01 異名『山帰り』
――それは、私たち『紅き清純』がハンターとしての活動を終え、モンスターから取れた素材をギルドで納品しているときのことでした。
「おう、そこに見えるちっこいのは『山帰り』じゃねーか! 景気良さそうだな!」
後ろから声がかかり、私は振り返ります。
「その、山帰りというのはやめてほしいと言ったのですが?」
私、ファーリ・フォン・ダズエルは抗議の言葉を口にします。
声をかけてきたのは、王都のハンターギルドで活動しているBランクハンターの女性です。
大きな斧を武器にしている女性ですが……実は、名前も知らない人だったりします。
というのも、最近の私にこうして絡んでくる人は数え切れないほどいるからです。
「やめろっつったって、あの白真龍の山が転生の時期に入ってるのに、登って降りて帰ってきたんだろ? そんなの、みんな面白がってやめるわけねえだろ?」
「うぐ……でも、それでも『山帰り』という名前はダサいのでやめてほしいのです!」
「あはは! そうは言っても、みんな陰で呼んでるからな! 白真龍の山から帰ってきた凄腕新米ハンター、通称『山帰り』。今じゃ王都のギルドはもちろん、近くの街まで名声が広がってる頃じゃねえか?」
「それは最悪なのです……」
と、会話を交わした内容のとおりです。
私は転生の時期に白真龍の山へ登って帰ってきたことが原因で、王都でも有名なハンターに名を連ねてしまうことになりました。
ただでさえ、目立つのは嫌いなのです。
なのに……よりにもよって異名は『山帰り』です。
だっさい。
遊んできたのかな? と思ってしまいそうな異名なのです。
まあ、まだまだ子供の身体のままの私には、むしろ山遊びから帰ってきただけのような異名はふさわしいとも言えるのですが。
それはともかく、私は目立つ上、だっさい名前で呼ばれるという状況に陥っているのでした。
しかも……仲間による援護も期待できません。
「良いではありませんの、ファーリ。貴女の実力が誰の目にも認められる、というのは良いことですわ」
リグは、私が人に認められるというのが嬉しいようです。
「異名付きハンターなんて、憧れなんだにゃ。嫌がる意味がわかんないにゃ」
アンネちゃんからは感情面で同意が得られません。
「まあ、人の口に戸は立てられない、と言うからね。諦めるしかないさ」
お姉さまは同情してくれていますが、けれど解決策が無いことをむしろ強調します。
「……はぁ。こんなことになるとは、思っていなかったのです」
私はギルドの受付で納品をしながら、ため息をつくのでした。
さて、五章のはじまりです!
さあさあ、今回は誰が攻略されちゃうのかな?
どうぞお楽しみに!
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