16 リグレットの突撃
お姉さまを殺す、と宣言したリグは、とても獰猛で怒りに満ちた恐ろしい笑みを浮かべています。
そして、私の胸中の問いに応えるように言います。
「ええ、殺しますわ……わたくしの可愛い可愛いファーリを無理やり抱いておきながら、生きている方が無理な相談ですわ」
「い、いえ……その、私もちゃんと断れなかったのが悪いのですし」
「いっぱい吸血されて、その分媚薬を注がれていましたのよ!? そんなのファーリに非はありませんわ! むしろ、冷静さを失わせて勢いで致してしまおうという小狡い魂胆まで見えてきます……ええ、考えるほどに腹立たしい。百万回は殺しますわ」
「ひゃくっ……!? そ、その、いくらお姉さまでも、一回ぐらいが限界ではないかと思うのですが」
「限界ぐらい百万回でも百億回でも越えさせてみせますわ。そして一回殺すたびにきっちりファーリに謝罪していただいて……その後、どうしてそんなことをしたのか聞き出しましょう。全てはそれからですわ」
リグの言葉で、私はようやく殺すという言葉がたとえ話だ、と理解できました。
そして、リグの最後の言葉に頷きます。
どうして、あんなことをしたのか。
それが分からない限り……私はお姉さまを本気で恨むことも、許すこともできません。
「そうですね……わかりました。リグの言うとおりです」
「では、行きますわよ」
リグは私の手を引いて、ベッドから連れ出します。
私もリグに引かれるまま、立ち上がります。
リグがついていてくれるなら、お姉さまともしっかり向き合えるような気がします。
「えへへ……やっぱり、リグは最高なのです」
「当然ですわ。そう自負していますもの。わたくしこそが、貴女にとっての1番であると」
何の気負いも無く、当然のことのようにリグは言ってくれます。
それが嬉しくて、私はようやく心からの笑顔を浮かべることができました。
「では、行きましょう、リグ」
「ええ」
そして――2人でお姉さまの部屋を尋ねたのですが。
「クエラちゃんは帰ってきてないにゃ」
同室であるアンネちゃんが、首を横に振ります。
どうやらお姉さまは、そもそも寮に帰ってきていないようです。
まあ、あれだけ気まずいことをしたのですから、当然とも言えます。
そのまま私たちはアンネちゃんにも事情を話し、お姉さまの捜索を手伝ってもらうことにしました。
その際、アンネちゃんはこうぼやいていました。
「全く……アタシ以外と無理やりしようとするのはやめるんだにゃって言ってたのに、どうして自重しなかったかにゃあ……」
どうやら、お姉さまは定期的にアンネちゃんと致していたようです。
それで吸血の技能ランクが上がっていたのでしょう。
思わぬタイミングで真相が判明してしまいました。
ただ……その話を聞いて、余計に疑念が1つ生まれました。
確かにお姉さまは……女性関係にだらしがないので、ダズエル領では愛人が何人も居ましたし、お屋敷のメイドや女性騎士にも居ました。
時には強引に……無理やり迫っていることもあるのを、私も目撃したことがあります。
そんなどうしようもない性欲の塊みたいな人ですが……相手が嫌がっている時や、越えてはいけないラインみたいなものはよく理解していました。
文句を言えないような気の弱い子、立場が低い子を相手にしていても、すっと途中で諦めるのです。
ようするに、お姉さまは相手が本心では受け入れてくれると分かる時しか、強引な手段には出ない人だったのです。
なのに、どうして今日は私に無理やり迫って……最後まで致したのでしょうか。
やはり、どこか普段のお姉さまらしくありません。
そんな、何とも言えない不安を懐きながら、お姉さまの捜索を続けました。
けれど、結局その日は見つけることが出来ませんでした。
スーパーサーチを使って王都全体を精査しても、見つからなかったのです。
何かがおかしい。
捜索が進むほどに、私たち3人の間でそんな感覚が芽生え始めていました。
そして結局、何の手がかりも得られないままその日を終えることとなるのでした。




