言うてんねん。ゆっきぃ? 駒の名前なんぞいちいち覚えとるんかいな! ケッタイな奴っちゃなぁ!」
「駒じゃない」
カミさまは、シュバルツシルトを睨みつけます。
「ユッキーは、駒なんかじゃない」
「おー、こわ! そら結構なことで!」
シュバルツシルトは、わざとらしく怖がるような素振りを演じてみせます。
明らかに、こちらを挑発するような言動。
苛立ちが高まっていきますが、ここは抑えます。
今ここで、シュバルツシルトに手を出してはいけません。
相手は気分次第で私を殺してしまえる存在ですから。
こちらから手を出して、もし本気になられたりしたら……その時が、私の終わりの時です。
悔しいけれど、やっぱり耐えなければいけない時です。
だって私は、まだまだ弱いのですから。
――そんなことを考える私の目には、どんな光が映っていたのか。
シュバルツシルトは、愉快げに私の目を見て笑っていました。
「――ま、今日はこんなところでええわ」
そう言って、私たちに背中を見せます。
「ほな、またな! 次はもっとオモロイ駒を用意したるからなぁ!」
そして、シュバルツシルトは闇の中へと歩きだし、姿を消します。
途端に――闇は晴れて、元の場所に戻りました。
戦いの場所、議事堂跡に。




