11 お姉さまの様子
「……いきます!」
私は勝負を決めるため、そう言ってお姉さまに向け、ブリッツを撃ちます。
当然、お姉さまはこれを飛行して回避します。
「こっちだってッ!」
お姉さまも、血の粒を周辺にばら撒き、それを操作してこちらに飛ばしてきます。
お互いに遠距離攻撃をぶつけて、相殺します。
相殺のための弾丸と、攻撃のための弾丸が無数に飛び交います。
そんな空間の隙間を抜けて、お姉さまは血の剣を生み出し、空中に浮かんだまま斬りかかってきます。
エクスコルドで迎え撃ちますが、下手に武器破壊してしまうと、搦め手で攻めて来られるので面倒です。
なので、私は虹色の刃の切れ味を落とし、木刀程度の鋭さに変えました。
これで、エクスコルドはただ頑丈なだけの魔法の棒に早変わりです。
魔法の棒となったエクスコルドを駆使し、お姉さまの剣を受け止めます。
お姉さまは空中という踏ん張りのつかない状況でも、剣を見事に使いこなしています。
大地の反発力を利用できない分、飛行の推進力や、打ち合った時の反動などを活かして剣を振っているようです。
口で言えば簡単ですが、実際にやるとなればとてもむずかしい技術。
さすが、お姉さまなのです。
……こうして打ち合っていると、少しずつ理解できてきました。
確かに昨日――リグが言ったように、お姉さまの様子は少しおかしいです。
どこか、必死すぎるように見えます。
気にしなければわからない程度ですが……何が何でもこの勝負に勝ちたい、といった妙な気迫を感じます。
もちろん、勝負に勝ちたいという気持ちは当たり前ですし、以前からのお姉さまにもあった感情のはずです。
けれど、今はどこか切羽詰まっていて、模擬戦程度にしては必死過ぎるようにも見えるのです。
何度もお姉さまの剣が私に襲いかかってきます。
その都度、近くでお姉さまの様子を観察しますが……やはり、どこか表情に余裕がありません。
何が原因なのかまではわかりませんが……昨日の、リグの話が思い出されます。
お姉さまの様子がおかしい。
このままでは、日常が壊れてしまう。
確かに、そうなのかもしれません。
でも、本当にそうなるのでしょうか。
今はちょっとお姉さまにも考えることがあって、それで様子が変なだけかもしれません。
私たち4人の毎日が壊れるような……そんなことが起こるほどだとは、とても思えません。
でも、大丈夫だという保証もありません。
私の胸の中に、昨日の夜も感じた苦い不安が湧き上がります。
これは、良くないのです。
別のことを考えて意識を切り替えましょう。
……昨日の夜と言えば。
普段は毎日リグといろいろ、行為に及んでいたのですが、昨日は気分が乗らなかったので珍しくしませんでした。
そのせいなのか、朝から妙にムラムラしています。
と、意識を切り替えるつもりが、よけいに頭の中がこんがらがります。
そのせいで集中力が乱れて、私はエクスコルドを弾き飛ばされてしまいます。
「――貰ったッ!」
お姉さまはこの隙を逃すはずもなく、さらに追撃の斬撃を繰り出してきます。
「っ!」
私は慌てて、最大限までアーマーの効果を高めます。
そして同時に――血の弾丸の迎撃にまわしていたブリッツも、全て私の方へと集めます。
完全な、全方位からの攻撃です。
当然、逃げることはできません。
お姉さまは慌てて、血の盾を作ろうとしますが、すでに手遅れでした。
私は無数の血の弾丸に、お姉さまは無数のプリズムブリッツによる攻撃を全身に受けることとなりました。
私のアーマーをガリガリと削る音が、嵐の風の音のように吹き荒れます。
お姉さまは盾の形成が間に合わなかったせいで、全てのブリッツを完全に身体で受けることとなっています。
数秒間の、弾幕の雨が止んだ後、その場に立っているのは私だけでした。
お姉さまは……無数のブリッツに身体中を砕かれ、満身創痍です。
荒い呼吸に胸を上下させながら、大の字になって倒れています。
「――勝負あり! 勝者、ファーリ君!」
リリーナ先生の声が響きました。




