24 エシルクロニアの絶望
「そ、そんな幻覚なんぞに騙されるかッ!!」
エシルクロニアは、突然激昂します。
そして――魔法を放ちます。
同時に放たれる無数の魔法。
精密ダメージフローによる即死、コード強制による即死、レリック魔法やマーキングのバグを使った、複雑な即死。
一瞬にして、普通の生物なら何百回と死んでも余るぐらいの膨大な即死攻撃が放たれました。
それに巻き込まれて――私の分身7人に加え、本体の私まで『肉体』は消滅してしまいます。
「ふ、ふふはははッ! 所詮口だけ! この俺様の力であれば、この通り!」
「ほんとですね。すごいのです。私の体を消し飛ばせるなんて、この世界中を探しても中々居ないとおもいますよ?」
私は、そんな得意げなエシルクロニアの『背後』から話しかけます。
「なっ!?」
途端に、慌てて私から距離を取るエシルクロニア。
「き、貴様、どうやって回避した!?」
「かいひ、ですか?」
私は、首を傾げます。
「あんな攻撃、どうしてわざわざ回避する必要があるんですか?」
そして、ニッコリ笑います。
「そもそも、全ての存在はコードで定義されています。それは逆を言えば、コードさえ無事なら肉体がどうなろうと『意味が無い』のです」
「な、何を……?」
私が無事だった仕組みについて語り始めると、エシルクロニアの顔には恐怖が浮かび上がります。
「ですから、私は私自身を定義するコードを完全に保護して、肉体と隔離しました。コードとしてこの世界のどこかに存在する『私』が、レリック魔法で仕上げた『肉体』を操作していたのです」
言いながら、私は次々と自分の姿を増やしていきます。
「まあ、今の私では最大でも12人までしか同時にコントロール出来ませんが。それでも皆さんを守るには十分です」
少しずつ、一度離れたエシルクロニアとの距離を縮めていきます。
「そしてコードが無事である以上――肉体が消し飛ばされても、また作ればいいのです。『私』が無事なら、『肉体』はレリックさえあればどこでも生み出せる。そしてこの世界、レリックの存在しない場所なんてありえないので……まあ、ほぼ無敵でしょうか?」
「くそ、だが、その貴様の本体とやらを消し飛ばせば!!」
「まだわからないんですか?」
私はため息を吐きます。
するとエシルクロニアは、泣き笑いのような変な表情のまま、また固まってしまいます。
「そもそも、本体なんてものがどこにも存在しないんです。私を定義するコードがあるだけなんですよ」
「そ、そのコードのある場所を、貴様のコードを丸ごと消し飛ばせば!!」
「スーパーコードも持たない人に、そんなこと出来ますか?」
私の問いが理解できないのか、エシルクロニアは何も言い返せません。
「まあそもそも、例えスーパーコードがあっても無駄なんですけどね」
「は?」
「私を定義するコードは、常にこの世界のあらゆる座標、あらゆる領域にコピーペーストして、保護してあります。それらも、常に異なる場所に移動し続けています。この世界のどこともわからない場所に存在するコードを無数に、一瞬のうちに消し飛ばさなければいけませんからね。それこそ神でもなければ、どうにもできないと思いますよ」
私の言っている意味が分からないらしく、エシルクロニアは黙ったままです。
まあ、仕方ありませんね。彼では分かりようもない、この世界の根幹の話ですから。
――本来、人を定義するコードは、この世界の『所定の位置』に保管されています。
そう、実は人を定義するコードは、全て同一の場所で、世界によって整理、管理されているのです。
それらのコードが『肉体』のある場所の情報を持つから、肉体と繋がり、個人として行動出来ているわけです。
この繋がりを利用して、コード強制などは人の本体、つまりコード部分に干渉してくるわけですが。
この方法ですと、例えば私の本体が例え肉体をレリック魔法で代替していても、手段によっては私の本体のコードを探し当てることも出来てしまいます。
なので私は、私の本体を定義するコードを別の場所に書き込ませていただきました。
この世界の空間、物質、物理法則――そういった、様々なものを定義する領域の間に。
あるいは――それよりも外。この世界を定義するコードすら書かれていない、空白領域に。
つまり私は、私を定義するコードを、あちこちに隠しているわけです。
そして、その隠し場所も増やしつつ、移動もしています。
ですので、スーパーコードが使えるぐらいでは私自身を定義するコードをどうこうすることは出来ません。
私と同等以上のスーパーサーチ、そしてスーパーコードの練度がなければ無理でしょう。
つまり、カミさまぐらいの存在であればどうにかできるということでもあります。
とはいえ――エシルクロニア程度の実力では、天地がひっくり返ってもありえません。
つまり、最初から私の勝ちは決まっていたようなものなのです。
「それでは――さようなら、エシルクロニアさん」




