17 ファーリ、笑う
視点は戻って、私とエシルなんとかの相対する議事堂跡。
「ふふ、今頃は俺の嫁たちがお前の仲間を追い詰めている頃だろうな」
エシルなんちゃらは、得意げに言い捨てます。
ええ、よく分かっていますとも。
むしろ私は『この目で確認している』のですから、私の方がより理解できていると言ってもいいでしょう。
「……なるほど。さすが、ゴルトランドを制圧しただけはあるのです。ただ力を振り回すだけじゃなくて、ちゃんと適材適所で人を使い分けているみたいですし」
実際、エシルどーたらが油断していて、雑な割り振りをしていたら戦況は大きく違っていたでしょう。
例えばリーベリンネさんはレリック魔法を使いまくりますので、アンネちゃんとお姉さまなら即死させる手段がいくらでもあります。
アンナさんであれば、お姉さまやリグなら物量と攻撃密度で押し切り、ライフを削りきって倒せるでしょう。
フォノンさんは、アンネちゃんと正面から殴り合って大ダメージを食らうはずですし、リグのスレディブリッツの密度にも押し負けるはずです。
そしてミリエラさんは、エリス以外の三人相手では勝負にもならなかったでしょう。
つまりエシルうんたらの采配は、敵ながらあっぱれと言う他ないぐらいに的確なのです。
「ふん、それが理解できているなら話は早い。降伏しろ。そして俺の嫁になれ。そうすれば、お前の大切な仲間たちを傷つけないでやってもいいんだぞ?」
ニヤニヤと、イヤらしい笑みを浮かべるエシルうんちゃら。
――そんな相手に、私もまた、笑って返してやるのです。
「できるものなら、どうぞ? いくらでも、皆さんを傷つけてみせてください」
私が言った途端、エシルクロニアは笑みを潜め、睨みを効かせてきます。
「どういうつもりだ?」
「ふふ。考えてもみてください。たった五人で、敵の本拠地に乗り込むぐらいですよ? 不利な状況、仲間が危険な状況なんて、いくらでも考えうるわけです」
「何が言いたい!」
エシルクロニアは、苛立たしげに声を上げます。
そんなエシルクロニアに向かって、私は意趣返ししてやります。
「つまりですね……私は、この程度の策を弄されても、何の問題も無いよう対策済みだってことなのです」
「対策ぅ? 今更、何が出来ると言うんだ。とっくに離れ離れになった仲間に、今のお前に何が出来る!」
エシルクロニアは、見事に私の煽りに引っかかっていますね。
さて、それでは答え合わせといきましょう。
「――ずっと考えていました。私の身体は、たった一つ。でも守りたい人は何人も居る。どうやって、一緒に居ない人を、側に居ない人を守ればいいのでしょう。そればっかり、本当にずっと、ずっと考えていました」
それこそ――ゴルトランドとの戦いに旅立つより、ずっと前から。
リグを大切な人だと認識してから――幸せを守りたいと思った日から、ずっと考え続けてきました。
その答えが、今日ここにきて意味を持ちました。
「逆転の発想ですよ。一人では足りない。だったら『増えればいい』のです。手が増えれば。足が、身体が――頭が増えればいい。そうすれば、何人でも、いつでもどこでも守れるはずですから」
そう私が見つけ出した答えは、ただ一つ。
――いつだって、みんなと一緒に居ればいい。
シンプルで、単純な答えなのです。




