27 圧倒
私はミラークリスタルタートルに向けて駆け出します。
そして急接近すると同時に、その胴体を蹴り飛ばします。
本来なら、ミラークリスタルタートルの技能、ミラーフォースにより私はコード強制を受け、反撃を受けて吹き飛ばされるはずです。
しかし、私が反撃を受けることはありませんでした。
むしろ、ごく自然なことのように、ミラークリスタルタートルの方が吹き飛んでいきます。
ドゴォッ、と轟音を立てて甲羅から地面に落下するミラークリスタルタートルは、何が起こったのか分からない、という様子でした。
甲羅の中から顔だけを出し、きょろきょろと辺りを見回しています。
そして私を姿を見て、私がミラーフォースを貫通して攻撃を通したのだと気づいたようです。
「ギャオオオオッ!!」
私の方を睨みながら、凶悪な咆哮を上げます。
「……そんなに怒っても、勝てないものは勝てないですよ」
私はつぶやき、倒れたままのミラークリスタルタートルに近寄っていきます。
ちなみに、私がミラーフォースによるコード強制を受けなかったのは、以前戦ったモンスターのラセツが持っていた技能、コード強制耐性をスーパーサーチで見て仕組みを理解したおかげです。
コードというものは、1人につき1つしか実行できません。
なので、例えば私がゴーストピアスのコードと単なる遠距離魔法、ブリッツのコードを同時に実行することは出来ません。
もちろん、一瞬ずらすことでほぼ同時に実行する、ということはできるのですが。
で、コード強制というのは他人が指定したコードを実行させられることを意味します。
これを、実行させない為にはどうすればいいか。
ここでコードは1人につき1つしか実行できない、というルールが活きてきます。
例えば私がコード強制を受けた時、そのコードを実行する前に自分で自分に別のコードを実行するよう指示したとしましょう。
すると最後に出された指示が優先されるため、コード強制で指定されたコードは実行されません。
結果的に、コード強制を無視することができるのです。
モンスターのラセツが持っていたコード強制耐性も、これと同じものでした。
ラセツの場合は、コード強制を受けたとはっきり分かる時だけ、コードを新しく実行するという仕組みのコード強制耐性でした。
しかし、それだとコード強制を受けたことが分からなかった場合、強制の無視に失敗してしまいます。
そこで、私は常時コードを実行し続けるという方法を選びました。
自分が今、どういう状態なのかを自分で監視して、その状態に相応しいコードを常に実行しつづけます。
すると、常に確実に、コード強制を無視できるというわけです。
ただ、この形でコード強制を無視するのは、なかなか大変な作業になります。
常に自分自身にコードを実行しなければならない、というのはもちろん難しい作業です。
しかしそれ以上に、実行するコードに問題があります。
適当なコードを常に実行、なんてことをすれば、私は永久に変な言動を繰り返すだけの奇人になってしまいます。
常に実行する以上、そのコードは状況にあったコードである必要があります。
そこで私は、自分自身の身体をきっかけに、実行するコードを選ぶようにしました。
私の身体の状態を見て、現在実行しているコードを確認し、そのコードを続きから実行するように指定する。
そういう仕組みのコードを、私自身の中に書き込みます。
これにより、私は普段通りの動きを阻害せずに、常にコードを実行し続ける、ということを可能にしました。
しかも、仕組み自体が自動的なものなので、私が意識しなくても勝手にこの仕組みは働き続けます。
つまり、私はまったく隙の無い耐性を得たということです。
当然、ミラーフォースなんか何にも恐くありません。
私はひっくり返ったままのミラークリスタルタートルに近づくと、拳を振り抜き、フルパワーで殴ります。
威力はもちろん、ダメージフローが発生するように調整してあります。
強い衝撃と共にミラークリスタルタートルの甲羅は砕け、同時にダメージフローで即死します。
本来なら遠距離魔法でちまちま攻撃し、少しずつ削って倒す相手だったのですが、あっさり倒すことができました。
そして、私がミラークリスタルタートルを倒したことで、影に潜んでいたアサシンウルフたちが次々と姿を現します。
宿主を倒されたことに対する報復なのでしょう。
私はアサシンウルフたちの牙や爪を無数にくらいますが、まるでダメージを受けません。
食らっているのは、実際には私じゃなくてただのレリックアーマーなのですから、当然ですね。
「ふむふむ……なるほど。全攻撃遠距離魔法化、というのはそういう仕組みなのですね」
私は攻撃をくらうついでに、アサシンウルフたちの技能でもある全攻撃遠距離魔法化の仕組みをスーパーサーチで見ながら分析します。
見てみれば、何ということもありませんでした。
ただ単に、自分の攻撃と全く同じ形の遠距離魔法を作り続けているだけなのです。
遠距離魔法というものは、人間の手足ほど自由には動きません。
なので、手で殴る、足で蹴るという動作を1つの遠距離魔法で再現するのは困難です。
けれど、殴る動作の、ある一瞬の形と同じ遠距離魔法を生み出すのは難しくありません。
なので、攻撃動作と全く同じ形の遠距離魔法を、一瞬だけ生み出し、次の瞬間には消すという動作を繰り返せば、攻撃動作と全く同じ動きをする遠距離魔法を再現できます。
アサシンウルフたちが行っているのは、まさにそういう攻撃でした。
この攻撃も、私のコード強制耐性と同じで、自分の身体の状態を見て発動する、自動的なコードです。
例え無数の遠距離魔法を常に使っていても、意識していない以上は負担になっていないはずです。
「でも……この力、私には必要ないのです」
私は、そうぼやきます。
というのも、全攻撃を遠距離魔法で代行するのは、カウンターによるコード強制を受けない為の技術です。
けれど、私はそもそも完璧なコード強制への耐性を持っているので、カウンターを恐れる必要がありません。
つまり、全攻撃遠距離魔法化は私には不要な力なのです。
「というわけで、用済みの狼さんたちにはご退場してもらうのです」
私は、アサシンウルフたちに手をかざします。
「七色の力よ、礫となりて敵を討て! プリズムブリッツ!」
私は、全属性の合成魔法であるプリズムブリッツを発動します。
威力は適当に、莫大な数値にしてあります。
これを、数百――いえ、数千という膨大な数だけ、周囲にばらまきます。
ばらまいたプリズムブリッツは、私を中心にして嵐のように旋回を始めます。
無敵と言っても、アサシンウルフの無敵は完全ではありません。
必ず、隙が生まれます。
なので、辺り一帯を常に攻撃魔法で埋め尽くしていれば、いつかは攻撃が当たるはずです。
私がじっと様子を見ていると、案の定アサシンウルフが1匹、また1匹と倒れていきます。
数分後には、全てのアサシンウルフが倒され、まるで霧のように散って消滅しました。
「――よし、完璧なのです」
想定通りの結果に、私は満足して頷きます。
厄介な技能を持つSランクのモンスターでさえ、難なく全滅させることが出来ました。
確実に、私は強くなっています。
スーパーコードという力の恩恵を感じながら、私はその場を離れ、山頂を目指して駆けていきます。




