06 少女ハンター、ファーリ
スーパーサーチを使い、王都の地理を把握しつつハンターギルドに到着。
全く、便利な魔法を覚えたものです。この辺りは、正直言ってカミさまに感謝したい気分です。
街の地理を覚えるのに2日ほど使うつもりでいましたが、この感じなら必要無さそうです。
入学試験の日まで、ゆっくり休めるでしょう。
私はハンターギルドの扉を開き、中へ入ります。
ちなみに、カミさまは姿を消しました。白髪赤眼の女の子がワンピース姿で街を出歩いていれば、目立っちゃいます。
そこで私がお願いして、姿を消してもらいました。
私がハンターギルドの中に入ると、たくさんの視線が飛んできます。
それもそうでしょう。ハンターギルドに、普通の10歳の幼女は用がありません。子供が迷い込むような場所でもありません。
なので、私の来訪はかなり突飛な出来事なのです。
「どうしたんだい、嬢ちゃん」
気の良さそうなおじさんが話しかけてきました。
「えっと、実はモンスターの素材を売りたくて」
「ほう。お嬢ちゃん、お使いかい?」
「えっと、そんなところなのです」
話をややこしくしないため、嘘をつきます。
「パパに言われて、ここに来ました。ここに来たら、モンスターの素材が売れると聞いてたので」
おじさんはなるほど、と頷きます。
ちなみに嘘ではありません。ここ、王都に来たのはパパに言われたからですし。ここに来たらモンスターの素材が売れるというのも、元は伝聞で聞いた話です。
「そんじゃあ、嬢ちゃんこっちにおいで。あそこの受付のお姉さんにお願いして、売りたいものを渡すんだ。できるか?」
「はい、ありがとうございます!」
私はトテトテ、と子供らしくちょっと緊張しているようなフリをしながら受付のお姉さんの方へ駆けていきます。
ギルド内の視線の種類が変わったのを感じます。不審な子供への視線から、愛らしいお使いを果たす女の子への視線。
ふふふ。狙い通りです。
私も馬鹿ではありません。伊達に前世で24歳大学生をやっていたわけではないのです。
目立たないための作戦は、既にあらゆる状況を想定して立案済み。このままギルドでの素材売買を何事もなく終わらせてみせます。
「いらっしゃい、お嬢さん。今日はパパのお使いかな?」
「素材を売りに来たのです!」
「うふふ、はいはい。じゃあ、素材を出してくれるかな?」
「はいです!」
受付のお姉さんに言われると、私は背負っていたナップサックをおろし、カウンターに乗せました。
実は、狩ったモンスターの素材は今、このナップサックの中に詰め込んであります。
当然のことです。ストレージを使ってみせたりしたら、目立っちゃいます。
ストレージはレア魔法ですし、それもこんな小さな女の子が使うのですよ?
目立つのはアホでも分かることです。警戒して当然なのです。
当然、最初からこうする予定でした。
なので、道中で狩ったモンスターからは高値で売れそうな素材部分だけ――角や牙、爪だけを剥ぎ取り、死体は魔法で土に埋めてきました。
これも当然です。モンスターは肉や骨、皮から脳みそ、眼球まで素材として売れますが、そんな大量の素材を女の子が持ち込めるはずがありません。
そこで、自然な設定を考えたわけです。冒険者のパパが狩ったモンスターの素材を、おつかいで売りに来た女の子。
完璧です。誰も私がストレージ使いの凄腕魔法使いとは気付かないでしょう。腰から子供用のショートソードもぶら下げていますから、完璧です。
「あらあら、こんなにたくさん」
ナップサックの中身をみたお姉さんは驚きの声をあげます。そして、ナップサックを後ろの方へ受け渡します。他の職員が次々と素材を取り出し、値段の鑑定を進めていきます。
「すごくたくさん持ってきたのねぇ。パパ、強いハンターさんなのね」
「私もモンスターたおしたのです!」
「あら、そうなの?」
「私ね、パパに剣術教わってるの! モンスターもへっちゃらなんだよ?」
「あらあら、うふふ。そうなの。じゃあお嬢ちゃんは未来のハンターさんだね」
「うん!」
何一つ、嘘は言っていない。




