13 リグレットの苦戦
まず先に注意書きです。
今回から少しの間、地の文がファーリさんの一人称なのにその場に居ない、という状況が続きます。
ただ、これは理由があってのことなので、少しの間だけお付き合い下さいませ。
一方その頃。
リグが飛ばされたのは、王都から北に離れた荒野でした。
そして、対戦相手はリーベリンネ・ソォン・ゴルティフェイスさん。
かつてのゴルトランドの皇帝の娘だった人です。
「……突然飛ばすなんて、感心しませんわね」
リグが、リーベリンネさんを睨みながら言います。
「押しかけ暗殺者に尽くす礼儀なんてありませんわ」
リーベリンネさんも、リグを睨みつけながら語ります。
「……その顔、覚えていますわ。昔の帝国皇帝の開いた夜会でお会いしましたわね、リグレット・ベーゼ・クラウサス様?」
「そうでしたの? 庶民の開く夜会のことなど、いちいち覚えていられませんわ」
リーベリンネさんの言葉に、リグは挑発で返します。
ですが、リーベリンネさんは不敵に笑ったままです。
「自由にほざきなさいな。今日、この場で勝つのは私ですものッ!」
次の瞬間、リーベリンネさんは手を前にかざします。
「猛り狂え、炎神の聖歌よッ! フレアゴスペルッ!」
詠唱が終わり、リーベリンネさんの魔法が発動します。
赤い光の粒が、無数に手から溢れ出します。
そしてリグの周囲を舞い踊り初めて――爆発します。
「くッ!」
リグは身構え、防御の姿勢に入ります。
フレアゴスペルの光の粒は、爆発しても消滅しません。
何度も、何度も爆発を続けます。
「アハハハ! この魔法はね、私が魔力を注ぐ限り永続的に発動するわ! そして、自動で標的である貴女を追尾し続ける! つまり、貴女は死ぬまで終わらない攻撃にさいなまれることになるのよ!」
リーベリンネさんが得意げに語ります。
なんでしょう、こういうテンプレな人って自分のやっていることを解説しないと気がすまないのでしょうか。
ともかく、リグはリーベリンネさんの言葉を聞いて、すぐに防御一辺倒の姿勢を変えます。
痛打を避けつつ、魔法を放ちます。
「――スレディブリッツ!」
リグの得意技です。
糸のような魔法が伸びてゆき――そして、リーベリンネさんの身体を擦り抜けます。
「なっ! まさか!」
「ええ、そうよ! 私は『無敵』のスキル持ち! 貴女のような、削り特化の魔法攻撃を使う相手には絶対に負けないの! 残念ねぇ!」
「くっ……!」
リグは、悔しげに歯を噛み締めます。
というのも、これは私が施した改造に関係があります。
スーパーコードで急激な肉体改造を行えば、命というか、本人の同一性に関わります。
簡単に言うと、無理な改造をすればリグがリグでない別の何かに変わってしまうかもしれないということです。
なので、スーパーコードの改造には上限があり、いくらでも強く出来るわけではありません。
そこでリグ、クエラお姉さま、アンネちゃんの三人は、改造の方向性をそれぞれ別方向に特化させました。
特定の分野に特化し、みんなで支え合えば、倒せる相手が格段に増えるだろう、と考えてのことです。
ですがその代わりに、特化したことで弱点のようなものも出来てしまいます。
リグの場合は、常時無敵だったり、コード強制が必要だったりする敵を倒すのが難しくなっています。
魔法攻撃――ブリッツの性能を高めるために集中した結果、コード強制に関する技術はほとんど持ち合わせていません。
元々、魔法攻撃は通常攻撃やレリック魔法よりもコード強制が難しいという事情もあったりします。
なので――リグは、Sランクの無敵を持つ相手には何にもできなくなってしまいます。
恐らく、リーベリンネさんが正にその無敵持ちなのでしょう。
状況は、かなり悪いと言えます。




